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さて、残る問題は保育園だ。
蕗子は早速ホテルのキッズルームに入り、受付の女性に事情を説明して責任者を呼んでもらった。
幸いなことに、ホテルを出ても短期間であればここで子供を預かってもらえるらしい。その間に保育園を見つけるなりなんなりすれば、なんとかなりそうだ。
まるで夢でも見ているような心地で、蕗子は部屋に戻った。将太はまだ遊びたがっていたので、キッズルームに預けたままだ。保育料は時間制なので連れて帰りたかったが、仕方がない。
部屋に入るとすぐ、蕗子は携帯電話を取り出した。まだ仕事中だろうな、と思いつつ、亮の携帯に電話をかける。
「はい」
亮はすぐに出た。蕗子はほっとしたように微笑み、仕事中にごめん、と断った。
「いや、いいよ。ちょっと待ってて」
がたがたと席を立つ音が聞こえてくる。どうやら事務所から出たようだ。
「もしもし。ごめん。なんだった?」
蕗子は罪悪感に顔をしかめた。
「こっちこそ、ごめん。やっぱりお仕事中にかけるべきじゃなかったね」
「いいって。今は特に忙しくもないから。それより、こんな時間にかけてくるぐらいだから、よっぽどのことだろ」
そう言われると、余計に罪悪感が増すではないか。蕗子は申し訳なさそうに話し出した。
「よっぽどのこと……でもないんだけど。アルバイトと、アパートが見つかったの。それを報告したくて」
「えっ、見つかったの? 絶対無理だと思ってたのに」
ずばりと言われて、蕗子は笑いだした。
「そうなのよ。私もびっくり。て言うか、こっちで知り合った人がすごくいい人でね……」
蕗子が事の顛末を話している間、亮は一言も口を挟まずに黙って聞いていた。いつものことなのでさほど気にすることなく話し続けていたが、その無言の行には意味があったらしい。蕗子が話し終わった途端に、亮が胡散臭そうにつぶやいたのだ。
「そいつ、本当に信用できるのか? なんか怪しいなあ。あまりにもタイミングが良すぎるじゃん。しかも、会ってから二日やそこらの人間の保証人にまでなるって、単なる馬鹿かかなりのお人よしだぜ。蕗ちゃんから聞いた感じじゃ、そのどっちでもなさそうだけどな」
亮にそう言われると、津本に対する信頼が根底から揺らぐ。蕗子は困ったように黙り込んだ。
「こう言っちゃ悪いけど、蕗ちゃんはかなりのお人よしの部類に入るからなあ」
「えっ、うそっ」
蕗子がびっくりしたように言うと、亮は笑い出した。
「うそっ、じゃないよ。自覚ないのか? 大体、会ったばかりの奴をそこまで信用するなんて、お人よし以外の何物でもないよ」
そう言われればそうだ。
「今、俺の言葉に納得したろう」
ずばりと言い当てられて、蕗子は言葉に詰まった。まるでそばで見ているかのように、亮がげらげら笑う。
「そら見ろ。いちいち人の言うこと全部を信用してたら、しまいに何がなんだかわからなくなるぞ」
「だ、だって、亮ちゃんとは長い付き合いだし、私よりもちょっとは年上だし、亮ちゃんのほうが正しいのかなあって」
受話器の向こうから、亮のため息が伝わってきた。
「人を信用するなとは言わない。俺のことも信用してくれていいさ。でもな、初対面に近い人間のことはもうちょっと用心深く観察しなくちゃ。どうもあんたにはそういう危機管理能力ってもんが欠落してんだよな」
「そうか……。うん、わかった……」
「まっ、そのお人よしって言うか、素直なところが蕗ちゃんのいいとこなんだけどさ」
蕗子はぷっと吹き出した。
「もうっ、じゃあ、どうしろって言うのよ」
ははは、と笑ってから、亮は蕗子を安心させることを教えてくれた。
「あれから、あいつら来ないぜ」
突然話題が切り替わったことにも驚かず、蕗子はその言葉に飛びついた。
「ほんと?」
「ああ。しばらくは毎晩あの弁護士先生が来てたようだったけど、最近は見ない。あきらめたとは思わないけどな。裁判のことは、今ゲンが調べてるけど、蕗ちゃんの言うとおり、かなりこちらの分が悪いことは悪いらしい。どちらも血縁関係があって、未婚で、けどあっちには親等の近い祖母がいる。財産もある。個人的な条件は同じだが、周りの条件が違いすぎる。まともにやりあったら、やばいそうだ」
やっぱり……。
蕗子はため息をついて目を閉じた。
「でも、今までのことも考慮してもらえると思うんだ。素人考えかもしれないけど。誠さんは親父さんに勘当されてたんだし、将太だって蕗ちゃんの方になついてる。離婚した夫婦の親権争いだって、大体妻の方が勝つじゃんか。それと似たようなケースになるかもしれないぜ」
「うん、そうね。そうかも」
半ば、自分に言い聞かせるようにつぶやく。
「亮ちゃん、ありがとう」
すると亮は照れたように笑った。
「改まって言うなよ。それより、その津本って奴のこと、気をつけろよ。今はどんな些細なことでも命取りかもしれないからな」
命取りとは大げさだが、今の蕗子はまさにそんな心境だった。
「うん。わかった。また何かあったら連絡する」
亮の返事を聞いてから、蕗子は電話を切った。
命取り、か。
確かにそうだ。将太のことでごたごたしているこんな時に、あまりにもタイミング良く登場してきた人だった。
あんな大企業にアルバイトが決まったことも、社長に面接してもらったことも、見ず知らずの女性のためにアパートの保証人になってくれたことも、そういう目で改めて見てみると、あまりにも不審なことが重なりすぎている。
認めたくはないが、津本の魅力的な容貌に惑わされていたとしか思えない。普段の蕗子は慎重な性格なのだ。
かといって、アルバイトもアパートも、今は喉から手が出るくらい欲しいものだ。遺族年金や、姉夫婦を死なせてしまった加害者から毎月決まった額が振り込まれてくるとはいえ、それぐらいでは生活はやっていけないし、遺族慰謝料は、将太のために残しておかなければならない。
多少のことには目をつぶって、とりあえず今は津本の好意に甘えておこう。そして、これ以上干渉されるのだけは断ろう。恩知らずと思われようがなんだろうが、私には義務がある。将太を守るという義務が。
そう決意すると、蕗子は手早く荷物を詰め始めた。アパートには今すぐにでも入ってくれてかまわないと言われて鍵ももらっている。夕食の前に車で荷物を運んでくれると津本に言われていたが、それを真に受けている場合ではないだろう。
幸い荷物は大して多くもないし、アパートも駅から近かった。蕗子はホテルのフロントで今までの宿泊費を清算してから、荷物を持ってアパートに向かった。
アパートに着くと、掃除機がないことに気付いた。わざわざ買うのももったいないとは思ったが、掃除機がない生活なんて考えられない。大家がアパートの一階に住んでいたので近くの電気屋の場所を聞いて、すぐに買いに行った。
一通り掃除を済ませ、持ってきていた服を小さなクローゼットにしまうと、もう引越しは終わりだった。蕗子は冷蔵庫の中をのぞきこんで電源が入って冷えていることを確かめると、朝食の材料を買いに近くのスーパーに走った。
調理道具は必要最低限のものがそろっていたので、お箸やお茶碗などの小物と、食材だけを買って帰ってくる。そうこうしているうちに、時刻は夕方になっていた。
蕗子は慌ててホテルに戻り、将太を連れてロビーで津本が来るのを待った。
津本は約束の時間通りにロビーに現れた。さっと視線を一巡させて、蕗子と将太の姿を見つける。彼の顔に、やさしい微笑が浮かんだ。
不意に、周りの喧騒がやんだ。ホテルのフロントらしくざわついていたのが、静寂に包み込まれたのだ。
その原因が津本の登場であることは、疑いようがなかった。ロビーにいる女性という女性全員が津本を見つめ、男性でさえも津本の堂々とした姿に羨望のまなざしを投げかけているこの状況では。
確かに、みんなの気持ちは良くわかるわ。
初めて津本に出会ったときの自分の反応を思い出して、蕗子はあきらめたようにそう思った。
しかし、そんな雰囲気の中で自分が彼の待ち合わせ相手だと思われるのは、まったくもってありがたくない。特に、彼の上品なスーツにふさわしいとは思えないこんなジーンズ姿のときには。
蕗子は不承不承といった様子でロビーのソファから立ちあがった。自分に向かって歩いてくる津本の姿を眺めながら、こんなところで待ち合わせをしたのは間違いだった、と痛感する。彼の並外れた容姿のことを考慮に入れていなかったのだ。
ふと、殺気立った視線を感じて振り向くと、蕗子は全女性の敵とでもいうような目で睨みつけられていた。
「荷物は?」
そんな周りの様子などどこ吹く風といったふうに、津本が訊く。蕗子は、私はこの人とはなんのかかわりもありません、と叫び出したくなるのを我慢して、不自然な笑みを唇に貼りつけた。
「とりあえずここを出ましょう」
蕗子の鋭い口調に軽く眉を上げたくらいで、津本はそつなく蕗子をエスコートしてホテルを出た。
「で、荷物は?」
鋭い視線の矢から逃れることができてほっとした蕗子の顔に、今度は本物の微笑が浮かんだ。
「実は、もう引っ越したんです。荷物なんて大して多くなかったし、津本さんのおかげでアルバイト探しも終わって暇ができたから」
すると、津本はたちまち憮然とした表情になった。
「僕が運ぶと言っておいたのに」
あらまあ。女性には力仕事をさせるなと言われて育ったんだわ、この人。
「それほどのことではありませんでしたから」
それ以上言わせないように、きっぱりと宣言する。津本は探るように蕗子を見た後、軽くため息をついた。
「じゃあ、もう手続きなんかもすべて終わってるんだろうね」
手続きというのがホテルの清算と細々した買い物のことを指すのなら、その通りだ。だが、アパートの方の手続きは津本があれよあれよという間にやってしまったではないか。
「ええ、まあ」
「ということは、食事が終わったらアパートの方に送っていけばいいのかな?」
「ええ。お願いします」
「わかった」
どうやら、津本にとって女性は庇護するべき立場の生き物で、面倒な事務処理や力仕事をなすべき存在ではないらしい。というよりも、彼の周りにいる女性がそういう人ばかりなのではないだろうか。
確かに、津本には他人に逆らえさせない威圧感があるし、またアパートの手続きひとつ取ってみても世慣れていて処理が迅速だ。外見がどうこう言うよりも、それは持って生まれた資質、性格というものだろう。
蕗子が将太と一緒に後部座席に座るのも、津本の気に触ったようだった。だが、三才の子供を後ろの座席に一人で座らせておくわけにはいかない。そのことが、独身の津本にはわからないのだろう。
いや、本当に独身なのだろうか? 亮から「信じやすい」と言われたことがよみがえり、蕗子は顔をこわばらせた。
こんなに積極的に誘いをかけてくるのだから当然独身だと思い込んでいたが、確認したわけではない。まったく、亮ちゃんにお人よしだと言われても仕方がないわね!
「ひとつ、訊いてもいいですか?」
車が動き出す前に、蕗子は慎重な口調で切り出した。津本が振り返り、蕗子の真剣な顔を見る。
「いいよ」
「独身ですか?」
何を想像していたにしろ、その質問は予想外の内容だったらしい。津本は虚を突かれたように黙り込み、その一瞬後に笑い出した。
むっとした顔の蕗子を見て、また笑う。やがて彼は必死で笑いをかみ殺しながら、蕗子に謝った。
「ごめん、ごめん。笑い事じゃないよな。妻帯者から誘われたら、確かに厄介だ。でも、僕は正真正銘独身だから、安心していいよ」
その言葉は、信用してもいいと思えた。蕗子は安心したように微笑み、シートに背をもたせかけた。
津本が連れていってくれたレストランは、昨日とは違ったが、やはり居心地の良さそうな店だった。
津本が何事か相談するようにウエイターと話しているのを横目で見ながらメニューを見たが、蕗子にはわからない名前ばかりだ。かろうじてパスタぐらいはわかったので、イタリアンレストランかな、と当たりをつけられたが。
「シェフのお任せにしようと思うんだが」
津本がさりげなく言う。蕗子は安心したように微笑んで、私もそうします、と答えた。
料理はおいしかった。将太にもちゃんと子供用の料理が運ばれてきて、機嫌良く食べている。細かく切った野菜がたくさん入っているのを見て、蕗子は興味深そうに将太の皿を眺めた。将太の嫌いなにんじんやピーマンも入っているようだが、文句も言わずに食べているところを見るとおいしいのだろう。
ちょっと味見してみて、蕗子は頷いた。確かにおいしいわ。
津本が可笑しそうに、だがどこか困惑したように自分を眺めていることに気付いて、蕗子は頬を赤らめた。
「この子、ものすごく頑固な野菜嫌いなの。だから参考にしたくて……」
すると、津本の目元がふっと和んだ。
「ああ、わかってる。……きみは、将太くんのことをものすごく大事に思っているんだなと感心してたんだ」
その言葉を聞いて、蕗子はきょとんとした。
「子供を大事に思わない大人なんて、いるのかしら?」
天真爛漫な台詞に、津本の唇がゆがむ。
「そりゃあいるだろう。でなければ幼児虐待なんて言葉はそもそも使われないさ」
あ、そうか、と納得して頷く蕗子を、津本はつかみどころのない複雑な表情をたたえた目つきで見つめていた。
「将太は、特別な子だから」
蕗子は自分の言葉に納得したように頷きながらつぶやいた。
「面接の時にもお話しましたけど、私の両親は早くに亡くなりました。他に親戚もいなくて、身内は姉だけになってしまったんです。その姉が亡くなって……かなり、落ち込んだ時があって……」
しんみりとした口調を振り切るように、蕗子は明るい声を出した。
「でも、私には将太がいた。将太はまだこんなに小さいけど、私にとっては生きる支えなんです」
また見ず知らずに等しい人間にこんなことを話している。そのことにはっと気付いて、蕗子は用心深そうに黙り込んだ。
急に黙り込んだ蕗子の様子に気付いているのだろうが、津本はそのことに関しては何も言わなかった。ぽんぽんと蕗子の手をテーブル越しに叩いてから、黙々と食事を続けている。蕗子には彼が亮の言うような挙動不審な人物とはどうしても思えなかった。
その後はまた津本が無難な話題を提供してくれて、蕗子は楽しい時間を過ごしていた。将太があまりぐずぐず言わなかったことも大きく関与してはいたが。
アパートの前で車を止めると、津本はまた素早く降りて後部座席のドアを開けてくれた。うつらうつらしている将太を抱き上げようとしている蕗子の腕を押さえて止め、先に車から出るように促す。
蕗子が不承不承という様子で車から出ると、彼は後部座席に身を乗り出して、軽々と将太を抱き起こした。そのまま、優雅な動作で車から出る。
「ドアを閉めてくれないか」
将太を抱き取ろうとする蕗子をけん制するように、津本が言う。蕗子は車のドアを閉め、彼がリモコンキーでロックするのを苛立たしげに見守った。
「もうここで結構ですから」
蕗子がそう言った時には、津本はすでにアパートの外階段を上がり始めていた。
「こんなに重い子を上まで運ぶのは無理だよ」
決めつけるように言い、すたすたと上がっていく。
確かに将太は三歳の子供にしては大柄な方だし最近は抱っこするのも一苦労だが、それでも蕗子には親代わりだという自負がある。きみにはできないと頭ごなしに決めつけられて、かちんときた。
急いで階段を上って、大股に歩く津本を追いかける。彼はあっという間に蕗子が借りた部屋の前に着いていた。
「将太を返して」
蕗子が憤懣やるかたないといった表情を浮かべているのを見て、津本はおや、というように眉を上げた。
「別に、取って食うわけじゃない」
おどけたように言う彼には取り合わず、蕗子はむっとしたまま彼に両手を突き出した。将太を渡せ、と無言で訴えながら。
「わかった、わかった。でも、その前に鍵を開けた方がいい」
それはもっともな発言だったので、さすがの蕗子も無下にはできなかった。乱暴に鍵を取り出し、さっさと開ける。それから彼に向き直って腕を突き出すと、津本はやっと将太を渡してくれた。
「何を怒ってるんだ。手助けしただけじゃないか」
呆れたように言う津本を、蕗子は睨みつけた。
「私を何もできないお嬢さんみたいに扱うのはやめてください。私は今までずっと将太の面倒を見てきたし、姉が亡くなってからは生活を一人で切り盛りしてきたんです。あなたが思うほど無能でもなければ、非力でもない。フェミニスト面して私の仕事を横取りして欲しくないの」
しばらく、津本は蕗子の真意を探るように、じっとその表情を見つめていた。彼の厳しい、微かに狭められた目の表情は蕗子には読み取れない。彼が何を考えているのかと思うと、背筋に寒気が走った。
「悪かった」
津本の口から出た素直な謝罪の言葉に、蕗子は目を見開いた。
蕗子の驚いたような表情を見て、彼が肩をすくめる。
「そんなつもりじゃなかったんだが。気を悪くしたなら謝る。すまなかった」
それを聞いてうろたえたのは蕗子の方だ。困ったように津本の顔を見上げ、彼の澄んだ瞳を見て目を伏せる。恥ずかしかった。彼の行動を邪推したことも、子供のように駄々をこねたことも。
「い、いえ……、その……、私も、ごめんなさい……」
しどろもどろになりながら蕗子が言うのを、津本はかすかに微笑みながら眺めていた。
「いや、出会ってからまだ二日目だということをうっかり忘れていた僕が悪いんだ。きみが僕のことを信用できないのは当然のことだし、理解できる。気にしないでくれ」
「で、でも、あなたは私の保証人になって下さったのに……」
津本がひょいと肩をすくめた。
「それだって、きみを信用させるための罠かもしれないだろう? 用心するに越したことはないよ。きみの反応は正しいさ」
でも、そんなことを言う詐欺師がいるだろうか?
蕗子は混乱した頭でそう考えた。
「だが、仕事の面だけは信用して欲しいな。明日、八時半に迎えに来る。あ、将太くんのことは?」
彼の話についていくのに苦労しながら、蕗子は答えた。
「え? えーと、あ、将太のことね。もう少し、ホテルで預かってもらうことになりました」
「保育園の心当たりはあるのかい」
「いえ、まだ、そこまでは……。明日にでも会社の近くにないか調べてみます」
「そう。じゃあ、八時過ぎのほうがいいかな。一旦ホテルまで行かなければならないし」
「いいえ! 先に電車で連れていっておきますから。これからしばらくはそうなるんですから、慣れておかないと」
その言葉に津本の口が反論するように開かれたが、蕗子の頑固そうな目つきを見て、言葉の代わりに大きなため息を吐き出した。
「きみは手ごわい交渉相手だよ」
苦笑しながらそんなことを言う津本に、蕗子は満足そうに笑いかけた。
「光栄です」
最後にほんの数秒、蕗子の顔を見つめてから、津本は帰っていった。
両親を事故で亡くした未成年者は、収入面でもっと手厚く保護されていると思いますが、執筆当時の筆者はそのあたりに関して無知だったので、こういう内容になっています。
今更その設定を変えると大量に修正しなければならないので、お目こぼしください。