第39話 役人さんに追求されました
「えっ……騙された……??」
「そうでしょう?だってこんな安い値段で買い叩かれて、買った方は値段を上乗せして転売してるんですよ。」
難しい顔で店にやってきたオデールは、何か兄妹に対して忠告や叱責があっての事だろうと予測していたが、その口から随分と想定外な話を聞かされて、ティルミオもティティルナも戸惑った。
まさか、あの売れ残りの紙束を買って大口注文までしてくれた救世主とも言える男性が、自分たちを騙そうとしていただなんて思っても見なかったのだ。
「えっ……でも、あの人はずっと売れ残ってた商品を買ってくれただけだし……」
「現品だけでなく、追加で注文があったんですよね?あり得ない位安い値段で。」
「値段は、こっちが元の売れ残り商品に付けてた値段だったから……」
「それだから足元を見られたんですよ。相場も分かってなさそうな子供だから簡単に騙して利用出来るってね。」
オデールから懇々と諭されて、段々と状況が飲み込めてくると、ティルミオとティティルナはお互い顔を見合わせて、自分たちが騙された事実に愕然としてしまった。
そんな二人の様子を見て、オデールは眉間に皺を寄せたまま、冷静に、兄妹を諭す様に言葉を続けた。
「早々に潰せて良かったです。貴女たちみたいな頑張っている子どもが悪い大人に利用されるのは見ていて気分が良くありませんから。知らない人を簡単に信用しないでくださいね。」
「……ご忠告ありがとうございます、サーヴォルトさん。コレからは取引相手に気をつけるよ。」
ティルミオは、オデールからの忠告を素直に受け止めると、ティティルナと一緒に頭を下げて感謝と反省の言葉を伝えた。
しかし、彼の話はここで終わりでは無かったのだった。
オデールは、難しい顔を崩さないまま目の前の兄妹をジッと見つめると、一層重苦しい声で、ここへ来た本当の本題を二人に話始めた。
「……それで、ここからが大事な話なのですが、貴方たちは一体どうやってこの大量の紙を用意したのですか?」
そう、オデールがここへ来た本当の目的はコレだったのだ。
出所不明な安い上質紙。作るには相当な技術と設備が必要なのだが、この家にはどう考えても紙を作る設備が無い。
だからオデールは、この兄妹が正規の方法以外で紙を作ったか手に入れたのでは無いかと怪しんで、二人を詰問せざるを得なかったのだった。
「……場合によっては、貴女たちを捕まえなければいけないです。」
「それは……」
悲しそうな顔でオデールは質問を続けた。けれども彼の問いかけに、兄妹は困った様な顔をして、何も言えなくなってしまった。
錬金術で紙を作る事は別に違法では無いから、それを説明すればきっとオデールの誤解は解けるのだが、この役人の生真面目な性格から、錬金術が使える事を明かしたら、今度は何故錬金術が使えるのかを説明しなくては納得してくれないだろうと思うと、何を何処まで明かして良いのか、直ぐに判断できなかったのだ。
「えっと……それは秘伝の術!我が家に伝わる秘伝の術があるんです!!」
果たしてこの説明がオデールに対しても通じるか分からないが、他に何も思い付かないので、ティティルナは咄嗟にフィオンの時と同じ言い訳でこの場を何とか乗り切ろうとしたが、しかし役人であるオデールにそれは通用しなかった。
「秘伝の術ですか……具体的にはどういった物ですか?何か非合法な事を隠していませんか?」
オデールは立場上、不自然な点は見逃せなかったので、ティティルナの曖昧な答えに対して更に追求の手を強めたのだ。
すると、兄妹はまたしても何も言えなくなってしまったので、そんな二人の様子から、オデールはこの兄妹は何か違法な事に手を出してしまったのだという疑心を、確信に変えざるを得なくなってしまった。
「貴方たちはやっぱり、何か違法な事に手を……」
けれども、その時だった。
思いもよらないところから、兄妹を援護する声が上がったのだ。
「何も悪い事はしてにゃいにゃ!!それは、我が贈り物を与えたからにゃ!!」
ティティルナでも、ティルミオでもない、なんとミッケがオデールの問いに答えてしまったのだ。
兄妹は、コレには流石に慌てた。
「ミッケ、落ち着こう?ね?」
「ミッケ、今の状況思い出せ。お前は猫だ。タダの看板猫だ。喋るわけがないよな?」
ティティルナとティルミオは、何とかミッケを黙らせようと必死だったが、けれども、ミッケは止まらなかった。それ程までにイライラしてたのだ。
「なんなのにゃ!!今日は皆で寄ってたかってティオとティニャを虐めるにゃ!!」
もはや隠れる気のないミッケは、堂々とテーブルの上でオデールを威嚇した。
ミッケからしてみたら、今日来た来訪者は怖い顔でティティルナたちを困らせてる悪い奴に見えたのだ。
だからミッケは我慢ならなくなってオデールに対して全力で牙を剥いたのだが、しかし、そんなミッケの怒りの声は正しい形でオデールに伝わらなかった。
「ティルミオ君、こんな時にまでそんな口調は頂けません。」
「いや、えっと……」
「あと自分の事ティオと言うのも、君の年齢では痛いですよ。」
「いや、だから……あ、はい……」
なんと真面目で純粋なオデールは、以前ティルミオがミッケの声を誤魔化した時にした言い訳を未だに信じていて、今日の声もティルミオが出していると思ったのだ。
ティルミオは、自分はそんな変な言葉使いはしないと否定したかったが、このまま誤解されたままならばミッケの事は秘密にしておけるので、不本意ながらそのまま話を合わせることにした。
……のだが、けれどもそんなティルミオの気遣いは、全くの無駄に終わるのだった。
「お前の目はふしあにゃかーっ!我が喋ってるのが分からにゃいのかーっ!!」
「あぁっ!ミッケ、ダメだって!!」
ヒートアップしたミッケが、兄妹の静止を振り切って大きく叫びながら、オデールの顔面をその鋭い爪で引っ掻いてしまったのだ。
これはもう、どうにも誤魔化せなかった。




