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第66話 お金がない

「アウリーサ洞窟の最深部でさ、魔法を使って確かに何とかなったんだけど……でもティナごめん。マナポーションだけど、買ったんだけど、その時に飲んじゃったんだ。」


 皆が安堵の表情を浮かべる中、一人だけ浮かない顔をしていたティルミオは、ティティルナ達から頼まれていたマナポーションを、今日もまた持って帰って来れなかった事を気にしていたのだ。


 しかし、そんな風に約束を守れなかった責任を感じているティルミオに対して、ティティルナもミッケも、責めるどころか優しく労わりの言葉を口にしたのだった。


「それは仕方ないよ。マナポーションなんかより、二人が無事に帰って来てくれ方が良いからね。」

「そうにゃ。マニャポーションは逃げにゃいにゃ!また買えば良いにゃ!!」

「……ありがとう……ごめんな……」


 そんな妹たちの優しい言葉を聞いて、ティルミオは少しだけ気持ちが軽くなった。


 が、しかし。心が少し軽くなった所で、現実的な問題は何も解決していないのだった。


「まぁ、必要ならマナポーションを買い直すせば良いんじゃね?」


 何気なしにジェラミーの言った言葉に、ティルミオの表情はまた曇ってしまったのだ。

 

「買い直したいけど……お金がね……」


 そう言うとティルミオは、財布の中身を思い出して大きく溜息をついた。

 今日の分の採掘依頼の報酬が貰えるとしても、それでも、もう一本を買うのは無理なのだ。


 すると、そんな兄の様子を見て懐具合を察したティティルナは、とても言いにくそうに、おずおずと口を開いた。


「あのね、お兄ちゃん。ちょっと困ったことはこっちでもあったの……」


 そう前置きを伝えてから、ティティルナは昼間あった出来事を、ティルミオに伝えたのだった。


「そうか……出鱈目な噂話を流されて、それで今日はこんなにパンが売れ残ってるんだな。」

「うん。フィオンさんがやり返してくれたけど、でも暫くはやっぱり売り上げが落ちると思うの……」

「酷い話だな……」


 ティティルナの話を、ティルミオとジェラミーは眉間に眉を寄せながら聞いていた。

 アーヴァイン商会の悪どいやり方に怒りを覚えたが、しかしだからと言ってこの店をアーヴァイン商会から守る為に何か対策ができるかと言ったら、妙案がある訳でもないので三人は無言のまま俯いてしまった。


「とりあえず、当面の問題は月末に支払う税金を何とかしないとか……」


 ポツリと呟いて、ティルミオはもう一度大きなため息を吐いた。

 月末までは後二週間位しか無いのに、手持ちのお金はほぼゼロだし、店も営業妨害を受けているし、ギルドの仕事もジェラミーの怪我が治るまでまともに受けられないのだ。

 この上手くいかない状況に、兄妹の表情はどんどんと暗くなっていったが、そんな時にふと、ジェラミーがある事を思い出して声を上げたのだった。


「そうだ、ティルミオ。女王アリの宝玉持って帰って来てたよな?」

「あぁ、うん。ここにあるよ。」


 ジェラミーに言われてティルミオはポケットから赤い宝玉を取り出してみせた。

 するとジェラミーは、ティルミオが無事に宝玉を持って帰ってきている事を確認すると、さっきまでの重苦しい雰囲気を一掃するかの様に、明るい声でティルミオに進言したのだった。


「これを換金すれば良いんじゃないか?これ、上手く売れれば一ヶ月は働かなくて済む位の報酬が貰えるぞ!」

「えっ?!マジか?!」

「あぁ、マジだ!」


 真紅に輝くその宝玉は、A級モンスターである女王アリの討伐証明でもあり、希少なモンスター素材として高値で取引されている代物であったのだ。


 その事実を知ると、さっきまで沈んでいた兄妹の顔は一変してぱぁっと明るいものへと変わった。


「お兄ちゃん凄い!それだけお金が手に入るなら、税金もきっと月末までに払えるね!!」

「あぁ!俺、早速明日朝一でギルドに行って換金してくるよ!!」


 こうして、突然降って湧いた金策方法に、ティルミオたちはこれで万事上手く行くと大喜びしたのであった。


 けれども、この希望に満ちた明るい雰囲気は、明日直ぐに打ち壊されてしまうのだが、その事はこの時はまだ誰も予感すらしていなかった。

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