第43話 兄妹の結論
「魔導士登録するだけで身分が高くなって、マナポーションも支給されて……って、いくら魔法を使える人が珍しいからって、そんな上手い話があるのか……?」
オデールから持ち掛けられた魔導士登録という提案を疑っているティルミオは、訝しげに突っ込んだ事を訊ねた。
するとオデールは、そんな彼の疑心に応えるべく、包み隠さずに登録魔導士の義務について説明をしたのだった。
「ええ。勿論義務も発生します。国の為に働く事。これが条件です。基本的には今迄は通り生活できますが、国からの命令があれば、最優先で従わなくてはいけません。」
「命令って……?」
「そうですね、私も詳しくは無いのですが……多分、ティティルナさんの場合ですと、錬金術で指定の品物を作って納品……とかですかね。」
そんなオデールの説明を聞いて、さっきまで前のめり気味だったティティルナの表情はみるみると曇っていったのだった。
「あの、それはどれくらいの量を、どれくらいの頻度で……とかは分からないですか?サーヴォルトさん、あのね、私はこの店でパンを売りたいんだ。だから、その魔導士登録ってのをしても、ここでパンを売り続けられるか、それが知りたいの。」
「すみません、私も担当では無いですから確実な事は分かりません……」
魔導士として登録したら義務が生じるのは当たり前だと思うので納得出来る。けれども、魔力量が少ないティティルナでは国の為に品物を作ったら、今お店で売っている商品を錬成できなくなるかもしれないと不安に思ってしまったのだ。
だってティティルナは別に地位が欲しいわけでは無いから。この店でパンを売れなければ、意味が無いのだ。
すると、急にテンションが落ちてしまった妹の気持ちを察して、ティルミオが代わりにオデールに、申し出への辞退を伝えたのだった。
「なぁ、サーヴォルトさん。折角の申し出だけど、今回は止めておくよ。俺たち、今のままでもなんとかやっていけてるから。」
「しかし……今回みたいなことがまた起きるかもしれませんよ?国の後ろ盾があれば、貴方たちを守ってくる人も増えるのですよ?」
「次は大丈夫だから!もう、上手い儲け話には引っかからないから!」
オデールの説得にもティルミオの意志は強固だった。兄としてティティルナが悲しそうな顔をしたのを見逃せなかったのだ。
確かに国の登録魔導士は魅力的な話であったが、ティティルナが笑顔でないならそれは意味がないのだ。
そしてその考えは、ミッケも同じであった。
「そうにゃ!ニンゲン、ティニャを困らすにゃ!!我らの邪魔をするにゃ!!」
ミッケも、元気がなくなってしまったティティルナを心配して、オデールの事を敵視しながら、精一杯の声を上げたのだ。
そんな風に二人と一匹に必死に懇願されてしまっては、流石にオデールも引き下がるしかなかった。
「……貴方たちの考えは分かりました。貴方たちを守るのに良い考えだと思ったんですがね、そこまで言うのなら今しばらくは見守りましょう。」
「それはつまり、ティニャたちを困らすのは止めたってことだにゃ?」
「元から困らせたかった訳じゃないですがね。でも、私の申し出に困惑させてしまったみたいだし、国への魔導士登録の話は、一旦引き下げますよ。」
残念そうではあったが、オデールはあくまでも兄妹の気持ちを優先してくれたのだ。
するとそれを聞いたティルミオとティティルナは、安堵するとともに、申し訳ないといった顔をして、オデールに深々と頭を下げたのだった。
「……役人さんは俺たちの事を思って提案してくれたのに、なんか、すみません……」
「ごめんなさい、サーヴォルトさん。折角の提案を断っちゃって……」
「いえ、そこは気にする必要は無いですよ。こちらこそ、貴方たちのこの店にかける想いまで考えずに悪かったですね。」
三人が三人共に謝罪の言葉を口にして、それぞれが謝り合うそんなニンゲンたちのやり取りを、ミッケは横で冷ややかに見守った。
「全く、ニンゲンとはメンドクサイにゃあ……にゃんで皆で謝るにゃ?」
「まぁ、そうですね。面倒くさい人間だからですかね。」
オデールはそんなミッケの問いに苦笑しながら答えると、それからティティルナたちの方に改めて向き合って、念押し的に再度兄妹に苦言を呈したのだった。
「いいですか、これからは錬金術を活用するにしても、今回の様に目立ってはダメですよ。慎重に立ち回ってくださいね。」
「はい、分かりました。」
「今回の件の報告でティティルナさんが錬金術を使える素質があるって事が役所に伝わります。こういった話は、いつ、何処で、誰から広まるか分かりません。ですから、また悪い大人に利用されない様に十分に気を付けてくださいね。」
「あぁ、それも気を付けるよ。色々と気にかけてくれて、有難うございます。」
ティティルナもティルミオも、オデールの言うことに素直に頷いた。今回の自分たちの軽率な行動を真に反省しているのだ。
そんな兄妹の態度を見て、オデールは満足そうに頷いて優しい眼差しを彼ら向けると、最後に一言、言葉を送った。
「子供を守り、導くのは大人として当然です。これから先も、いくらでも気にかけますよ。」
そして、ティルミオとティティルナにその言葉を伝えると、オデールは一転してキリッとした真面目な顔に戻って気合を入れ直したのだった。
「では、貴方たちの疑いを晴らす為に、私はこれで失礼します。上司に報告してきます。」
そう言い残してオデールは、兄妹がこれからも変わらず、誰にも邪魔されずここでパンを作り続けられるように、上役に報告に向かったのだった。
***
「ふー。役人さんにバレた時はどうなるかと思ったけど、でも、なんとかなったな。」
「本当にね。サーヴォルトさんが良い人で良かったわ。」
「あぁ。本当にな。」
オデールを見送った後、ティルミオとティティルナは店の片付けをしながら二人してホッと一息をついていた。
役人なんて頭が硬くて融通が効かない人だとばかり思っていたので、自分たちの担当がオデールの様な情に訴えたらなんとかなる人で良かったと、本人の居ないところで大いに感謝したのだ。
そんな風に兄妹は、問題は全て片付いたと思ってすっかり安堵していたが、しかしミッケには、どうしても気になる事があった。
だからミッケは、足元から不思議そうに兄妹を見上げると、ティルミオにそのコトを訊ねたのだった。
「でもいいのかにゃ?」
「何が?」
「ティオ、自分の鑑定眼の事はアイツに言ってにゃいにゃ。」
そう、オデールに話したのは、あくまでティティルナの錬金術に関してだけで、ティルミオの鑑定眼については何も話してないのだ。
ミッケはティルミオがどうして言わなかったのか、意図があっての事なのかが気になったのだ。
けれども、それはミッケの考えすぎで、別に深い意図がある訳ではないのだった。
「えっ、だって俺の能力は説明しづらいだろう?それに、ティナの様に分かりやすく人に見せられるものでも無いし。」
「確かに、お兄ちゃんのあの説明の仕方じゃねぇ……まともに取り合ってくれないかもね。」
「確かににゃ……」
そう言ってティティルナとミッケが初めてティルミオから鑑定眼の事を聞いた時を思い出して残念そうな目で彼を見るので、ティルミオは少しだけたじろぐと、強引にこの話題を終わらせたのだった。
「ま、俺の能力はきっと人にはバレないからね。言わなくても問題ないよ。」
「それもそうだにゃ。」
こうして、二人と一匹はいつもの日常に戻っていった。この時はまだ、後にティルミオの能力が全く別の形で人に知られる事になるとは誰も思ってもいないのであった。




