表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/61

第57話 再会-独覚

 四人の仙人と三人の道士は、小さき獣たちに見送られ、まだ暗いうちに崑崙(コンロン)を発った。

 青錫君(ショウシャククン)は四日間で二十回ほど占ったが、この日、この時が良いという結果が変わることは、ついぞなかったと言う。


 一行は黄頂山に程近い町に舞い降りると、そこからは低空飛行で向かった。

 朝の清涼な空気がにおい始めてきたが、東の空が白むまでには、もうしばらく時が()る。


 白銀君(ハクギンクン)は「少し奥を見てきます」と言って、黒鉄君(コクテツクン)を伴って緑の中へ進んだ。


 黄金君(オウゴンクン)が、金色の円盤めいたものを取り出す。

 それを見ながら、いわく、

「奴はすでに頂上らしい」


 (ヂワン)が脇から覗き込んで言った。

「範囲内の人の所在がわかる宝貝(パオペエ)ってとこっすか?」


「区別もできんし、町中では使い物にならんが、石子の術のような隠蔽は効かぬ」

「なるほど。で、俺にはどうも、周りにも二つほど、点があるように見えますが」

「奴の手下だろう。ちなみに、これでわかるのは人間だけだ」

「他にも潜んでるかもしれねえ、と。例の山羊頭とか」


 そこで白銀君と黒鉄君が戻って来た。

「やはり結界が張られていますね。まあ、私が彼でもそうします」

「万が一にも邪魔されたくねえもんなぁ」


 黄金君が言った。

「要を置いて作る形式ではないか? 白銀君」


「よくわかりましたね」

「師に教わったやり方だし、強固なものになる。それに」


 円盤を顎で示して、

「さっきから点が動かん。守護者の任を与えられていると見た」


 青錫君もまた脇から覗き込む。

「うーん、この配置なら五角かしら? 八ってことはないでしょう」


 白銀君が頷いた。

「私の見立ても五ですね。入念に準備したものでしょう。結構な頑強さです」


 黄金君は「ふむ」と顎を撫で、

「では正攻法でいこう。幸い、数は足りている」


 かくして三道士はまとめて、結界の要があるものと推測される一地点へ送り込まれることになった。

 その他の四ヶ所には、仙人たちがそれぞれ当たる。


「では諸君。頂上で再会しよう」


 その約束を胸に、水珠(スイジュ)たちは森の深きへ潜っていった。

 辺りはまだ暗いが、明かりを灯すわけにもいかない。

 夜目の術で視界を確保し、念のため、石子の術で気配を消す。


 先導するのは(ヂワン)だ。

 水珠と澄泥(チャンニィ)の数十歩は先を行き、待ち伏せや罠などの危険性がないかを、確かめてくれている。


 その彼が不意に手で制止の指示を出し、その場にしゃがんだ。

 間もなく、今度は手招き。


 近付いた水珠は「なるほど」と頷いた。

「かすかだけど、禍々しい」


「俺の気のせいじゃなかったか」

「どうします? 二か三に分かれて、不意打ちという択もありますわ」

「ありだね。相手は人外だし、石子の術が効果あるかはわからないけど」

「わたくしのように、人間でも効きずらいことありますしねぇ」

「そう。でも、そもそも先に気付けたことが有利だよ。効果あるに越したことはないけれど」


 壮も同意見のようだった。

「一人か二人で気を引いて、その隙に決めるっつーのが、危なげもない形だろう」


 では、どう役割分担するか。

 話をしようとしたときだ。


 禍々しい闇の奥から、あの鳴き声が聞こえてきた。


「――め゛え゛えぇ゛え!」


 水珠は思わず足が竦んでしまった。

 恐ろしい。

 しゃがれた山羊の鳴き声は、気付いているぞと嘲笑っているかのようだった。


 動けずにいると、澄泥と壮が水珠の背中をバシッと叩いた。


「痛い!」

「行きますわよ、水珠」

露呈(バレ)ちまったんならしょうがねえ。真っ向から、ぶちのめしてやろうぜ」


 水珠は深呼吸すると力強く頷いた。


「咲きこぼれて、晃蕩槍(コウトウソウ)白杏(ビャッキョウ)!」

「咲き誇りなさい、隠蔵(インゾウ)衛星剣(エイセイケン)黒牡丹(コクボタン)!」

「咲き渡れ、雷霆(ライテイ)突棘拳(トッキョクケン)黄寿丹(コウジュタン)!」


 羽衣を、円刃を、手甲を()びて道士たちは仇敵のもとに急いだ。

 やがて、深緑色の闇の中に、人影がぼんやり浮かんできた。


 待ち伏せするでもなく、罠を仕掛けるでもなく、《《その男》》は悠然と立っていた。


 道士服をまとって、胸には青い花。

 その顔は山羊――ではなく、水珠が生涯、忘れることのできない、忌々しいあの男のものだった。


 水珠は目を見開き、唇を震わせる。

「なんで、お前がここにいる! 独覚(ドッカク)!」


 澄泥もにわかに狼狽えた。

「独覚って、あの!?」


 一方、壮は冷静に独覚へと問い掛ける。

「格好からして、そういうことなんだろ?」


 彼は邪悪に口角を吊り上げ、

「お初にお目にかかる、ご両人。その小僧の察する通りよ。母なる樹はその最期の力で、斬り刻まれた哀れなる魂のために、強く、新しい体を与えてくださったのさァ」


 顔を手で隠すこと一瞬、それは捩じれた枝の角を持つ山羊のものに変じた。

 仇敵が、胸の青き花を毟り取って、天高く掲げる。


「狂い咲きなァ! 大化(ダイカ)樹羊王(ジュヨウオウ)緑絨蒿(リョクジュウコウ)!」


 させるものか。三人は散開して、襲い掛からん。

 水珠と壮は迫り、澄泥は遠距離より円刃を向かわせる。


 対して山羊頭は腕から先を枝に変えた。

 鞭の如く振り回し、ふたりの接近を阻む。


 円刃は舞い上がった青き花びらを越えられず。

 その花吹雪の中で、異形が更なる変貌を遂げていく。


 ねじれた角は二本から五本へ。目は四つに。

 上半身は人のそれに近い形なれど、腕は新たに二本追加。

 体毛の代わりに木の葉が腕から背中を覆い尽くす。

 下半身は山羊そのものの四本脚。


 異形は象の如く甚だしく大なり。

 もはや服は用途を為さず、千切れた一部が辛うじてまとわりついているのみ。


 山羊頭が歓喜に打ち震える。

「小娘め゛え゛ぇえ゛ぇ! 貴様には礼を言わねばなァ!」


 少し前までの水珠だったなら、逃げ出していたかもしれない。

 だが今は、頼れる友がいる。

 人として、この悪鬼を討たねばならぬと魂が奮い立つ。


「その穢れた魂、斬り刻んでやる!」

「それができなかったから、俺は今ここにいるんだろォ?」


 澄泥と壮が鼻で笑う。


「人でなしの極致! おかげで殺しやすくなりましたわよ!」

「大仁の仇、取らせてもらう!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ