第62話 ジェラミーを手当しよう
「ティナっ!!!」
「お兄ちゃんお帰り……って、ジェラミーさんどうしたの?!」
店のドアを勢いよく開けて入ってきたティルミオを、ティティルナはいつもと同じ感じで出迎えたのだが、兄が背中に背負っているジェラミーの姿が目に飛び込んできて、思わず驚きの声を上げてしまった。
ジェラミーは全身がボロボロで、ティルミオの背中でピクリとも動かなかったのだ。
「にゃんだ?背中の小僧はボロボロじゃないか。にゃにがあったにゃ?!」
ジェラミーの意識が無いと思って、ミッケも猫のフリをやめて会話に入ってきた。
ただならぬ状況に、家の中は急に緊迫感で溢れかえった。
「説明は後だ。マナポーション用に用意してた蒼生草と聖水があるよな?!それを持ってきてくれ!」
「えっ?えっ??」
ジェラミーの様子から緊急時であるのは分かったが、捲し立てる兄の言葉についていけず、ティティルナは戸惑って直ぐには動けなかった。
するとティルミオは、ティティルナを急かすようにたたみかけた。
「金が無くて回復ポーション一個しか買えなかったんだよ。だからティナ、これ飲んで回復ポーションの作り方を覚えて、量産してくれ!!」
そう言ってティルミオは、回復ポーションを妹に手渡した。
「なんかよく分からないけど、……分かったよ!」
正直言って、事態が飲み込めないままであったが、兄の必死さとジェラミーの様子から、ティティルナはティルミオの指示に頷くと、渡された回復ポーションを一気に飲み干そうとした。
……のだが、しかし、一口飲んでその手を止めてしまったのだった。
「……何これ、お兄ちゃん、苦くて、草臭くて、超不味いよ?!!」
そう、回復ポーションは味も匂いも最悪で、とても不味かったのだ。
余りの不味さに、ティティルナは渋い顔をして、物言いたげに兄を見た。
しかし、ティルミオはそんな妹からの無言の訴えを退けて、代わりにティティルナを鼓舞する言葉を返したのだった。
「そこをなんとか!頑張って飲め!ジェラミーの治療はお前にかかってるんだ!!」
「うぅ……不味い……不味いよぅ……」
兄に必死のお願いされて、ティティルナは涙目になりながらも頑張って回復ポーションを飲み干した。
こうして、ティティルナは回復ポーションを錬金術で作れるようになったのだった。
「……それじゃあ、作っていくよ……」
とても不味い回復ポーションを飲み干したティティルナは、明らかにテンションが落ちていたが、辞典から得ていた知識で必要な材料を用意すると、そのまま錬金術の準備を始めた。
「ティニャ、無理するんじゃにゃいぞ?」
「大丈夫だよ。今日いつもより錬金術使ってないから。ほら、午後の分のパン作ってないでしょう?」
「確かにそうにゃけど……」
ジェラミーの意識が朦朧としているのを良いことに、ミッケはさっきからずっと堂々と喋っているが、誰も何も咎めないで話は進んだ。
「ねぇ、お兄ちゃん。うちにある材料だと五個は作れるみたいだけど、これで足りる?」
「足りる……かは分からないけど、兎に角あるだけ作ってみよう!!」
こうして、全ての材料をボールに合わせ入れると、ティティルナはボールの端を持って目を瞑り集中して呪文を唱えた。
「生産錬金」
すると、ボールの中が光って、次の瞬間回復ポーションが、ボールの中に波波と出来上がったのだった。
「成功……したのかな?成功したと思うけど、パンと違って見た目だけじゃよくわからないね。」
「どれ……」
ボールの中には薄い緑色の液体で一杯であったが、コレだけでは錬金が成功したかは判断出来なかった。
だからティルミオは、自分の指をボールの中には少し突っ込んで、指についた液体をぺろりと舐めてこれが回復ポーションかどうかを調べたのだった。
「うん、不味い。大丈夫、成功だ!!」
顔を顰めながらティルミオがそう宣言すると、ティティルナは表情を明るくして錬金の成功に安堵していた。
回復ポーションが出来たのならば、後はジェラミーにコレを飲ませるだけである。
「良かった!それじゃあコレを早くジェラミーさんに飲ませよう!」
「でもどうやって飲ませるにゃ?ボールに顔を突っ込ませるにゃ?」
「それについては俺に考えがある。ほら、これを使うんだよ。」
そう言ってティルミオは、台所にあったお椀一杯分位が一度に掬える、大きなオタマを取り出したのだった。
「よし、ジェラミー、出来立ての回復ポーションだ、飲め!!」
「う……」
ティルミオは、ジェラミーを後ろから支える形で上体を起こさせると、妹のティティルナがボールからオタマ一杯分回復ポーションを掬って口元へと運んだ。
「はい、ジェラミーさん。回復ポーションだよ。全部飲んでね。」
「う……ぐ……」
こうして兄妹は、立て続けにオタマ三杯分の回復ポーションをジェラミーに飲ませた。
先に麻痺なおし薬は飲ませてあるので、後はこの回復ポーションを飲めば、回復する筈なので、兄妹はどんどんとジェラミーに回復ポーションを飲ませた。
そして、四杯目を飲ませようとオタマをジェラミーの口元に近づけたその時だった。
「無理……もう飲めない……」
今までグッタリしていて兄妹にされるがままだったジェラミーが、これ以上は飲めないと、自分の意思で動いて拒絶したのだった。




