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第63話 猫が喋った?!

 ダンジョンの最深部で魔物に襲われた怪我でグッタリしていたジェラミーは、ティルミオとティティルナが懸命に回復ポーションを飲ませた事で、自分の意思でこれ以上の回復ポーションは要らないと拒絶出来るまで回復していた。


「ジェラミーさん、気が付いた?」

「気が付いた。気が付いたから、ソレ下げてくれないか?」


 ソレと言うのはティティルナがジェラミーの口元に当てがっているオタマの事である。ジェラミーは手でオタマを押しのけて顔を背けた。


 洞窟から合わせると、ジェラミーは合計約五個分の回復ポーションを飲み干してるのだ。水分過多でこれ以上飲んだら吐いてしまいそうだったので、ジェラミーは次々に回復ポーションを飲ませてくる兄妹を慌てて止めたのだが、しかし、ティルミオは止まらなかった。


「いいや、まだだ。もう一杯いっとけ。」

「もう大丈夫だってば!!」

「いいや、無理すんなって!」

「これ以上飲む方が無理なんだってば!!」


 兎に角沢山回復ポーションを飲ませた方が早く怪我が治ると思い込んでいるので、ティルミオは、執拗にジェラミーに回復ポーションを飲ませようとしていた。

 しかし、ジェラミーにとってみたら、これ以上はもう飲めないし、苦痛なのだ。


 そんな押し問答の中でジェラミーは、強引に飲ませようとするティルミオに納得して貰おうと、自身の身体を大きく動かして回復したことをアピールしたのだった。


「ほらっ、もう平気だって!この通り、回復したから!!なっ!」


 正直に言うと身体的には折れた骨がくっ付いた訳ではないのでまだまだ痛いのは痛いのだが、そもそも、回復ポーションで骨がくっつく訳がないので、これ以上の回復は見込めないのだ。

 だからジェラミーは痛みを我慢して元気なフリをして、もうこれ以上の回復ポーションは要らないと必死に訴えたのだが、しかし、カーステン家の面々は、そんなジェラミーの態度に怪訝な目を向けたのだった。


「あんま大丈夫って顔してないけど……」

「そんなことないって!」

「折角、苦い思いまでして作ったのに……」

「それはそれで、有難う!残りは次また怪我した時に役立てるよ!」

「小僧、痩せ我慢してるにゃ?無理するんじゃにゃい。」

「いや、だから全然無理なんかしてないって……って猫が喋ったぁっ?!?!!」


 余りにも自然な流れだったので、思わずスルーしそうになったが、ジェラミーは流石に猫が喋るというこの非常識な光景を見逃すことは出来なかった。


 ティルミオ、ティティルナに続いて、猫のミッケまでもがジェラミーに話しかけてきたのだ。


 空耳かと思って、ジェラミーは訝しげに三毛猫をじっと見つめてみたが如何やらコレは現実であると認めざるを得なかった。

 何故なら、ジェラミーの発した大きな声に気を悪くしたミッケが、不機嫌そうに尻尾をバタンバタンと打ち付けながらハッキリと小言を返したのだ。


「猫が喋った位で狼狽えるんじゃにゃい!」


 コレはもう、疑いようも無く目の前で猫が喋っていた。信じざるを得なかったが、しかし。猫が喋ると言う事実を受け入れるには、まだ脳みその方が準備が出来ていなかった。

 それでも、それが当たり前であるかのように目の前でティルミオとティティルナが飼い猫と会話をするので、ジェラミーは思考が止まったまま、二人と一匹の会話を呆然と眺めたのだった。


「ミッケ!今喋っちゃダメじゃない!!ジェラミーさんはミッケの事普通の猫だと思ってるんだから。」

「その小僧よくうちに来るし、もう此奴の前で猫を被るの面倒臭いにゃ。」

「お兄ちゃん、ミッケこんな事言ってるけど良かったの?!」

「うーん。俺もなんかもう、この際隠さなくて良いと思う。ジェラミーなら信用できるし。」


 余りにも兄妹が自然に猫と会話をしているので、コレが当たり前の光景なのかと錯覚してしまいそうになったが、直ぐにそんな筈は無いと我にかえると、この異常な光景について声を上げようとしたその時だった。


「お前、さっきから黙ってるが、にゃにか言うことはにゃいのか?!」

「えっ?!えっ……と……」


 ミッケが、黙って側に立っていたジェラミーに対して急に話しかけたのだ。

 予想していなかった問いかけに、咄嗟にジェラミーは何も言えなかった。


 するとミッケは、尻尾をバタバタとさせたまま、不機嫌そうに叱責を続けた。


「全く。ティオはお前を背負ってここに連れてきて、ティニャがお前の為にポーションを作ってやったにゃ。感謝するのが筋じゃにゃいか?!」

「あっ!それについては、本当に有難う。感謝してる!!」


 ミッケに指摘されて、ジェラミーは慌ててティルミオとティティルナに頭を下げてお礼を言った。

 確かにミッケの言う通り、回復してからまだきちんと二人にお礼が言えてなかったのだ。

 するとティルミオは、そんな風に頭を下げるジェラミーに対して、恐縮しながら頭を上げさせたのだった。


「いやいや、お互い様だろ。アウリーサ洞窟に行きたいって言ったのは俺だし、こっちの事情に付き合って巻き込んだんだから。」


 しかし、ここでまたミッケが口を挟んだ。


「ティオは甘いにゃ!ここはガツンと恩を売っておかないと付け上がらせるにゃ!!」

「ミッケ、ジェラミーさんに失礼でしょう?!どう考えても、普段はお兄ちゃんの方がお世話してもらってるんだから。」


 ミッケはどうしてもジェラミーに対して自分たちの優位性を示したかったのだが、しかしそれは、ティティルナによって嗜められた。


「いや、それは全然良いんだけど……それは、全然気にしないんだけど……」


 当たり前のように目の前で繰り広げられる猫との会話に慣れてきたのか、ジェラミーは戸惑いながらも彼らの会話についていった。


 そして、一呼吸おいて気持ちを落ち着かせると、ジェラミーは遂に核心に触れたのだった。


「猫が喋るの、おかしいよな?!!」


 言いたかった一言を、やっと言えたのであった。

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