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第35話 世の中そんなに上手くは行きませんでした

「えっ、アウリーサ洞窟に行きたいって?それは無理だよ。」


 急な借金取りの襲来から一夜明けて、約束通りに店にやって来たジェラミーに対して、ティルミオは彼と約束した稼ぎの良い狩場での仕事をしたいと持ちかけたのだが、実にあっさりと断られてしまったのだった。


「えっ、どうして?!だって昨日誘ってくれたじゃないか!」


 ジェラミーなら絶対に手助けしてくれると信じていたので、彼に断られるのは想像もしていなかった。だからティルミオは納得出来ずに彼に食い下がったが、しかし、ジェラミーにもティルミオのお願いをどうしても聞いてやれない事情があったのだ。


「まぁ、確かに誘ったけど……でも昨日の戦闘で剣が大分刃こぼれを起こしてな、今修理中なんだよ。だから、少なくとも剣の修理が終わるまでは行けないかな。それまでは、短剣だけで対処出来る魔物の討伐位なら受けれるから、森とか山の浅い所の依頼を受けようぜ。」

「そんなぁ……」


 言われてみれば、確かにジェラミーはいつも背負っていた長剣を今日は担いでいなかった。武器が無ければ強い魔物は倒せない。ティルミオはジェラミーの言い分を納得せざるを得なかった。


「昨日ジェラミーさんが戦った魔物って、そんなに強かったんだ?」


 これからギルドの仕事に出向く二人の為に(ジェラミーには昨日のお詫びも込めて)いつもの丸パンを布に包んで彼らに渡しながら、ティティルナも会話に加わった。


「あぁ。無茶苦茶強かった!Aランクの魔物だったけど、怪我をしていたのと単独だったお陰でBランクのオレでも倒せたんだ。」

「ってことは、普段はあんな大物そうそう倒さないってことかしら?」

「あぁ。あんなのは特例の特例だからな。普段はもっと身の丈に合った依頼をするよ。だからティルミオが危険な目に会う事は無いから、ティティルナも安心して良いぞ。」

「う、うん。……だけど……それだとお金が……」


 昨日のような強い魔物をジェラミーと協力して倒して報酬をがっぽり稼ぐという目論みがどんどん外れていって、カーステン兄妹の顔は次第に曇っていった。


 けれどもそんな兄妹の様子に気がつかないジェラミーは、構わずに話を続けたのだった。


「あ、そうだ。お前昨日の報奨金あるだろ?これからも冒険者を続けるんだから、あの金でもうちょっと装備を整えろよな。いくら俺が一緒だからと言っても、せめて短剣と胸当てと……後は小手位は用意したほうが良いぞ。」


 それは今後のことを考えると、とても当たり前で必要な提案であった。しかし、今のティルミオにはそれに応える事は出来ないのだ。だからティルミオは、とても苦しそうな顔で、弱々しくジェラミーに返事をしたのだった。


「それは……出来ない……」

「は?何で?」

「昨日の金は、全部借金取りに持ってかれたんだよ……」


 ティルミオからの告白に、ジェラミーは思わず言葉に詰まってしまった。まさか彼らの境遇が、そこまで悪いとは思ってもなかったのだ。


「お前ら、そんなに切羽詰まってたのか……」

「こっちとしては、そんなに切羽詰まっては無かったんだだけどね……」


 そう言ってティルミオはジェラミーに、昨日急にやって来た借金の取り立てについて詳しく話した。


「なんだそれ?!前の商会長が待ってくれるって言ってたんだから、その約束を守るべきだろう!!」


 ティルミオから一連の経緯を聞いたジェラミーは、いきなりやって来たアーヴァイン商会の新しい商会長だと言う男の横暴な態度にとても憤っていた。


 彼からしてみたら、例え口約束でも一度した約束を反故にするなど許せなかったのだ。


 けれどもティルミオは「仕方がないんだ」と苦笑しながら、この理不尽な出来事に本気で怒ってくれたジェラミーを冷静に宥めたのだった。


「まぁ、口約束で書面が残ってないからね……正式な書類を持ってる今の商会長には逆らえないんだよ。俺たちの立場は弱いんだ。」

「お前たちはそれで良いのかよ?!」

「良くは無いけど……でも、ここで揉めても俺たちに分が悪いからね。それに毎月決められた通りに返済をすれば良いんだから、地道に稼げばきっと大丈夫だよ。……稼ぎが安定するまでは、ちょっと苦しいけど……」

「そうか……」


 どこか諦めたように話すティルミオの説明に、ジェラミーはこれ以上何かを言うのを止めた。その代わりに、彼は改めて二人の方を向くと、胸をドンっと叩いて力強い言葉を投げかけたのだった。


「よし分かった!オレの剣が復活するまでの間も、出来る限りの依頼をこなそう!山とか草原とかの弱い魔物は安いけど、少しでも足しにはなるだろう。お前の採取スキルも活かせるしな。」

「あ、あぁ!よろしく頼むよ!!」


 ジェラミーからの提案に、ティルミオは嬉しそうに頷いた。彼の言う通り、とにかく今出来ることでコツコツとお金を稼せいでいくしかないのだ。


 こうして、当初の目論見からはだいぶ外れたが、ティルミオは気合を入れ直して、ジェラミーと共に冒険者ギルドへと向かう事にしたのだが、すると、出掛けようとするそんな彼らに、ティティルナが「待って」と声をかけて、二人にあるお願いをしたのだった。


「あのね、お兄ちゃんたち。山や森に入るのなら、ついでに木の実や果実、キノコなんかを採ってこれる?」

「ん?あぁ。それくらいなら出来ると思うけど、どうした?」

「本当?!それじゃあさ、それで食費を浮かそうよ。」


 妹からのその提案は、盲点だった。


 当たり前すぎて今まで目を向けていなかったが、確かに自然に生えている野草や木の実で食べ繋げば、食費は相当浮かせられるのだ。


「成程……確かにそうだな。よし、食べられる物も一緒に取ってくるよ。」

「うん!それに果実だったらジャムに加工してお店で売れるし、キノコも乾燥させて保存食に出来るわ!」

「考えてみたら野山で自分で採取してくれば元手がタダじゃないか!よし、食べられる物、売れそうな物を片っ端から取ってくるよ!!」

「うん!私も加工頑張るよ!」


 ティルミオの観察眼なら、毒草や毒キノコを避けて安全に且つ簡単に食べ物を探せるので、兄妹はこれで食費を浮かせつつ、店で売る商品も増やせられると、短絡的に考えたのだ。

 しかし、冒険者として生計を立てて長いジェラミーは、そんな盛り上がる二人を可哀想に思いながらも、彼らに水を差したのだった。


「あ……個人が少量とるなら良いけど、あまり大々的にやるなら、ギルドでちゃんと手続きして許可証を買わないとダメだぞ。」


 その発言に、知らなかったというような顔をして、兄妹は絶句してジェラミーを方を見つめた。


「……お前ら本当に何も知らないんだなぁ……気を付けないと罰せられるぞ。」


 そんな二人を呆れたように見つめ返しながらも、面倒見の良いジェラミーはこの危なっかしい兄妹に、ついつい構ってしまうのであった。


「そういうルールって俺、本当に知らないんだ。だからジェラミーが教えてくれないか。」

「仕方ないな。まぁその都度教えてやるよ。」

「有難う!頼りにしてる!!」

「ほら、いい加減そろそろギルドへ行くぞ。早く行かないと仕事無くなるぞ。」


 すっかりと話し込んでしまい、気付けば結構な時間が経っていた。


 なのでティルミオとジェラミーは、話を止めると今度こそ本当に冒険者ギルドへと向かったのだった。


「じゃあ、俺ら行ってくるからティナは店番頼むな!」

「うん、お兄ちゃん、ジェラミーさんいってらっしゃい。私もここでパンを売って稼ぐから、二人もしっかり稼いできてね。」

「あぁ、任せろ!!」


 こうしてカーステン兄妹は、アーヴァイン紹介の強引なやり方にもめげずに、気持ちを新たに再スタートを切ったのであった。

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