6.少女の日常2
主人公と別視点になります
ひたすらに道を走る、後ろを振り返ると男がこちらを追ってくるのが見える。夜の仕事をしているせいか私は夜目が効いた。しかしそのせいで声も上げずに追ってくるその姿をはっきりと捉えてしまい、私の恐怖をより増長させる。
助けを求めても人通りの少ないところでは望みは薄い。叫ぶことによって手荒な真似をされるのも怖かった。暴力自体はもちろんであるが、腫らした顔でお客さんを取れるとも思えないからだ。
逃げるにつれて足音が近づいてくるような気がする。思うように走れない、途中で靴が脱げたのは不幸だった。
恐怖に負けて走りながら再び後ろを振り返る。先ほどよりも近づくその姿に恐慌状態に陥ってしまう。男の姿が見えなくなるように道を曲がる。その姿が視界から消えたことに少し安心するが、いつ姿が見えるかが怖くて視線を外せない。
次の瞬間私は何かにぶつかってしまい、意識を手放してしまった。
気が付いた時には、目の前に剣を腰に差した男の人が私を追ってきた男と対峙している姿が見えた。たまに見る衛兵さんよりも立派に感じる。騎士様だろうか。
追ってきた男が何やら言い訳をして逃げていく。助かったんだという安堵感が全身を包む。私がお客さんを取っていたことは黙っていれば大丈夫だと心を落ち着かせる。
視線を落としてそう考えていると、騎士様の足に私がお客さんを取っている証拠がかかっているのを発見してしまう。心臓が止まるかと思った。
私は前も見ずに逃げまどい、騎士様に衝突した時に粗相をしてしまったのだろう。
斬られる、そう思った。
私の足は先ほどの逃走による疲労感と、気が抜けたことによる脱力感、死の恐怖によってまるで動かなかった。とにかく這いつくばって許しを請う。もう私にはそうするしかなかったのだ。
幸い斬られることはなかった。
聞けば騎士様ではなく、探索者だという。姐さんからは冒険者と似たようなものと聞いている。しかし話に聞いたような粗暴な気風とは正反対の、理性的な男の人といった印象を受ける。
先ほどの顛末を話すと、さっきの男に対して腹を立てていた。その姿にひどく惹きつけられる。私のために怒ってくれているからだろうか、自分でもよくわからない。
そんな人に助けてもらった上に足を汚してしまった。私なんかじゃお礼にもならないかもしれないけれど、このまま去るわけにはいかないと強く思った。
「帰っていい」という男の人に食い下がり、しばらくやり取りをすると彼は「ついてこい」と言って身を翻す。
その姿が姐さんの姿と重なって、こんな状況なのに少しうれしくなってしまったのだ。