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第30話 帰宅

「お兄ちゃん?!どうしたの?大丈夫?!」


 ジェラミーに背負われながらティルミオが家に帰宅したので、出迎えたティティルナは酷く動揺してしまった。だって朝元気に出て行った


ティルミオが、人に背負われて帰ってきたのだ。その身体を心配しない訳がなかった。


「えっ、お兄ちゃん自分で歩けないの?どっか怪我したの?!」

「違う違う、落ち着けって。どこも怪我して無いよ。こいつは倒した魔物の解体作業で気分悪くなっただけだよ。」


 ジェラミーは背中のティルミオを椅子に下ろしながら矢継ぎ早に質問を投げかけるティティルナを安心させる為に、この状況を端的かつ的確に説明したのだが、しかし、コレが良く無かった。


「は……?魔物……と戦ったの……?」

「ま、倒したのはオレだけどね。フォレストベアーと言って結構凶暴な魔物なんだけど、オレが一人で倒したんだ。」


 そう言ってジェラミーはティティルナ相手に胸を張った。

 彼はフォレストベアーを一人で倒せた事が相当嬉しくて、誰でも良いから自慢したかったのだ。


 しかし、ティティルナはそんな「凄い!」という一言が欲しそうなジェラミーを無視して、具合悪そうに座っている兄に向かってニッコリと笑うと、感情を押し殺した様な声で問いかけたのだった。


「お兄ちゃん、危険なことはしないって言ったよね……?」


 顔は笑っているけど、彼女の目は笑っていなかった。


「たまたま!今日のは本当にたまたまだったんだって!それにほら、ジェラミーが一緒だったから危険じゃ無かったぞ!」


 妹が本気で怒っている気配を察知して、ティルミオは慌てて弁明をした。


 実際の事を言えば、ジェラミーも苦戦していたので結構危険だったのだが、賢明なティルミオは詳細は黙った。


「……お兄ちゃん、もし魔物に会っても一目散に逃げるって言ってたじゃない!」

「あ、そこは守ってたぞ。コイツ直ぐに逃げ出そうとしたし、オレが戦闘中の時もずっと隠れてたからな。」


 ジェラミーは何故ティティルナがそこまで怒っているのかは分からないが、何となく不穏な空気を察してティルミオを助けようと口添えをした。


 しかし、それを聞いたティティルナは、今度は別の意味で呆れてしまったのだった。


「えっ?彼が戦ってるのにお兄ちゃんは一人で隠れてたの?!」

「そうだよ。俺は魔物との戦闘において何も役に立たないからな。」


 そんな情けない事をティルミオは胸を張って堂々と言うのだ。なのでティティルナは兄に対して何とも言えない表情を向けると、申し訳なさそうにジェラミーに頭を下げたのだった。


「それは……なんか……うちのお兄ちゃんがごめんなさい……薄情で。」

「何で俺そんな言われようなの?!」


 危なくなったら逃げてと言われてたから、その通りに逃げ出したのに、そうしたら妹に冷たい目で見られてティルミオはとても理不尽で腑に落ちなかった。


「ま、まぁとにかく誰も怪我してない上に臨時収入が手に入ったんだ。結果的に良かったじゃないか。」


 兄妹の微妙な空気を読んで、第三者のジェラミーは強引に話を丸く収めた。


 すると、今のジェラミーの発言で、ティルミオはある事を思い出して大きな声を上げたのだった。


「そうだ、報酬!ギルドに納品して報酬貰いに行かないと!!」


 ティルミオ達はティルミオの調子が悪かったからギルドに寄らずに森から家に直接帰ってきていたのだ。だから蒼生草の納品もまだだし、フォレストベアーの素材の換金もまだなのであった。


 お金を稼ぐために冒険者なったのだから報酬を貰わなきゃ意味がない。だからティルミオは、急いでギルドへ行こうと立ち上がったのだが、しかし、立ちくらみがして直ぐにその場に崩れ落ちてしまったのだった。


「無理するなって!お前は休んどけ。報酬なら俺が受け取っとくから明日届けてやるからさ。」

「そうだよお兄ちゃん!無理しないで!」


 ジェラミーは慌ててティルミオを受け止めると、彼を諭すように叱るように説得をした。

 そしてティティルナも同様に、心配そうな顔でティルミオを覗き込むと力一杯彼を止めようと訴えかけた。


 そんな二人からの強い説得に、ジェラミーの肩を借りて椅子に座り直したティルミオは、焦る気持ちを抑えて、大人しく二人に従ったのだった。


「……分かったよ。ジェラミーに任せるよ。……何から何まで悪いな。」

「気にするなって。仲間だろう?」


 そう言うとジェラミーは、オレに任せろと言わんばかりに自分の胸をトントンと叩いて見せた。


「じゃあ、オレはこれからギルドに行くよ。ティルミオ、しっかり休んで回復しろよ。」

「あぁ、有り難う。」


 それからジェラミーは、ティルミオに「また明日な」と言ってこの場を後にしようとしたのだが、すると、出て行こうとするジェラミーを、ティティルナが引き止めたのだった。


「あっ待って。お兄ちゃんを送ってくれたお礼をしないと。」


 ティティルナはそう言って小さな布包を差し出したのだ。


「パンならいいよ。今日はコイツのお陰で結構稼がせて貰ったし。」

「ううん。今日はバター。見込み間違えてバターが余ってるの。」

「バターだけ貰って困るが?!」

「うん。だからパンは明日買いに来てね。」


 ニッコリと可愛く笑いながら、ティティルナがジェラミーにお礼と称してバターを差し出したので、仕方がなくジェラミーがそれを受け取ると、彼女は「明日またお待ちしてます」と言って、とびきりの笑顔でジェラミーを送り出したのだった。


 ティティルナに、抜かりは無かった。

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