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第31話 ミッケの尾行

「お前たちは、バカにゃのかーーっ!!」


 ジェラミーを見送ってドアを閉めたその直後、隠れていたミッケが大きな声で叫びながら勢いよく上から降って来て、ティルミオとティティルナに対して何やら怒りだしたのだが、ティルミオもティティルナもミッケが何に対して怒っているのかが全くわからなかった。


「ミッケ?どうしたの??」


 ティティルナはキョトンとした顔で、首を傾げながらミッケに尋ねた。ティルミオも同じような感じで、不思議そうにミッケを見つめている。


 するとミッケは、不機嫌そうに尻尾をバタンバタンと叩きつけながら兄妹に物申したのだった。


「どうしたも、こうしたもにゃいにゃ。お前たち、あんにゃ奴を信用しすぎにゃ!!報酬を持ち逃げされるに決まってるにゃ!!」


 そう。初対面の印象が悪すぎた為、ミッケはジェラミーの事を全く信用していなかったのだ。


 けれどもミッケのその主張は、二人とはだいぶ見解が異なっている為、ティルミオとティティルナは顔を見合わせると、お互いに困った様な顔をしたのだった。


「……ミッケ、ジェラミーは超良い奴だぞ。」

「そうよ。お兄ちゃんの事背負ってここまで届けてくれたのよ?」

「そうそう。今日だってジェラミー一人ならもっと実入りの良い仕事が出来るところを、ランクの低い俺に合わせて一緒に簡単な仕事をしてくれたんだぞ。」

「あ、あと、やたら私の体調心配してくれてたわね。優しい人なんだと思う。」


 兄妹は賢明だったので、この短い付き合いで、ジェラミーが信頼に足る人物だと確信していたのだ。


 だから二人は、ミッケの考えを正そうとジェラミーの印象を良くする為に彼の良い所を挙げ連ねて説明したのだが、しかし、ミッケはそれでもジェラミーを信じられなかった。


 ミッケにとって、奴はパン泥棒でしかないのだ。


「お前たちは騙されてるにゃ!!分かったにゃ。ここは我が奴の本性を暴いてくるにゃ!!」

「本性も何も、無いと思うけど……」

「いいや、あるにゃ!あるに決まってるにゃ!!」


 こうして、どうしても考えを変えないミッケは、二人が呆れて止めるのも聞かずに、「絶対に化けの皮を剥いでやるにゃ!」と言って外へと飛び出して行ってしまったのだった。



***



「はい、それじゃあコレがフォレストベアーの換金分で、こっちが蒼生草の納品報酬ね。」

「有難う!」


 ミッケは、ジェラミーを監視する為に冒険者ギルドに潜り込んだが、どうやら少しタイミングが遅かったようだ。ミッケがギルドに着いた時には、既にジェラミーは換金を済ませた後だったのだ。


(お……遅かったにゃ……)


 ジェラミーの手に報酬が受け渡される前に、ミッケは邪魔をして止めたかったのだが、それは間に合わなかった。


(きっとコイツはティオの分の報酬も独り占めしてしまうにゃ!!)


 そんな風に勝手に思い込み憤慨しているミッケは、奴の好き勝手にはさせまいと、コッソリとギルドから出て行ったジェラミーの後をつけたのだった。


(奴が散財しそうになったら、我のこの鋭い爪で止めてやるにゃ!)


 勝手に意気込んで、ミッケはジェラミーを尾行した。しかし、彼はただ街を歩いているだけで、散財や着服をする気配は全く無かった。


 それどころか、重たい荷物を運んでいるおばあさんに手を貸したり、迷子の子供の親を探してあげたり、落とし物を一緒に探してあげたり、忘れ物を届けたり、とにかく彼は、道行く先々で困ってる人々を助けまくっていたのだ。


(お、おかしいにゃ……そんな筈はにゃい……)


 コレではジェラミーはただの良い人である。それを認めたくないミッケは、ひたすらにジェラミーがボロを出すのを願って尾行を続けた。


 すると、良い匂いを漂わせている露店の前でジェラミーが足を止めたのだ。どうやら、お腹が空いたのか、買い食いをするらしい。


(ほら!使い込みにゃ!きっと豪遊するにゃ!!)

 

 ジェラミーがやっとお金を使う素振りを見せたので、ミッケは物陰から嬉々として買い物の様子を眺めた。

 しかし、ジェラミーはチキンレッグを二本買っただけだった。コレでは普通の買い物で、使い込みとは程遠かった。


(にゃ……にゃんでだ?……にゃんでコイツは悪いことしにゃい?)


 思っていたのと全然違う展開に、ミッケは困惑するしか無かった。


(まさか、我の考えが間違ってたと言うのかにゃ……?)


 薄々はミッケも気付き始めていた。しかし、そんな事は認めたくなかったのだ。


 だからミッケは、諦めずにジェラミーの監視を続けたのだが、余りにジッと見過ぎたせいか、不意にジェラミーがパッとこっち振り返ったので、ミッケは、ジェラミーとバッチリと目が合ってしまったのだった。


「ん?お前は確かパン屋の猫。こんな所で何してるんだ?迷子か?」

(ば……バレたにゃ!!)


 急な展開に、ミッケは一歩、二歩と後退りした。このまま一目散に逃げ出しても良かったが、それだと何だかコチラが悪い事をしていたみたいになるのでプライドが許さなかったのだ。


「どうした?家出か?迷子か?……コレ、連れてってやった方が良いかな……?」

「にゃー!にゃあっ!!(余計なことするにゃ!お前の手にゃんぞ借りなくても帰れるにゃ!!)」


 ジェラミーはミッケの方に歩み寄ると、目の前にしゃがんでジッと三毛猫の様子を観察した。


 目の前に現れた天敵に、ミッケは声を荒げて反抗したが、ジェラミーに猫の鳴き声の違いなど分かる訳もなく、ただ、何かを必死に訴えてる猫にしか見えなかった。


「ん?どうした?何をそんなに訴えて……あ、お前もコレ食いたいのか?」

「にゃっ……にゃあ……(ぐっ……そんにゃ物いらないにゃ……)」


 ジェラミーは、ミッケは腹が減って鳴いているのかと思って、食べてない方のチキンレッグをミッケの鼻先に近づけてやったが、ミッケはぷいっと横を向いて、チキンレッグを見ようともしなかった。


 本当は直ぐにでもこの良い匂いを漂わせてる肉にかぶりつきたかったが、こんな奴から恵んでもらいたくないと言う気持ちと食欲との葛藤の末に、気高き高次生物としてのプライドを守ったのだ。


「うーん。他人から餌を貰わないように躾けられてるのかな。それなら……」


 そんなミッケの様子に、ジェラミーは少しだけ困惑した様な表情をすると、何を思ったのか、今度は自分が食べていた方の殆ど食べ終わってるチキンレッグをポトリと地面に落としたのだった。


「他人の手から食べないなら、ゴミとして落ちてたら食べるかな?」


 そう言ってジェラミーは、純粋に優しさから野良猫に餌をやる感覚で自分の食いさしをミッケの前に放り投げたのだ。


 しかしコレがミッケの逆鱗に大いに触れたのだった。


(コイツ、我に地面に落とした食べかけを施そうだにゃんて、にゃんて無礼にゃんだっ!!!)


 プライドの高いミッケにとって、これはとんでもない侮辱であった。


 だからミッケは、三毛猫が美味しそうに肉に齧り付く姿を期待してこちらをジッと見つめているジェラミーの鼻先を、思いっきり引っ掻いたのだった。


「痛っ!!なんで?!」

「シャーーッ!!!」

「痛っ!痛いって!落ち着けって!!」

「フーーッ!!」


 そうしてミッケは、何でこんなに嫌われてるのか全く分かっていないジェラミー相手に、暴れに暴れまくったのだった。


 ジェラミーにとってはただの良い迷惑であった。

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