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1.最高の戦果

 ダンジョン。いつからあるか、なぜここにあるのかも不明だし、化け物どもがうようよ湧いてくる理由も不明。入っていくやつの大半は生きて帰ってこられないロクでもない場所で、おまけに臭い。しかしながら挑む者たちは後を絶たない。



 ダンジョンの謎の解明や、魔素吸収による肉体強化、自己研鑽といった高尚な理由を掲げるロクデナシもいるにはいるが、大多数は一獲千金を夢見るただのロクデナシである。



「お、こんなところで宝箱とはツイてるな」



 そんなマジョリティなロクデナシへのとびきりのご褒美である宝箱。大抵は化け物どもを蹴散らした後にダンジョンの床に「生える」のだ。今回のように化け物を倒さずに生えている天然物の宝箱を見つけるのは珍しいケースといえる。なぜ生えるのかはわからないが、どうでもいい。中に入っているお宝の方が大事だ。



 リーダーがスカウトに罠の調査を指示し、残ったメンバーには周辺警戒の合図を出す。その合図に視線で了解の意を送り、前衛である俺は宝箱をやや遠巻きにしながら周囲の警戒を行う。床に生える都合上、持ち帰って開錠ってことができない。故に二択だ、挑むか、逃げるか。



「久々だよね、深層での宝箱」



 くすんだ金髪をフードからのぞかせたヒーラーがやや興奮気味に話しかけてくる。



 そう、深層は当たればデカいが、ドロップが渋い。



 話しかけてきたヒーラーのリリアに自分とペアで警戒に当たろうと伝えた。彼女は頷くとこちらに寄り、そわそわと周りを警戒する。こちらもスカウトの様子を横目で伺いつつ気を引き締める。こういう時は奇襲が怖い。その警戒をメインに行うスカウトの意識が宝箱に注がれているため、不意に横合いから後衛に突っ込まれたら最悪死人が出る。



「中身は何だろう、換金しやすいポーションとかだと良いんだけど」



 気が早いリリアに苦笑しつつ急かしてやるなよと返す。中身ごと吹っ飛ばれては泣くに泣けない。



「あはは、わたしが何としても治すよ。即死しなかったらだけどね。まあ中身が無くなるのは困るけど」



 宝箱は浅層では頻繁に出現し、しょぼい中身と凶悪な罠で我々を歓迎してくれる。開錠に失敗してパーティの未来を奪った末に、中身は小銭なんてのはよくある笑い話の一つだ。俺が駆け出しの頃に所属していたパーティもそれで解散に追い込まれたものである。



 半面、深層では遭遇率こそ低いものの見返りは大きい。ベテランパーティを墓場送りにする主要因の一つでもあるが。



 テンションが高めのリリアにつられて俺も警戒しつつ宝箱の中身に思いを馳せる。宝剣、宝玉、魔道具、魔鉱石、貴金属にポーション…



 ポーションといっても止血や軽傷、解毒用等の一般的なものとは次元が違う。



 若返り、難病や大きな欠損すら難なく治療するポーションは、エリクサーやエリクシール、霊薬といった名でも呼ばれており、深層の宝箱から得られるものとして有名である。その奇跡みたいな効果は昔からブルジョワな人々を惹きつけてやまず、我々が命を懸けるに見合った値段で取引されるものでもあった。



「まだ装備にお金かけるつもりなの?」



 そのつもりだが、これ以上の装備となるとそうそう見つかるものでもない。それに加えて今の装備に愛着もあるので今はリリアみたいに貯め込んでいることを明かす。



「人を守銭奴みたいに」


 口をとがらせて抗議してくる彼女を適当にあしらいながら自分のブレストプレートを一撫でする。チェインメイルとセットになっているこの防具は総ミスリル製の魔道具であり、重さに見合わぬ防御性能を秘めている。



 丈夫で軽い。動きを制限されにくく、音も静かで見た目もよい。俺の持つ装備品の中でもトップクラスの高級品だ。剣と盾と共に数々の死線を支えてくれた戦友である。



 俺は装備一式を魔道具で揃えている。まあ、ベテランであれば複数所持しているのは珍しくもない。現にパーティメンバーはそれぞれ自分に合った魔道具を複数装備している。しかし、俺ほど金をかけているのは稀だろう。



 命が簡単に消し飛ぶこの業界では、金はあればあるだけ使うといった刹那的な生き方をするものは多い。必要な装備を揃えたら女、酒、クスリ、博打、はたまた借金の返済など人それぞれであろうが、俺の場合はちょっとした理由もあって装備品の更新や身の回りへの投資といった形であっただけだ。



「装備品は売るときに時間がかかるし、すぐに現金化しようとすると足元見られるじゃない。貯めといたほうがいいよ、絶対」



 それはそうであるが、命には代えられない。装備品のおかげで拾った命が何個あるのだ。



「まあ、前衛は特にそうかもね。わたしだってそのおかげで助かったことがあるもの。でもさ、そろそろだよ」



 そろそろの意味を訪ねようとした時、罠を調査していたスカウトが声を上げる。



「爆発罠だ。どうする?」

「…解除してくれ、リリア、ロマの二人は補助を頼む」



 全員に緊張が走る。罠の解除に失敗した時は最悪全滅を覚悟しなければならない。



 ヒーラーのリリアとマジックユーザーのロマがそれぞれ保護魔術をかけてまわる。解除に失敗した時即死の確率を少しでも下げるためだ。



 ダンジョンでの探索を繰り返すことにより、体は魔素を取り込み適合、強化される。目は素早く動くものを容易に捉え、暗闇を見通せるようになるし、体は強く、疲れ難くなる。


 深層に挑むうちの後衛だってヒヨッコ前衛よりは丈夫だが、深層の罠に耐え抜くほどではないだろう。 俺であっても至近距離で炸裂した場合、欠損で済めば幸運といったところか。試す気もないが。



 俺に後ろにはリリアが陣取る。宝箱を挟んだ向かい側にもう一人の前衛が盾を構え、その後ろにはリーダーとロマが陣取ったのが見えた。指向性の爆発だった場合、ひと塊でいて運が悪いと全滅だ。散らばるのが鉄則。一番生き残りやすい位置にヒーラーを配置するのだ。うちの場合は俺と俺の防具の後ろということ。


 体内の魔力を活性化させ爆発に備える。盾を構える手に汗がにじんだ。少し離れている上に2重の保護魔術、さらに盾越しでもこの緊張感。スカウトってのはすごいと心から思う。俺よりも頭のネジが多めに外れているのだろう。



 静寂の中、カリカリと開錠音が響く。誰も一言も発しない。間抜けなセリフが遺言になるのは御免だ。


 不意にカチリと音が鳴り、誰かのため息が漏れる。



「成功だ」


 スカウトが疲労をにじませた声で報告してくる。何度聞いても最高のセリフだ、さすがはパーティで惚れる役割No.2である。(俺調べ)ちなみに不動のNo.1はヒーラーだ。死につつあるところを救ってもらえばそりゃあ好意を持つなって方が難しい。



「お疲れ様」

「よくやった!」

「見事」

「さっすがー!」

「素晴らしいね」


 皆口々に惜しみのない称賛を浴びせる。



 その声に軽く手を挙げて答えつつ、スカウトは宝箱をゆっくり開ける。最初にお宝とお目見えするのは開錠したものの特権でもあった。



 「これは…驚いた」



 いつも冷静なスカウトの声がやけにはっきりと聞こえた。あいつも驚くことがあるんだなと変に感心する。



 宝箱の中にはこれまで経験したことのない量の宝が収められていた。スカウトが手際よく選別していく。貴金属などの即換金できるものはこの場で等分し、高価な品は協会の査定の後にしかるべきルートで捌くためだ。



 戦利品として、一本で人生が買えるほど高価なポーションが四本、いくつかの魔道具に、古びたスクロールが数本。魔力を帯びているであろう鉱石類に加え、各々にはこぢんまりとした家が買えるほどの換金アイテムが配分される。まさに大戦果であった。



「やった…!すごいよ…!どうしよう…!?」



 リリアは声を抑えつつも大興奮だ。俺だって叫んで皆にハグして回りたい。他の仲間だって似たようなものだろう。こんな大当たりは数年に一度聞くかどうかであり、それが今ここに、俺たちの目の前にあるのだから。



「ポーションは割れるとまずい。後衛で等分。一本は君のマジックポーチに、スクロールはロマが。その他は前衛で分けて持つ。必ず帰るぞ」



 浮つきつつあったパーティをリーダーの一言が引き締めた。リーダーからポーションを受け取り、マジックポーチへと収納する。そして剣と盾の柄を強く握り、ゆっくりと息を吐く。そうだ、絶対に帰ると強く意識する。



 しかし、その帰り道は不思議と化け物に遭遇することはなかった。若干の肩透かしはあったものの、平穏無事は何よりだ。地上の明かりに目を細めつつ、湧き上がる興奮を抑えきれずに歓喜の咆哮を上げた。



 唐突にリリアが嗚咽を漏らす。ムードメーカーの彼女の姿に面食らうが、今回の成果がよほどうれしかったのだろうと一人納得する。リーダーも何かを堪える様に俯きながらリリアに手を貸してやり、一行は協会へとゆっくりと歩き出す。



 他の仲間たちもどこかしんみりとしていて、さっき叫んでしまった俺は気恥ずかしさを覚えたが、つられて泣きそうになってしまった。


一人称のみで進みます。

地の文章も誰かのフィルターを通しているので真実とは限りません。

こんな感じですがよろしければお付き合いください。

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