第71話 ご機嫌取り
「コレがマナポーション……なんか、変な匂いがするね……」
「まぁ、薬なんて皆そんなもんだろ?」
「そう……だけど……」
ジェラミーが買ってきたマナポーションの小袋を受け取ると、ティティルナは中の液体の匂いを嗅いで、顔を顰めながらそう言った。
確かに病気の時に飲む薬湯も苦い物けど、薬湯はまだ飲むことが出来るのに対して、昨日飲んだ回復ポーションは、苦いともまた違った不快な味で、とにかく不味いとしか形容出来なかったのだ。
なのでティティルナは、マナポーションもアレと同じような味なんじゃ無いかと思うと、苦々しい顔でマナポーションを見つめて、中々口を付けることが出来なかった。
「ティニャ?どうしたにゃ?早くマニャポーションを飲むにゃ。」
「分かってる、分かってるよ……」
ミッケに急かされて、ティティルナは覚悟を決めてマナポーションを口にした。
……しかし、回復ポーションの時と同様に、一口飲んだだけでその動きを止めてしまったのだった。
「ねえ!!これ、回復ポーションより更に不味いよ?!!」
ティティルナは助けを求めるような顔でミッケとジェラミーの方を向くと、涙目で叫んだ。
予想通りというか、何というか、良薬は口に苦しとは良く言ったもので、マナポーションも、例に漏れずとても不味かったのだ。
けれども、マナポーションを飲んだことのないジェラミーやミッケには、これがどれほど不味いのかがイマイチ伝わらず、ただひたすらに応援することしか出来なかった。
「が……頑張れっ!不味いかも知れないけど、頑張れっ!!」
「うぅ……それにコレ匂いが嫌い……」
「それでも頑張るにゃ!ティニャの頑張りに全部かかってるにゃ!!」
「ううぅっ……」
そんやジェラミーとミッケからの応援に恨めしそうに目線を返すと、ティティルナは涙目になりながらも鼻を摘んで匂いを遮断して、なんとか飲み干したのだった。
「ティニャ、全部飲んだにゃ!偉いにゃ!!」
「うん……」
「あぁ、凄いよ!良く頑張ったな!!」
「……うん……」
しかし、なんとかマナポーションを飲み切ったものの、余りにも不味すぎて、ティティルナのテンションは、側から見ても一目で分かるくらい落ちてしまっていた。
ミッケとジェラミーが惜しみない称賛を送ってみても、ティティルナは気のない返事をするだけで、このままではポーション作りにも影響が出てしまいそうな程であった。
そんな状態のティティルナにどう声をかけたら良いのか、ジェラミーが戸惑っていると、不意にミッケが、ティティルナにお腹を見せる形でゴロンと寝転がったのだった。
「……分かったにゃ。ティニャ、我を好きなだけモフって良いぞ。」
「えっ……いいの?」
「良いにゃ。ティニャ、頑張ったからご褒美にゃ。」
この方法は、ティティルナを元気付ける為のミッケのとっておきの方法であった。
いつもコレをすると、ティティルナはどんなに落ち込んでいても必ず元気になっていたのだ。
だから今回も、コレをすることでティティルナの機嫌が治るだろうと考えて、ミッケは自分の身体を差し出したのだった。
するとティティルナは、無言のままミッケのお腹にスッと手を伸ばすと、そのままもふもふと撫で回した。
もふもふ、もふもふ。
しばらくの間、ティティルナはミッケのお腹をもふもふと撫で回し続け、ジェラミーはその様子を何とも言えない顔で、黙って静かに見守った。
「……ねぇミッケ……吸っていい?」
「仕方にゃいにゃあ。特別だからにゃ?」
「うん、有難う。」
そう断りを入れるとティティルナは、無心で好きなだけミッケの事をもふもふと撫で回し、最後にミッケのお腹に顔を埋めて思いっきり息を吸ったのだった。
その行動に、背後のジェラミーは若干引き気味であったが、ティティルナが満足そうなので敢えて何も言わなかった。
「ふぅ……元気出た……」
「そうか……良かったな?」
こうして、ミッケを思う存分堪能して満足したティティルナは、いつもの調子に戻ったのだった。
「全く、世話が焼けるにゃあ。」
「うん、もう大丈夫!ありがとねミッケ!私やれるよ!!」
「よし、それじゃあ、早速マニャポーションを作るにゃ!!」
「うん、任せて!」
すっかりやる気を取り戻したティティルナは、目を閉じ、大きく深呼吸をして気持ちを集中させた。
「……よし。それじゃあ作るよ、マナポーション。」
ティティルナは目を開けて目の前のボールをじっと見つめた。
その中には、聖水と、蒼生草と、そしてティルミオが持ち帰ったルナストーンが入っており、マナポーションを作るのに必要な材料が、全て揃っていた。
「……」
ティティルナは無言のままボールに手を伸ばして、そして、大事そうにボールを抱え込むと、いつもの呪文を唱えた。
「生産錬金」
すると、ティティルナが抱えているボールの中身が光り輝いたと思うと、次の瞬間、蒼生草もルナストーンも姿を消して、ボールの中には聖水ともまた違う、少量の液体が現れたのだった。