8.少女の日常3
主人公と別視点になります
男の人の後ろを歩く。裸足でも付いて行くのに苦はなかった。
私に合わせてゆっくりと歩いてくれているのが分かる、優しい人だ。この時間がどこか心地よいものに感じられて、気が付けば男の人に家についてしまっていた。
豪邸だ。門があるお家なんて初めて入る。敷地の中にはお庭と、なんと井戸もあり、目が回るようだった。井戸では私に水を汲んでくれた。まるでお姫様にでもなった気分だ。
お家の中を汚さないよう、私の体でも楽しんでもらえるようにと丁寧に洗っていく。特にあんな男の匂いをこの人に移したくなくて、はしたないとは思いつつも下も掻き出すように流した。
洗い終わったことを伝えるとローブを脱ぐように言われ、目の前が暗くなる。
ここでするのだろう。よくよく考えてみれば私をお家に上げるわけがない。路上でするよりは何倍も良いと自分に言い聞かせて、姐さんのローブを脱ぐ。
裸なんていつも見られているが、姐さんに比べれば未熟なラインをこの人に見られると思うと恥ずかしく感じられて、思わず体を隠してしまう。ちらりと彼を盗み見ると、お尻や胸よりもずっと上に視線を感じた。
頭?いや、耳を見られている。
お客さんの中には戯れにローブをめくるだけでなく、フードを外したがる人もいた。大抵はそれで終わるが、ある時は罵倒されたり、またある時は値切られたりと、良い思い出がない。
しかし、彼は耳を見ても時に何の反応も示さず、手渡したローブを漁るわけでもなくタライに入れた。そしてもう一度体を洗うことを私に言いつけ、さらには家の上がり方などを説明してくれたのだ。予想が外れて混乱している頭でとにかく頷いて話を聞く。
説明の後にここで待つように私に言うと、奥の方へ姿を消してしまう。変な勘違いをしていた私は恥ずかしくなり、思い切り水を被った。
少し待つと彼が戻ってきて、水に濡れた私を抱き上げる。お姫様抱っこだ。まるで物語のような展開にびっくりしてしまい、変な声が出てしまった。私がドレスではなく裸であることも恥ずかしさを助長させ、腕の中で縮こまることしかできなかった。
彼の腕の中でじっとしたままお家の中に運んでもらい、広々とした部屋のソファに優しく降ろしてもらう。彼は部屋の明かりをつけ、剣を外して、銀色の服も脱いだ。
ついにきた。こんなに広くて明るい部屋でするのは落ち着かないが、すでに覚悟は決まっている。彼をじっとみつめるとここで待つように言い残してまたどこかへ行ってしまう。
気勢を削がれつつも周りを見渡すと、いろいろと高価そうなものが置いてあるのが見えた。万が一にでも壊したら大変だとソファの上で背筋を正す。
視線を彷徨わせていると、彼が銀色の服を脱いだ棚にあった物の一つに強烈に目を引かれた。傷一つないほどぴかぴかに輝く白銀の鎧。光を放っているようにさえ見える。
その鎧をぼーっと見つめていると彼が戻ってきて、体を拭く布と服を手渡してくれる。私に合う服を持っていないと謝ってくれさえした。謝られることなど何一つない。
でも、例えばお姫様が着るようなドレスを貸していただいたとしたら…いや、何を考えているのだ。馬鹿な考えを追い出すように首を振ってお礼を言う。
貸していただいた服は私には大きかったが、とても暖かで柔らかく、清潔で、いい匂いがした。その服に袖を通している間に彼はテーブルの上に食べ物を乗せて席に着く。食事にするのだろう。余ったら頂けるだろうかと卑しい考えが頭をよぎる。
彼に呼ばれて傍に寄ると、ついに尺をしてくれとの要求があった。
食べているところをすればいいのだろうか、テーブルの下に潜り込んでするのは初めての体験だ。なんにせよ姐さん仕込みの技を披露する時が来た。口でしてくれというお客さんはたまにいて、普段は疲れるので嫌なのだが、この人にするのであれば話は別だ。
姐さん教えが蘇る。
「口でやってくれと言われたら相手をよく見たうえでやるんだね。抑え込まれて喉に突っ込まれたら苦しいもんさ。慣れても苦しいのは苦しいからね。嚙まないようにするのも大変だし、何より疲れる。どうせやるんならうまくやって報酬に色を付けてもらえるようにしな。飲んでやるのもウケがいい。アンタの場合は耳の件もあるから微妙だが、おすすめは服を脱いでやることさ。目でも楽しませてやるんだ。その分早く終わるよ。かけるのが好きな客もいるから、服を汚されないってのもある。一石二鳥さ」
私がいそいそと服を脱ぐと彼から静止の声がかかり、意図を尋ねられた。着たままの方が好みなのだろうかと思いつつ、理由を述べる。
私の説明を聞いた後に、彼は私の知らない「しゃく」のやり方を教えてくれた。とにかく精いっぱい頑張ることを伝えて、言われたとおりにお酒を注ぐ。
私は上手く出来ているだろうか。怒鳴られたりもしないので、ある程度はできている…はずだ。美味しそうな匂いに小さくお腹が鳴ってしまうが、少し離れているので大丈夫と自分に言い聞かせる。
何回かお酒を注ぐと彼がご飯に誘ってくれた。ひょっとすると「しゃく」が随分とうまくできていて褒めてくれているのだろうか。そうであれば頑張った甲斐があったと、少し誇らしい気持ちになる。
しかし、食べ残しをいただくどころか一緒に食べるのは想定外で、思わず断りを入れると彼はお家のルールであると言った。それなら従わねばと、気後れしながらも彼の隣に着席する。
すごい量の食べ物があり、どれを食べるか迷ってしまったが一番食べ慣れたパンを食べることにした。カビどころかパサついてもいない、信じられないほど柔らかくておいしいパンだ。きっと高いのだろう。申し訳ないので一つだけ食べて我慢しようと手を止めるとその度に彼がやさしく食事を促してくれる。思わずそれに甘えてお腹いっぱいに食べてしまう。
貴重な満腹感に恍惚としながらも彼に感謝の気持ちを伝えると、味や量の不足はないかと尋ねられた。
こんなに美味しいものをお腹いっぱい食べられたのは初めてであると伝えると、彼はひどく真剣な顔をして私の話に静かに耳を傾けていたのだった。