第65話 気にしたら負け
「なるほどね……本当にあるんだな、贈り物って。」
「信じるのか?」
「そりゃ、そうじゃないと説明が付かないからね。」
御伽噺の世界の贈り物。正直言ってそんな物が本当に存在するなんてジェラミーは思ってもいなかったが、しかし、こうして目の前の兄妹と関わる中で起きた奇跡のような体験を思い返すと信じざるを得ないし、それ以外に納得しようが無かった。
「で、お前たちにはそんな凄い贈り物を一体誰から貰ったんだ?」
ジェラミーは興味本位から、二人に贈り物を贈った存在について尋ねた。
そんな凄い事ができる存在が一体何だったのか、そしてそんな凄い事ができる存在にどうして二人は出会えたのか純粋に知りたかったのだが、しかし、返ってきた答えはジェラミーが一番聞きたくない言葉だった。
「目の前にいるぞ」
「え?」
そう言って指差されたジェラミーの目の前には、ミッケがツンと澄ましてドヤ顔で鎮座していたのだ。
「……」
ジェラミーは、そっと目を逸らして聞かなかったことにしようとした。
贈り物を受け取って、魔法が使えると言う事実はまだ良い。珍しいけれども、魔法を使える人は他にもいるし、あり得ない事では無いから。
しかし、猫が喋るのは、どう考えてもあり得ないのだ。
だからジェラミーはこの現実から目を背けたかったのだが、しかし、ミッケはそれを許さなかった。
「にゃーーーっ!勘が悪い男だにゃあ!我に決まってるであろう!!目を逸らすんじゃにゃい!!」
「どうしよう、喋る猫なんて非現実的な事、一番触れたく無かったのに……あり得ないだろ?!何でお前、喋るんだよ?!」
「にゃんだ、失礼にゃ奴だにゃあ。下等なニンゲンめ、我に恐れ慄くにゃ!」
ミッケは、そう偉そうに胸を張って、ジェラミーに対しても、自分は凄い存在である事を威張って見せた。
しかしジェラミーは、それでも尚ミッケの存在をすんなりと受け入れられず、ティルミオにそっと耳打ちをしたのだった。
「……なぁ、おい、大丈夫なのか?お前たち得体の知れないモノに騙されてないか??後からアイツに魂抜かれたりしないか??」
それは、普通の人なら誰でも思う事で、その可能性を心配するのは当たり前であった。
けれども、そんな二人の会話はミッケ本人にも聞こえていて、事態はますます混沌と化したのだった。
「にゃーーーっ!!聞こえてるにゃ!!重ね重ね失礼にゃ奴だにゃあっ!!!我のどこが得体が知れにゃいにゃ?!!」
「どこから見ても得体が知れないだろ?!」
「そうだよ、ジェラミーさん!ミッケはただの可愛い猫だよ?」
「猫では無いよな?!」
「まぁジェラミー、細かいことは気にするな。俺たちはミッケのお陰で何とかやって来れたんだよ。」
「細かくは無いよな……?だいぶ大事だよな……?」
「まぁまぁジェラミーさんに、気にしたら負けだよ。……気にしたところで、理解出来ると思う?」
「……確かに……」
こうして、一人頭を抱えて頑なにミッケの存在を認めようとしなかったジェラミーであったが、最終的にはティルミオたちに感化されて、渋々ながらもミッケの存在を受け止めたのだった。
「……それで、お兄ちゃんたちに一体何があったの?」
話が一旦落ち着いたので、ティティルナは改まって兄たちの身に何が起こったのかを質問した。
あんなボロボロの状態で帰って来たのだから、只事では無いのは察しているが、ティティルナとしては、詳しい事が知りたかったのだ。
「それがな、嫌な奴らに因縁をつけられて気が付いたら洞窟の最深部で、沢山の蟻の魔物に襲われて大変だったんだよ!」
「……」
ティティルナから問われて、ティルミオは身振り手振りを交えて、いかに自分たちが大変だったかを力説した。
……がしかし、彼のものすごい端折った説明では、案の定ティティルナには何も伝わらなかった。
「……ジェラミーさん、一体何があったんですか?」
なのでティティルナは、残念そうな目で兄を見遣ると、ティルミオの説明は丸々と無視して、ジェラミーに改めて同じ質問を問い直したのだった。
「ん?あぁ、嫌な感じの冒険者たちに目を付けられて、アウリーサ洞窟でルナストーンを採掘中に、そいつらに転移のスクロールっていう別の場所にワープさせるっていう魔法道具を使われて、オレ達は洞窟の最深部に飛ばされてしまったんだ。しかも運が悪い事に、飛ばされた先はA級モンスターの女王アリが率いている軍隊アリの巣で、もう少しで二人とも餌になっちまう所だったんだよ。」
ティルミオと同じ事を説明しているはずなのに、ジェラミーの説明とでは分かりやすさが天と地程の差があった。
「なるほど。ティオの説明よりずっと分かりやすいにゃ。小僧のくせにやるにゃ。」
ジェラミーの事を毛嫌いしているミッケでさえも素直に褒めるほど、その説明は分かりやすかったのだ。
なので、ティティルナはジェラミーのお陰で、兄たちの身に何が起こったのかを把握する事が出来たのだが、それと同時にいかに危険な状況だったかも理解してしまい、ゾッとしたのだった。
「ええっ……何それ怖い……二人とも無事で本当に良かったよ……」
「本当だよ。ティルミオが咄嗟に魔法を覚えてくれたお陰で命拾いしたよ。」
「それはつまり、ティオに贈り物を授けた我のお陰ってことだにゃ。感謝するんだにゃ!」
そうやって口々に思った事を言い合いながら、改めて二人が無事に帰って来れた事に安堵していたのだが、しかし、立役者であるティルミオだけは、どこか浮かない顔をしていたのだった。




