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第50話 売られた喧嘩

「厄介な相手って……?」


 街で流れている噂を聞いて様子を見に来てくれたフィオンに、ティティルナは首をけしげながら訊ねた。そんな相手の心当たりが全くないのだ。

 だからティティルナが首を傾げて戸惑っていると、フィオンはここに来るまでの間に仕入れてきた情報を妹たちに噛み砕いて伝えたのだった。


「ティナ達が背負わされた借金はアーヴァイン商会からの借入だろう?そのアーヴァイン商会で代替わりがあったんだけど、新しい商会長が中々の曲者らしくてね。どうやらそいつにこの店も目を付けられてしまったみたいなんだ。」


 すると、フィオンからその話を聞くや否やティティルナはある人物が脳裏に浮かんだ。


「あっ……それってこの前来たあの人だ……」

「会った事あるのかい?」

「うん。もの凄く感じ悪かった。」


 ティティルナが顰めっ面で余りにも率直に答えるので、フィオンは少し吹き出してしまったが、すぐに真面目な顔に戻って話を続けた。


「でね、その人は前商会長が人情って奴で無闇矢鱈に貸し付けていた不良債権を、合理的に回収しようと色々と強固な策を取ってるらしいんだよ。」

「不良債権って……うちのこと?」

「そうだね。ここも含まれてるね。借金回収の見込みが立ってない債務者については、土地や建物等の資産で直ぐに回収したいみたいだ。そんな時に、この前のいざこざだ。上手く利用されてしまったね。」

「そんな!ティナ達のお店を妨害して、借金を返済できなくさせた上で土地を奪うなんて、なんて卑劣なやり口なの!!」


 フィオンの説明を聞いて、フィオネは憤慨した様子で怒りの声を上げた。彼女からしてみたら、大好きなティナを困らせる奴はみんな許せないのだ。


 しかし、当の本人のティティルナは、フィオンの説明が腑に落ちなくて、怒りよりも困惑が優っていたのだった。


「でもフィオンさん、私たち今月分のお金はちゃんと返したよ?それにお店もお兄ちゃんの仕事も軌道に乗ってきたし、ここまま順調にいけばちゃんと借金返せるのに何で?!」


 返済に遅れたならともかく、ティティルナたちはちゃんと返しているのだ。それなのに借金を返せないと判断されたことに納得がいかないのだ。


 するとフィオンは、そんなティティルナの質問に少しだけ困った顔をすると、とても言いにくそうに商人としての見解を教えた。


「あー……うん。そうだね。順調に行って十年ってところかな。どうやら向こうは気が短いみたいだね。実績がないし子供だしで君たちは完済できないって早々に判断したんだろうね。だからここの土地が欲しいんじゃないかな。ここ一等地だしね。」

「そんな……酷いよ。」


 これにはティティルナもショックで項垂れてしまった。

 今まで慣れないながら真面目に働いて、何とか軌道に乗ってきたのに、そんな理不尽な事で足元を掬われてしまうだなんて悔しくてたまらなかった。


「ティナ、そんな変な噂、負けるんじゃないですわ!」

「そうは言っても、実害出てるし……」


 フィオネが励ますも、ティティルナの表情は暗いままだった。足元ではミッケも「にゃあ」と鳴いて、ティティルナを慰めようと懸命に身体を擦り寄せているが、これも効果がないようで、ティティルナの顔は泣きそうなままだった。


「お兄様!こうなったらザイルードでティナのパンを買い占めますわ!!」

「うーん。それもそれで一時は凌げたとしても、商売にならなくなるからねぇ……」


 八方塞がりといった感じで、三人は難しい顔のまま黙ってしまった。

 このまま噂を払拭出来ずにいたら、アーヴァイン商会の思惑通りに本当に店と土地を奪われてしまうのだろうか。そんな最悪な事態をも考えてしまい、ティティルナの表情はどんどんと曇っていった。


 するとその時だった。


「とはいえ、このままってのもねぇ……カーステン商店はうちの商会の所属なんだし、他所の商会から変な噂を流されてそのま待ってのもねぇ……」

「……フィオンさん……?」


 フィオンが、何かを思案する様にぶつぶつと呟き出したのだ。

 そんな彼をティティルナとフィオネは暫くの間静かに見守った。すると、考えが纏まったのか、フィオンはパッと顔を上げてティティルナ達に向き合ったのだった。


「うん、売られた喧嘩はやっぱりキッチリと買わないとね。商売人としては。」


 そう言ってフィオンは、ニッコリと笑って、とびきりの笑顔を妹たちに見せたのだった。


「えっと、フィオンさん。売られた喧嘩を買うってどういう事……?」


 フィオンが満面の笑みの時は大抵恐ろしい事を考えているのだ。それを良く分かっているティティルナは恐る恐る彼の考えの詳細を尋ねた。


「うん、それはね……」


 しかし、フィオンがティティルナからの質問に具体的な事を言いかけたその時だった。


 カラン、コロン。


 またしても店のドアが開いて、一人の男が入って来たのだった。

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