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第36話 大口注文

 カーステン商店が再出発をしてから一週間が経った。


 二日目にいきなり借金の取り立てにあって出鼻を挫かれたが、ティルミオがギルドから許可証を買ったことでクエストのついでに色々な素材を採って帰って来れるようになり、ティティルナがそれを使って錬金術で商品を作ってお店で売るという一連の流れを確立し、お店は上手く回っていた。


 ティティルナの魔力量が上がって、前より多くのパンを作れるようになり、パンの種類もキノコパンや、ジャムパン、木の実パンと、順調に増えて、パン屋としてはすこぶる順調なのだ。


 そう、パン屋としては。


「うーん。元手がタダとはいえ、いつまでも売れ無いでいると流石にもどかしいね。」

「確かににゃ。……アレだけはずっと売れにゃいにゃぁ……」


 ティティルナたちが頭を悩ますアレ。


 そう、一週間前から鎮座したままの紙の束だけはどうしても売れなかったのであった。


 既に値段は最初に設定した額から半額にまでなっているが、それでも売れないのだ。

 通常の紙の単価から考えると有り得ないくらい破格の値段なのだが、パンを買いに来る客に白紙の需要が無いのだ。


「うーん……どうしたら売れると思う?」

「我に聞くにゃ。ニンゲンの商売は分からにゃいにゃ。」


 そんな風にお客のいない店内で、ティティルナとミッケが仲良く頭を悩ませていた時だった。


 カラン、コロン


 見慣れない客が、来店したのだった。


 慌ててミッケは普通の猫のフリをし、ティティルナは「いらっしゃいませ」と、愛想良く男性客を出迎えた。


 するとその客は、店内をキョロキョロと見渡すと、正に今話題にしていた問題の紙の束に目を留めて、酷く驚いた顔でティティルナに質問をしたのだった。


「こ……この値段で本当にこんな上質の白紙を売っているのか?!」

「えっ……あ、はい。売れなくて困ってるんですよね。」

「売れないだって?!この値段で?こんなに上質な紙が?!!」


 今迄に無かった反応を見せる男性客に、ティティルナはキョトンとしてしまった。彼女自身、イマイチこの白紙の価値を分かっていなかったが、どうやら見る人が見たら、良品なのが見てとれるらしい。


「失礼、お嬢さん。この紙はここにあるだけかい?」

「あ、今はそうですけど、必要ならばもっと用意できますよ。」

「それは素晴らしい!!なら、この紙の束は二十枚だから、とりあえず後四束用意出来るか?もし可能ならば、明日買わせていただこう。」

「明日までに四束ですか?!」

「そうだ。」


 いきなりの大量注文にティティルナは驚いたが、男性客は真剣に、そしてどこか期待した眼差しでティティルナを見つめていた。


「……やはり難しいか?」

「いえ、やります!任せてください!!」


 確かに材料となる大量の古紙を明日までに用意するのは大変だなと思ったけれども、急に舞い込んだチャンスをみすみす逃すまいとティティルナは二つ返事でこの依頼を受けたのだった。



***



「お兄ちゃんお帰り!あの紙の束売れたよ!!」


 ギルドからの仕事を終えて帰宅したティルミオに、ティティルナは開口一番に先程の出来事を嬉しそうに伝えた。


 あの売れない紙の束には、兄も一緒になって頭を悩ませていたから、どうしても直ぐに伝えたかったのだ。


 すると思っていた通り、ティティルナからのその報告を聞いたティルミオも顔を綻ばせて喜んだのだった。


「本当か?!あの紙の束が売れたのか?!」

「うん。しかもそれだけじゃないの。なんと、大口注文が入ったの。あの紙の束を、明日までに四束用意してって!」

「何だって?!」


 ティティルナのその報告に、ティルミオも目を見開いて驚いた。


 あんなにも売れなかった紙の束が、いきなりそんな大量の発注を受けるだなんて、些か信じられなかったが、けれどもこのチャンスは逃してはならないと、兄妹は言われた枚数の白紙を用意する為に急いで作戦会議を開いたのだった。


「明日までか……それはちょっと急だけど、でもまぁ出来ないこともない……かな?」

「うん。魔力量的には今の私には問題無いよ。だから先ずは材料を集めに行こうと思って。って事で、さぁミッケ、ご近所のゴミを漁りに行くよ!!」

「にゃん!!」

「ちょっと待った!!」


 そう言ってノリノリで出かけようとする妹たちを、ティルミオは直前で制止した。


「ゴミ漁りは不味い。倫理的にダメだ。」


 商店をやっていく以上、信用、信頼が大切なのだ。だからおかしな行動をして白い目で見られるようなことがあったら、それはカーステン商店の評判に関わるのだ。


「えっ……けどお兄ちゃん、それならどうやって古紙集めるの?うちにはもう古紙は無いのよ?」


 ティティルナは困惑したように兄を見た。材料になる古紙が用意出来なければ、明日までに依頼の枚数の紙を作れないのだ。

 

 するとそんな妹からの問いかけにティルミオは、顎に手を当てて慎重に考えながら代替案を提示したのだった。


「……近所の人に、ちゃんとお願いして譲って貰うんだ。そうだな……次にパンを買う時にオマケするから家にある古紙を譲ってくださいって約束するのはどうだろう。」


 それは実に建設的で商売人らしいアイディアだった。今必要な古紙を手に入れるだけでなく、次回のパンの購入も促せるのだ。材料確保と店の宣伝。同時に二つのことが出来るこの方法に、ティティルナたちも直ぐに賛同したのだった。


「なるほど!流石お兄ちゃん!」

「あぁ。これなら角も変な噂も立たないだろう?」

「ティオにしてはよく考えたにゃ。」

「ティオにしては、は余計だよ!」


 こうして、二人(と一匹)は手分けして近所を回り、パンの割引と交換条件で、顔馴染みの常連客から包み紙やチラシといった古紙を譲って貰い無事に必要枚数を集めたのだった。

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