第45話 第三者からの勧誘
「なぁジェラミー。ルナストーンってのはどこで採掘できる??」
マナポーションを自作しようという計画は思っていたのと違う原材料の発覚でいきなり頓挫しようとしていたが、ティルミオは諦めずに頭を切り替えて、次の一手を考えていた。
「えっ?この辺りだとアウリーサ洞窟ならありそうだけど、えっ?何で??材料なんか聞いて、マナポーションを作る気なのか?」
「うん、まぁ……ちょっとやってみようかなって……」
「何で??」
ティルミオの突然の申し出に、ジェラミーは目を丸くしながら理由を訊ねた。彼からしてみたら素人がマナポーションを作るなんて無謀だし意味不明なのだ。
「何でって……そりゃ、作れたらお金になるからだよ!」
「にしても、なんでマナポーション?もっと他にあるだろう?」
「それは……ティナが作ってみたいって言うから、兄としては作らせてやりたいんだ!」
ジェラミーからの当然の疑問に、ティルミオはタジタジになりながらも何とか答えた。妹をダシにしてしまったが一応嘘は付いていない。
そんな必死な様子のティルミオにジェラミーは益々不思議に思ったが、何か事情があるのだろう事は察した。
なので取り敢えずこれ以上詮索するのは止めて、代わりにティルミオに、先輩冒険者として自分が知っている事を教えてあげたのだった。
「まぁ、お前たち兄妹が決めた事ならこれ以上は何も言わないが……でも、ルナストーンって相当希少で見つけるのは大変だぞ?」
「大丈夫だ、俺なら直ぐに見つけられる!」
「後、採掘して持って帰るつもりなら鉱石はギルドで採掘量を厳しく管理してるから、採取と違って許可証制じゃなくて、個人的に採掘するのなら、持ち出す量に比例して金払う必要があるし、採掘量も制限あるぞ?」
「う……分かった。そんなに多い量じゃ無い筈だからきっと、大丈夫だ……。だからジェラミー、アウリーサ洞窟に連れてってくれ!頼む!!」
ジェラミーから厳しい話を聞かされても、ティルミオの考えは変わらなかった。観察眼があるので、たとえどんなに希少だったとしても見つけられる自信があったし、費用の方も今の手持ちの額と、これからの見込み稼ぎの額を計算して多分何とか出来ると踏んでいたのだ。
だからティルミオは、ジェラミーにアウリーサ洞窟へ連れて行ってくれるように必死に頼み込んでいたのだが、不意に二人の会話に第三者が割って入ってきたのだった。
「ルナストーンを直ぐに見つけられるだって?それは本当なのか?!」
ティルミオ達の話を側で聞いていた中堅どころといった感じの三人組の冒険者が話し掛けてきたのだ。
「あ、あぁ……えっと、そういうのは得意なんだ。」
急に知らない冒険者に話しかけられて動揺しつつも、ティルミオは素直に答えた。
すると、その三人の冒険者達は値踏みするようにティルミオを眺め回すと、お互いの顔を見合わせて大きく頷き、そして、リーダーと思われる一人がティルミオに向かって手を差し伸べたのだった。
「どうだろう、君、我々と一緒にアウリーサ洞窟に行くかい?同行者を探していたんだろう?」
「えっ?!!」
突然の提案にティルミオは驚き、そして戸惑った。
確かにアウリーサ洞窟にはルナストーンを探しに行きたいが、見ず知らずの人にいきなり話しかけられて誘われるなんて事は冒険者にとって普通なのか分からないかったので、ティルミオはジェラミーの様子を伺った。
すると、ジェラミーは少しムッとした様子でティルミオの肩をガシッと抱くと、声をかけてきた三人組の冒険者にはキッパリと断わりを入れたのだった。
「その必要はない。オレが一緒に行くから。」
「君は?」
「オレは、コイツの相棒だ。勝手に勧誘して貰ったら困る。」
「君たち二人でアウリーサ洞窟に行けるのかい?」
「オレはBランクだ。だから問題ない。」
アウリーサ洞窟は魔物の巣と言われていて、低ランクの冒険者では太刀打ちできないダンジョンであった。
だから三人組の冒険者は、装備からして素人丸出しのティルミオと、歳若いジェラミーの二人では探索は難しいと思ったのだが、そんな心配は無用だとばかりに、ジェラミーは、自分のランクを明かして彼らを押し黙らせたのだ。
すると、三人組の冒険者はまたしてもお互いの顔を見合わせてヒソヒソと何やら相談すると、今度はジェラミーを相手に勧誘を始めたのだった。
「それは失礼した。私たちはCランクなんだけども、どうだろうか?私たちと一緒にアウリーサ洞窟に行ってくれないか?あそこは魔物も強いから、高ランクの冒険者が一緒だと心強いし、なにより今受注している採掘クエストの納品物であるルナストーンが全然見つけられなくって藁にも縋りたいんだ。」
余りにも正直に話す彼らに、ジェラミーもティルミオも面食らってしまった。
「おっさん達、随分明け透けと話すんだな。」
「おっさ……まぁ、君たちから見たらそうか。君たちは見た所まだ十代だろうからね。」
「なぁ、おっさん達の提案を飲むメリットがこっちには無い。都合良すぎないか?」
重ね重ねのおっさん呼びに、話を持ち掛けてきた男の表情が強張ったが、彼は一呼吸置いて気持ちを落ち着かせると、大人な対応で交渉を続けた。
「……コレでもまだ二十代なんだけどね。まぁ、メリット……そうか。ではこうしよう、報酬を払うよ。成功報酬だ。俺たちが無事にルナストーンを見つけられたら、一万ゼラムを払うよ。」
それは破格の値段だった。一万ゼラムと言ったら、今のティルミオの力量で、大体二日分の仕事で得られる報酬と同じ位なのだ。
高額なマナポーションを買おうとしているティルミオにとって、それは願っても無い申し出だったが、しかし、上手い話には裏があると昨日転売の件で身を持って学んだばかりなので、ここは慎重になって検討を続けた。
「おい、ティルミオどうする?」
「うーん、道案内だけで一万ゼラム貰えるのは物凄く美味しいけれど……ジェラミー、どう思う?」
「正直言って、胡散臭い。オレはこの家業長いから分かるんだ。良い顔して寄ってくる同業者は碌な事企んで無い。」
「……そうだな。断ろう。」
熟考……とまではいかないが、自分たちの勘みたいなものを頼りに、二人はこの三人組の申し入れを断る事にしたのだった。
「おっさん達、悪いけど他を当たってくれ。オレ達は二人で行動したい。」
考えた末にジェラミーがこの話を断わると、一瞬ピリッとした空気が流れたが、三人組の冒険者は直ぐに人当たりの良い笑顔を取り繕うと、二人に惜しむような声をかけてアッサリと引き下がった。
「……そうか、それは残念だ。じゃあ、今日は諦めるけど、もし気が変わったらいつでも声をかけてくれ。大体この時間にギルドに居るから。」
そう言って三人組の冒険者はティルミオとジェラミーから去っていったのだった。
「……って事はジェラミー、アウリーサ洞窟に連れてってくれるんだな?」
三人組の冒険者が立ち去ると、ティルミオは直ぐに横にいるジェラミーに確認をした。
先ほどの話の流れから、アウリーサ洞窟に行くのは確実だと思ったが、念の為にジェラミーの口から確認を取っておきたかったのだ。
するとジェラミーは、ティルミオの肩をバンバンと叩くと、ニカっと笑ってティルミオが望む言葉を返したのだった。
「あぁ。今日の夕方には俺の剣も返ってくるし、約束してたからな。」
「よろしく頼むよ!!」
「あぁ。魔物退治は任せてくれ。だからお前は採掘クエストでがっぽり稼げよな?」
「任せろ!!」
こうして、ティルミオとジェラミーはアウリーサ洞窟へ行くことを決めたのだった。
その日の家への帰路、ティルミオは明日行くアウリーサ洞窟に想いを馳せながら、そわそわした気持ちでいつもより速足で家へと駆けていった。それ程までに、気持ちが逸っていたのだ。
しかし、家まで後少しという所で、軽快だった彼の足はピタリと止まってしまった。彼は重大な事に気付いてしまったのだ。
「あ、マナポーション買うの忘れた。」
頼まれていた品物を買い忘れてしまって、ティルミオは青くなった。このままでは絶対に、ティティルナとミッケに怒られる事が確定なのだ。
買いに戻るか、このまま目前の家に帰るか。
悩んだ末にティルミオは、覚悟を決めて恐る恐る家のドアを開けたのだった。




