表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/51

12.少女の日常の終わり

主人公と別視点になります

 下半身の疼きが収まらない。それどころか、彼が黙り込んでから一層ひどくなる。



 そのしびれは全身に回り、このまま体の感覚が無くなってしまうように感じられた。彼に触れている手だけが熱く、この感覚だけが私をつなぎとめている気さえする。私はふわふわとしながら、吸い寄せられるように彼の背中に身を寄せた。



 直後、ごちっという音と共におでこに衝撃が走った。思わず声が出てしまったが、ちっとも痛くない。一瞬彼に触れた体とおでこがじんじんとした甘い感覚に覆われ、こちらを向いた彼に自分は平気であると笑いかける。



 彼が私の体を見つめているのが分かった。初めて見てもらえたなとか、そういえば体を隠してないとぼんやりと考えていると体がふわりと浮き上がる。



 彼が私を抱えたままお家の中をすごい速度で移動していく。



 どこかの部屋に入り、やわらかな場所に降ろされる。私を包み込むような彼の匂い、鈍った頭でもわかった。ここは彼の寝床なのだ。



 彼が私を抱いていいかと問いかけてくる。もちろんだ、喜んでと返す。



 がばりと覆いかぶされた。彼も興奮してくれているのだと思うとたまらなくうれしくなり、私は本能的に最も受け入れやすい体勢をとった。 



 この行為に対して一つになるという表現が使われることがある。私は正しくその意味を知った。二つが一つになるのではなく、一つだったものが二つに分かれてまた一つに戻ったような感覚。



 激しくされるかと思ったが、予想に反し彼は動きを止めて私の名前を尋ねてくる。



 不思議と考えたこともなかった。考えてみれば姐さんにはアンタとかおチビちゃんと呼ばれていたし、他の人にもおいとかお前と言われれば通じた。メスガキ、混ざりものとかの悪口みたいな呼ばれ方もしたが、名前が無くて困ったことはなかった。今の今まで。



 彼の質問に答えてあげられないことを申し訳なく思いながら、自分には名前がないことを告げると、彼は私に名前を贈ってくれた。そばにいて欲しいという意味を込めた名を。



 私は今生まれたのだと思う。姐さんに拾われて死なずに済んで、今、生まれたんだ。



 彼が私の名前を呼び、強く抱きしめてくれる。



 直後、お腹の中がめくれ上がるような強い快感が私を襲った。



 あまりにも強烈なソレはいっそ暴力的ですらあり、自分が掻き消えてしまうように感じて必死で彼にしがみつく。何度も何度もその衝撃は私を襲い、その都度気が遠くなる。意識が飛びそうになっても次の衝撃で覚醒し、また次の衝撃で気が遠のくといった具合だった。下半身は私の意識下から完全に外れ、ただただ貪欲に彼を貪り続けた。



 どのくらいその繰り返しをしていたのだろう。


 永遠に続くかと思われたその時間は、彼が眠りにつくのと同時に終了を迎える。彼が何に対してか「すまない」と呟く。私も目の前がどんどんと暗くなっていき「ありがとうございます」とだけ呟いて、やがて夢の中へ沈んでいった。



 意識を手放す直前、なぜだろうか。今の私は変わってしまうだろうという確信に近い予感があった。でもそれが彼によって齎されたものであれば悪い事ではない、そう思ったのだ。




 姐さんの夢を見た。


 白銀の騎士様のお話を好きだと姐さんに伝えたら大笑いされた時のことだ。あまりにも笑われるものだから私もさすがにムッとしてしまったのだ。



 「悪いっふふ、いや、悪かったよ」



 姐さんはそれでもむっつりと黙り込んだ私に、姐さんの姉さんの話をしてくれた。



 「昔の話だがね、アタシにも姉さんがいたんだ。姉と言っても実の姉じゃないがね。アタシの面倒を見てくれた人なのさ。とてもきれいで、優しい人だった。ある時ね、アタシにこうして物語を聞かせてくれたことがある。白銀の騎士様のお話をね。その話が好きだと言ったら姉さんは笑いながら、あなたにもそんな人が現れたら絶対に離してはダメよ。って」



 そう懐かし気に語る姐さんは、優しい中にもどこか悲しみや怒りが混ざったような不思議な表情をしていたんだ。



 姐さんにそんな人がいたなんて初耳で、本当にびっくりした。姐さんが私みたいに誰かの後ろにくっついて歩いていたなんて、想像したこともなかったけど、それはとてもかわいい光景に思えて思わず口がにやけてしまう。



 「なに笑ってんのさ、アタシがこの話を好きなのがそんなにおかしいのかい?…ふん、まあいい。いいかい?オールインだ。その時が来たと思ったらおチビちゃんの全てを捧げてでも離すんじゃないよ。その騎士様が腕を欲しいというならくれてやれ、そのくらいの覚悟でってことだ。まあそんなことを言うヤツにイカレちまうような事が無いようにせいぜい目を養うこった。目が肥えすぎるとアタシみたいに騎士様が見えなくなるかもしれないけどね」



 私は姐さんもこのお話が大好きなんだということと、姉さんという私にとっての姐さんがいたということに、なんだかお揃いになったみたいでうれしくなり、我慢できずに抱き着いたら振り払われたっけ。



 姐さん。私、ニアは見つけました。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ