第24話 ティルミオ冒険者始めます
お店再開から一夜が明けた。
ティルミオは開店準備を終えると、自分が出来る他の仕事……冒険者として初めて仕事をする為に、冒険者ギルドやって来ていた。
(店以外の収入源……なんとかして稼がないとな。)
そんなことを考えて気負いながらティルミオは掲示板に張り出された無数の依頼書の中から、自分が出来そうな依頼を探していた。すると、不意に後ろから声がかけられたのだった。
「おい、パン屋じゃないか。」
ティルミオが後ろを振り返ると、そこには昨日ティティルナの代わりに店番をしていた若者が立っていた。
「あ、昨日の無銭飲食の人!」
ティルミオは思わずそう叫んでしまった。彼にとってそのイメージが大きかったから。
すると、声を聞いた周囲の人々が不穏な感じでこちらを眺めてヒソヒソと囁きだしたので、若者は慌ててティルミオに対して大きな声で訂正を促したのだった。
「おい、言い方!!無銭飲食はしてないだろ?!ったく、オレはジェラミーって言うんだよ。というか、パン屋はこんな所で何をしているんだ?」
「俺はパン屋じゃなくてティルミオ。あと、店もパン屋じゃなくて今はよろず屋なの。店は妹に任せてあるから、俺はこっちでお金を稼ぐんだ。」
冒険者ギルドに居るのだから仕事を探してるに決まってるのに、そんなに俺は冒険者には見えないのかと思いながらティルミオは少しだけ不服そうに答えると、するとジェラミーは、意外そうな顔でティルミオの事をマジマジと見つめて驚きの声を上げたのだった。
「お前、冒険者だったのか?!」
「……なったばかりだけどね。」
「あと、あの妹に一人で店を任せて大丈夫なのか?!また倒れないか?身体が弱いんだろう??」
ジェラミーの中で、ティティルナは病弱ということになってしまっていた。だから彼は、あんなに体調を悪そうにしていた彼女の事を気にかけていたのだ。
「まぁ、それは心配ではあるけど……でも、流石に何度も同じ間違いを繰り返す程馬鹿じゃないと信じてるから。」
ティルミオは、ジェラミーがティティルナの事を病弱だと思い込んでいる部分については曖昧にして答えた。
ティティルナがまた魔力切れを起こさないかどうかは確かに心配であったが、もう無理はしないと昨夜約束したのだ。ティルミオは妹を信じたのだった。
「ふぅん……まぁ、それなら良いんだけど……」
ジェラミーはそう言って一応は納得をして見せたのだが、なんだか歯切れが悪かった。
そしてジェラミーは微妙そうな顔のまま、今度はティルミオ自身に対して言葉を投げかけたのだった。
「うーん。オレが心配なのは、妹だけじゃなくてお前もなんだよな。」
「えっ?俺??」
急にそんな事を言われて、ティルミオは目を丸くして驚いてしまった。昨日少しの間しか会ってないのに、自分に心配される要素がどこにあるのか皆目検討もつかないのだ。
そんな風にティルミオが戸惑っていると、ジェラミーは憐れむような声で彼が心配するその理由を告げたのだった。
「お前は、そんな装備で本当に大丈夫か……?」
彼は、ティルミオの格好から、彼が冒険者としてやっていけるのか心配になったのだ。
ジェラミーがそう指摘するのも無理はなかった。胸当てや小手といった防具を身にまとい長剣を携えている彼と違って、ティルミオは動きやすい服装ではあるが防具などは一切身に付けておらず、彼が腰に下げている武器は草刈り用の鎌と家畜解体用の肉切り包丁なのだ。
「初心者だからって、他の人はもっとちゃんと武具をそれなりに揃えるぞ?」
「それは……そんな物を買うお金が無いからだよ!」
ジェラミーに指摘されて、ティルミオは少し悔しそうに事実を述べた。
「確かに冒険者としては頼りない格好かもしれない。けど、俺は本気だよ!妹が頑張ってるんだから、俺だって自分の出来ることで稼ぎたいんだ。特に優れた技能がある訳じゃないけど、冒険者なら身体一つで稼げるから。」
そう、妹と違って贈り物が発動していないティルミオはコレで稼ぐしか無いのだ。だから彼は真剣な表情でジェラミーにその決意を説明をしたのだが、しかし、そんな熱意あるティルミオの言葉にもジェラミーは辛辣だった。
「……お前、冒険者舐めてないか?そんなんだと大怪我をするぞ?」
彼にしてみたら、熱意だけあっても武器も防具も無いティルミオは、冒険者稼業を舐めているとしか思えなかったのだ。
ジェラミーは、歳はまだ十六歳と若いが、既に四年も冒険者としての実績を積んでいた。だから知っているのだ。今までティルミオのように準備が不十分なまま依頼に挑んで大怪我をした初心者が多くいることを。
だからジェラミーは、意地悪や見下しでこんな事を言っている訳では無く、純粋にティルミオが心配で忠告をしてるのだが、けれども、ティルミオは引き下がらなかった。
「舐めてないっ!!……けど、正直自分だって冒険者になった所で出来ることは少ないと思ってるよ。俺は武芸は出来ないから魔物討伐なんかは出来ないし、採取や採掘の簡単なクエストしか出来ないと思ってるよ。でも、とにかく少しでも稼ぎが必要なんだ。」
そしてティルミオは、両親が最近亡くなった事、借金がある事、そして一ヶ月後に税金を納めなければ店が差し押さえられてしまうといった自分たちの事情を掻い摘んでジェラミーに話したのだった。
「……そうか、お前たち苦労してるんだな……」
ティルミオから事情を聞いたジェラミーは、先程までとは打って変わって彼を憐れむような目で見て同情を寄せていた。
「まぁ、まだ始まったばかりだから。苦労するのはこれからだと思うよ。」
「なるほど。だからあの娘も病弱なのに無理してお店に立ってるのか……」
「えっ?……あぁ、うん……そうだね。」
ティルミオは、ジェラミーがティティルナの事を病弱だと完全に思い込んでいることに少々戸惑いを覚えたのだが、錬金術の事は言えなかったので、特に訂正をしないまま、曖昧に頷いた。
すると、そんなティルミオの様子に気づくことなく、ジェラミーはうんうんと頷きながら腕を組み何かを勝手に納得すると、今度はティルミオに向かってこう提案をしたのだった。
「よし!お前の覚悟は良く分かった。そう言うことならオレも出来る限り協力してやるよ!」
「えっ?それってどういう事?」
いきなりそんな事を言われても、ティルミオには全く意味が分からなかった。するとジェラミーはそんなティルミオに対してビシッと人差し指を突き付けて宣言したのだった。
「だから!先輩冒険者として何か困った事があったらいつでも相談にのってやるよ!!」
どうやらジェラミーは、情が厚くこう言った話に弱いみたいで、可哀想なカーステン兄妹の境遇を聞いて、何か力になってあげなければと、心の底から思ったのだ。
右も左も分からない冒険者初心者のティルミオにとっては、ジェラミーここの申し出は大変有り難かった。
「有難う!よろしく頼むよ!!」
「あぁ、任せろ!」
そう言って、ジェラミーはティルミオに向かって満面の笑顔で親指を立てて見せた。その姿は、ティルミオにとって本当に頼れる先輩といった感じでとても頼もしいと思った。
それと同時にティルミオは、昨日ジェラミーを無銭飲食だと疑ってしまったことをこっそり反省したのだった。




