第56話 最深部
「ティルミオ!大丈夫か?!」
何が起こったのか分からないティルミオは、暫く呆然としていたが、ジェラミーの呼びかけによって、我に返った。
「えっ……い、今何が起こったんだ??!」
「転移のスクロールだ。普通、ダンジョンでの緊急避難用に使うんだけど、こんな使い方をするとは……」
イマイチ状況を把握出来ていないティルミオに、ジェラミーは忌々しそうな顔でそう説明をした。あの三人組の冒険者たちに不意を突かれた事が相当に腹を立てていたのだ。
「くそっ、にしてもここはどこだ?!」
さっきまでいた場所とはガラリと雰囲気が変わってしまった周囲を見渡して、ジェラミーは焦った様に声を上げた。
周囲が暗く地形を見渡せないので、今ここが洞窟のどこら辺なのかも、出口の方角も全く何も分からないのだ。
「出口……は、大丈夫多分分かる。けど、ここ……大分深い階層だと思う……」
そんなジェラミーを少しでも落ち着かせるために、ティルミオはジェラミーと同じ様に周囲の暗闇に目を向けて観察眼で辺りを見渡した。
すると、遥か上の方に、小さな光が見えたのだ。
そこが出口であるのは間違いなかった。
「ティルミオ、出口の方向分かるのか?」
「うん、多分あっちだ。」
ジェラミーに問われて、ティルミオは光が見える方向、ジェラミーの頭より更に上の位置を指差した。
「……上だな。」
「そう、上なんだよ。」
二人して頭上を見上げて、少しだけ沈黙が流れた。
横方向だけならまだしも、縦にも登らないといけないとなると相当骨が折れるし、何より、上に登るということはそれだけこの場所が入り口から遠く離れている事がハッキリと分かって途方に暮れてしまったのだ。
「まぁ、とにかく上を目指すか。深部じゃ魔物も強いだろうから、いつまでもこんな所にいる訳にはいかないしな。」
ジェラミーは溜息を吐いて頭を振ると、気を持ち直して前を向いた。
「とりあえず、オレが前を行くからティルミオは後を付いてきてくれ。上に登れる場所を探す。」
「ああ、分かった。」
こうして、ティルミオとジェラミーは出口を目指して注意深く歩き始めた。
……のだが、しかし二人は数歩も歩かないうちに、その歩みを止めてしまった。
「なぁジェラミー。ここ、何だかとても嫌な予感がするんだけど……」
「……そうだな。」
二人が進もうとしているその先、暗闇の中で何かが蠢いている気配を感じたのだ。
闇の中に何かがいるのは確実で、ジェラミーは剣に手をかけながら、ランタンを慎重に闇の奥に向けて掲げた。
すると、そこにはおびただしい数の蟻の魔物が奥に居る女王アリを守る様に二人の前に立ち塞がっていた。
そう、二人が飛ばされた先は、軍隊アリの巣だったのだ。
「嘘……だろ」
あまりの数の多さに流石のジェラミーもたじろいで思わず一歩後ろに下がったが、その背後は岩壁なので逃げ場は無かった。
つまり、この蟻を何とかしないと、出口には向かえないのだ。
正に八方塞がりだったが、前に進むしか活路がないのだから、ジェラミーはランタンを腰に固定すると、剣を抜いて身構えた。
「ジェラミー、まさか倒すつもりか?!」
「まさかって、コイツら倒さないと進めないだろう?!倒す以外に選択肢あるか?!」
「それは、そうだけど……」
腹を括ったジェラミーとは対照的に、ティルミオは目の前に居る無数の蟻の魔物に尻込みをしていた。
一匹一匹は自分の拳より少し大きい位のサイズだが、それが何十匹も集まっていたら、悍ましい以外の感想は持てなかったのだ。
「いいか、ティルミオ。こういう魔物はな、親玉を倒せば統率が取れなくなって勝手にどっか行くんだ。だからオレはあの女王アリを狙う。」
目の前の魔物の群れに顔を青くしているティルミオを鼓舞するように、ジェラミーは前だけ見つめて話を続けた。
「けれど、オレが女王アリと対峙すると、その間、お前を守ってやる事がきっと出来ない。だからティルミオ、覚悟を決めろ。少しの間自分の身は自分で守れ!こいつら一匹一匹は対して強く無い。踏めば倒せるくらいだから!!」
そう言い放つとジェラミーはティルミオの返事も待たずに足元に群がる軍隊アリを蹴散らしながら、ボスである女王アリに向かっていったのだった。
「わっ、分かった!自分の事は自分で何とかするよっ!!」
女王アリに立ち向かうジェラミーの背に、ティルミオは叫んだ。
ジェラミーの言う通り、この状況をどうにかするには、目の前の魔物を倒すしかないのだ。
そして、ボスを倒せるのはジェラミーしか居ないので、ここで生き残る為には、自分が彼の足を引っぱる様な事が合ってはいけないと、ティルミオも覚悟を決めたのだった。




