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第4話 錬金術

「凄い……椅子が元に戻った!!」

「本当に凄いわ!これで新しく椅子を買い替えなくて済むわね!」

「あぁ、良かった!余計な出費が出なくって!」


 初めて見る錬金術の力を目の当たりにすると、ティルミオとティティルナはすっかり舞い上がってしまい、手を取り合って、椅子を買い替えなくて済むことを喜んだ。


 すると、そんな二人の浮かれた様子に思わずミッケがツッコミを入れたのだった。


「お前たちは、感動するポイントがズレてるにゃーーっ!!」


 そう、これは壊れた椅子を買い換えなくて済むとかいう、そんな低次元の話じゃないのだ。けれども、その力の凄さの実感がまだ湧かないので、ティルミオもティティルナもミッケの叫びに不思議そうな顔をしていた。


「いいかにゃ、今のは錬金術の一種の再生練金リペアルケムにゃ。壊れた物を元に戻すだけじゃにゃく、加工された物を元の姿に戻すことも出来る凄い魔法にゃんだぞ!」

「うーん……凄い力なのは何となく分かるけど、まだ実感が……」

「そうだよ。俺たちは普通の町人なんだぜ?急に魔法って言われても……なぁ?」


 ミッケの説明を聞いても、ティルミオもティティルナもいまいちピンと来ていないようで、どこか鈍い反応を返した。


 なのでミッケはこの二人に錬金術の凄さを分からせるために、新たな可能性を示す事にしたのだった。


再生練金リペアルケムが使えたとにゃると、他の錬金術も使える可能性があるにゃ。どうやら発動できる条件が揃ったら、呪文が浮かび上がるみたいにゃので、手っ取り早く家にある物で他の錬金術が使えにゃいか試してみるにゃ!」


 そう言ってミッケは二人に指示を出し始めた。


「錬金術の基本は、材料からの錬成にゃ。お前たち、今この家にはパンの原料は全て揃っているかにゃ?」

「あぁ、あるよ。食品は流石に借金取りも持って行かなかったから……」

「それじゃあ、実際にお店のパンを作る時と同じ分量の材料を机の上に並べるにゃ!」


 ミッケの指示にティルミオとティティルナは素直に従った。二人は手分けして、小麦粉・卵・塩・砂糖・酵母菌・粉ミルク等、必要な物を持ってきて、テーブルの上に置いったのだが、ふと、ある物が足りない事に気づいて、ティルミオが大きな声を上げたのだった。


「あぁっ!」

「どうしたにゃ?」

「バターが無い。」


 お店では毎日欠かさず使っていたからバターを切らすなんて事は今まで無かったが、両親が亡くなってから仕入れを止めてしまったのだ。

 ティルミオは困ったように前言撤回した。


「ミッケ、パンの材料揃ってなかった……」


 するとミッケは動じずに、代替案を示したのだった。


「ティオ、ミルクはあるかにゃ?」

「それはあるよ、毎日飲むからね。」

「それにゃら、パンは止めて先ずはバターを作ってみるにゃ。原理は一緒にゃ。もしも錬金術を授かっていたにゃら、きっと出来る筈だからにゃ」

「……分かった。持ってくるよ。」


 新たなミッケの指示に、ティルミオは直ぐに対応した。彼は台所のかめからミルクを一杯コップに注ぐとミッケの待つテーブルの上へトンっとそのコップを置いた。


「持ってきたよ。それでどうするんだ?」

「……ティオの頭に、にゃにか言葉が浮かんだかにゃ……?」

「全くもってなかった。」

「そ、そうかにゃ……」


 ティルミオの即答に、ミッケはガッカリしたような、どこか申し訳なさそうな感じで尻尾と耳をしおらしく垂らした。ミルクに触れているこの時点で呪文が浮かばないのであれば、それは適性が無いことになるのだ。


 だからミッケはティルミオの心情を想って少しばかり浮かない顔をしたけれども、しかし、直ぐに気を取り直して、今度はティティルナの方を向いたのだった。


「ティニャ、このミルクを触ってみるにゃ。」


 再生練金リペアルケムが使えたなら、他の錬金術も使える可能性が高いのだ。ミッケは期待を込めた目でティティルナをじっと見つめた。


「うん、やってみるよ。」


 ティティルナは少し緊張しながら言われた通りにミルクの入ったコップに手を伸ばしてそっと触れた。するとまたしても彼女の頭の中に、直接語りかけるような不思議な声が響いたのだった。


「……浮かんだよ、新しい呪文……」

「「本当か(にゃ)?!」」


 ティティルナは驚く二人に対してコクリと大きく頷くと、ミルクの入ったコップを手に取り、そしてそこに塩を入れた。それからコップを両手で包み込むようにしっかりと持つと、目を閉じて呪文を唱えた。


生産錬金マニュファルケム


すると、コップの中のミルクが光輝いたと思うと白い固形物へと姿を変えたのだった。


「……バターだ。」


 コップの中に指を突っ込んで、ティルミオはそれをひと舐めして味を確かめた。それは、紛れもなくバターだったのだ。


「えっ、本当にミルクがバターに一瞬で変わっちゃった……」

「やったにゃ!ティニャは二つもスキルが使えるにゃ、天才だにゃ!!凄いにゃ!!この調子でパンも作るにゃ!」


 呆気にとられているティティルナに擦り寄って、ミッケは全身で喜びを表現して、彼女を褒め称えた。


「……私って凄い?凄いのよね??この力が有れば、パン屋を再開できるし、借金も返せるよね?!ね、お兄ちゃん!!」


 ティティルナも自分が授かった錬金術の力にすっかり興奮していた。彼女はこれで借金返済がどうにか出来るだろうと思うと、抑えきれない喜びで顔を綻ばせて、嬉しそうに兄を見遣った。


 しかし、そんな妹やミッケとは対照的に、ティルミオは一人だけ、浮かない顔で俯いて居たのだった。

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