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18.マギ

 後は食料品とニア用の装備を見繕うと決めてある。まずは荷物にならない装備品だ。



 ニアの装備を改めて確認する。目が合うと笑いかけてくれた、可愛い。いや、そうじゃない。

 上から下まで一見隙が無いように見える。しかし、俺が選定したからこそ足りないものが分かってしまうのだ。



「どうかしましたか?」



 不安にさせてしまったかもしれない。

 この後の予定として装具屋と食料品店に寄ること、お昼をどこかで食べていこうとニアに伝えると、彼女はやや力を込めた表情で一つ提案してきた。


「あの、これからも結構歩くのであれば、ちょっとだけ…きゅ、休憩?していきませんか。静かなところに心当たりがあるんです」



 む、ニアは少し疲れてしまったようだ。それならば装具屋に行くのは後回しにして、お昼を先に食べようかとこちらも提案する。落ち着いたところがいいのであれば、行きつけの酒場の個室を使わせてもらえばよい。あそこなら予約もいらないし、昼なら静かだろう。



「あ…はい。すみません、お気遣いありがとうございます。あはは、実はまだまだ元気なので予定どおりに行きましょう」



 少し残念そうに見えたのは気のせいだろうか。ニアの提案を蹴る形になってしまったからであろうと思い、また今度来た時に一緒に寄ろうと言うと、笑顔で同意していただけた。ふふ、俺も日常のコミュニケーションが板についてきたということだろう。



 さて、話を戻そう。今のニアに足りないもの。そう、常時装備しておける装具である。


 つまりアクセサリー型の魔道具だ。


 このタイプの選定には知識がいる。使い捨て型、チャージ型、任意発動型、常時発動型、攻撃用、補助用…それに加えて形状も様々なうえ、他の魔道具との干渉まであり、複雑である。



 今俺が装備しているのは、左手に装備しているシールドリングがそれである。これはチャージタイプで任意に魔法障壁を作り出すものだ。



 任意発動型のため意識外からの攻撃には無力な点、全方位に展開する障壁ではないので盾のように構える必要がある点、魔道具の盾や常時発動型のシールドリングと干渉して同時に使用できない点などデリットが目立つが、展開する障壁の効果時間と強度はそれらの欠点を補って余りある。前衛として盾を持たない時にはぜひ装備しておきたい。



 しかしニアには不適当である。使いこなすのが難しいものを初心者に勧めるのは愚の骨頂。いつでも無理なく装備出来て、発動は自動もしくは常時展開のものが望ましいだろう。ここは指輪型のプロテクションリングで決まりと思う。



 イヤリングやネックレス、髪飾りといった装飾性の高いものの方が女性としては嬉しいのかもしれない。しかし、身を守るものである、指輪は譲れない。



 頭の中で選定をしているうちに目的地に着いた。わがパーティ御用達の魔道具専門店だ。



 店に入ると店長が俺の姿を目ざとく捉えて声をかけてくる。



「いらっしゃいませ、ようこそお越しくださいました。この度はパーティの目標達成、誠におめでとうございます。当店の魔道具がお役に立てましたこと、こちらとしても大変うれしゅうございます。本日は買い取りでしょうか?お客様の魔道具は一流どころのものが多いため、査定にお時間をいただきたいのですが…」



 相変わらず一気にしゃべる人だ。本人に悪気はないのだが、この癖でクロウに一喝されたこともあったなあと思い出す。こちらとしてはもう慣れたものであるので、パーティの目標達成についての返礼と、今日は連れの装備を買いに来たことを伝える。



「やや、私としたことが。立ち話もなんでしょう、さあ奥にどうぞ。ご案内いたします」



 踵を返し、店員に指示を飛ばしながら歩く彼に連れられて奥の商談部屋へと移動する。




「先ほどは失礼いたしました。改めましてお嬢さん。お初にお目にかかります。私はここ、魔道具専門店マギ、店長のアレクセイと申します。お客様には長年ご贔屓にしていただいております、はい。本日はお嬢さんの魔道具をお探しであると、お見受けいたしますにその装備もなかなかの逸品。着こなしも大変優雅でございますよ。これに見合うものとなると、近辺では本店を除いてありませんでしょう、ああ、失礼、お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか」



 急に長文で話しかけられたニアは目を丸くしつつも自己紹介をする。



「ニア様でございますね、大変良いお名前です。本日はどのようなものをお探しでしょうか。後衛とお見受けしますのでワンドかスタッフでしょうか、色々と取り揃えておりますよ。拡大系がお好みですか?それとも収束系でしょうか、ああ、お客様のご意見をお伺いしてもよろしいですか?」



 アレクセイが止まってくれたのでニア用に身を守るためのプロテクションリングを探しに来たと伝える。また彼女は自分の同居人であり、探索者としての装備を買い求めるつもりがないことを付け加えた。



「…なるほど。すばらしいです。このアレクセイの目が曇っておりました。ニア様の身を守る指輪を贈りたいと。それを私の店で購入されたいと…うう、感無量です。お任せください!完璧なものをご用意いたします。ニア様、しばしお待ちください。すぐにアレクセイがぴったりの物をお持ちいたします!お手を拝借いたします、ふむ、失礼します!」



 ニアの手を少し確認した後にすごい勢いで退室していく。大げさな男である。しかしニアはここでも気に入られたようだ。人に好かれる天賦の才というものがあるのだろう。



 ニアが勢いに押されぽかんとアレクセイの去っていった方を見つめている。やがてゆっくりとこちらを振り向いた。



「えっと、指輪?を買っていただけるのですか?あの、お高いものでしょうし、装飾品のようなぜいたく品を買っていただくのはさすがに心苦しいです。今日は服もたくさん買っていただきましたし…」



 今から購入するのはニアの身を守るものであり、遠慮するようなものではないこと、むしろこれは必須であるのでいつでも身に着けておくことを伝えた。むしろルールですらあるぞ。



「決まりなのですね…あの…指輪にする意味っ」



「お待たせいたしました!お客様、こちらになります。核となるのはターコイズです、ニア様の瞳の色を想起させ、装飾性もさるものながら、危険から持ち主の身を守るとされている魔石です。誰かに無事を祈られて贈られたものはより力を発揮すると伝えられております。お客様からニア様にお贈りされるものとしては最も相応しいと考えました。また、プロテクションリングとしては扱い易い自動発動型を選定いたしております。常時発動型でもよいかと思いましたが、お客様が彼女をお守りするのでしょう。万が一抜かれるような場面では常時発動型の保護強度では不安が残ります。かといって任意発動とのハイブリット型となるとやや大型となってしまい、常時身に着けておくには不便であると判断いたしました。いかがでしょうか」



 うん、パーフェクトな選定であろう。核となる魔石も大きすぎず、指輪のアームからほとんどはみ出さないものを選んでくれたようだ。指につけていても衣類が引っかかったり、自分を引っかいたりしない。常時身に身に着けておくものとしてこれ以上ないだろう。これが良いと、彼に購入の意思を伝える。



「さすがお客様、慧眼にございます。さあさあ、ニア様に指輪をつけてあげてください。ターコイズの伝承をさきほどお伝えしたでしょう」



 そう言われて指輪を手に持つ。ニアに声をかけると恐る恐ると言った感じに右手を出してきた。指輪が怖いのだろうか、店で買うものは呪われていたりしないから大丈夫だ。彼女を安心させるように微笑んで手を取った。



 魔道具というのは余程サイズが合わない限りは基本的にフィットする。指輪型を装備するときは基本的には内側の三本の指に着ける。端っこだとカチカチと物に当たって煩わしいし、小指はもげやすい。

 一つだけつけるのであれば中指がバランスが良いが、身を守る指輪は右手の薬指につけるのが最もメジャーだ。まあジンクスの類なのだが、その指が一番指輪の効果を発揮しやすいとされている。ゲンを担ぐのも我ら探索者のサガであった。



 ニアの薬指に指輪をつけてあげると、アレクセイが満足げに大きく頷いていた。

 彼女はその指を見つめ、淡く微笑みながらはらはらと涙をこぼす。



 えっ!なんかまずいことになった、もしかして痛かったのか?

 ニアは声をあげずにただ泣き、俺はどうしていいのかわからずにそっと彼女を抱き寄せる。

 いつの間にかアレクセイは席を外していた。



 やがてニアは泣き止み、ぽつりぽつりと言葉を紡ぐ。



「ごめんなさい、泣いてしまって。あまりにもうれしくて、夢みたいで、信じられなかったんです。改めて、よろしくお願いいたします、ご主人様」



 とにかく泣き止んでくれて良かった。俺はと言えば、ぽつぽつ語るニアにうんうんと頷くくらいしかできないポンコツぶりであった。知らぬ間に席を外したアレクセイに腹が立っていたが、この様子を見られるのはさすがに恥ずかしい。



 ニアが落ち着いたところでアレクセイが戻ってきた。こいつめ、とジトっとした目で見つめると、にやりといい笑顔で返されてしまった。



「さあさあ、ニア様お帰りはこちらでございます。私めがご案内いたします。その指輪、とてもお似合いですよ。おや、指輪も喜んでいるようです。収まるべきところに収まったと。こういった素晴らしい出会いに立ち会えるのも魔道具を取り扱うもの冥利に尽きる瞬間ですなあ」



 アレクセイは調子がいいことを言ってニアを案内していく。彼と入れ替わるように店員が近づいてきて会計を伝えてきた。


 会計を見て目を疑う、ちょっと額が間違っていないだろうか。これでは買取価格と同等だ、これでは店に儲けが出ないであろうと店員に問うと、装備品の下取りをお待ちしておりますと返される。


 もともとここに買取をお願いするつもりであったが、なんだかアレクセイにしてやられたような気分になった。



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