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第23話 一日の終わりに

「やれやれ、にゃんだか騒がしかったにゃぁ。」


 ザイルード兄妹が帰ると、今まで隠れていたミッケがひょっこりと顔を出した。


「ミッケ、お前居たのか?!」

「居たのかって酷いにゃ!我はずっとこの部屋に居たにゃ。」


 そうなのだ。ミッケは下からは見えないけれども棚の上にずっと居て、一連の会話をしっかりと聞いて居たのだ。


「ティオはフィオンにもフィオネにもティニャにも、言われっぱなしだったにゃあ。」


 高みの見物だったミッケは、一連のやり取りを掘り返して、ティルミオを揶揄うように彼の周りをぐるぐると歩いた。


「う……悔しいが返す言葉がない……」


 それからミッケはティティルナに擦り寄って、彼女の機嫌も確認した。


「ティニャも、随分と不満が溜まってたんだにゃ。言いたい事言って、スッキリしたかにゃ?」

「うん。まぁ本当のところ別にそこまで怒っては無かったんだけどね。あの場をどうにかしなきゃいけなかったし、良い機会だから言っちゃった。」


 ティティルナはそう言って、てへっと笑った。その様子は本当にもう全然怒っていないのだ。そんな彼女の笑った顔を見て、ミッケは安心したのだが、しかし、ティルミオはどうしても解せなかった。

 彼は妹が本当に不満を溜め込んで爆発したとばかり思っていたからだ。


「えっそうなの?!お前アレで怒ってなかったのか?!」

「そこまではね。あ、でも不満を持ってたのは本当だし約束はしたんだから、コレからはちゃんとしてよね?」

「……あぁ、分かったよ。」


 ティルミオはどこか釈然としなかったが、ここは素直にティティルナの言う事に頷くと、彼女はとても嬉しそうにニッコリ笑って「絶対だよ」と念を押したのだった。


 どうやら妹に完全に手玉に取られていたことが分かると、ティルミオは、大きく息を吐くとまるで脱力したかのように、どかっとソファに座り込んでしまった。


 あんなに色々とダメ出しをされて、密かに本気で凹んでいたりもしたのだが、妹がそこまで本気で怒っていないと分かると、なんだか急に、どっと疲れが襲ってきたのだ。


「にしてもなんか疲れたな……本当に今日は色々ありすぎたよ……」


 朝一番に役人と話し合いをして、お店をよろず屋として新装開店して、無銭飲食とティナの魔力切れ騒動があって、そしてザイルード兄妹とのあのやり取りだ。一日の中に起こる出来事としては多すぎだった。


「これくらいで疲れるだにゃんて、ニンゲンは弱いにゃぁ」

「働いてない猫は黙っててくださーい。」

「にゃんだと?!我の勇姿を忘れたにゃ?!」


 まるで働いていないかのように言われて、ミッケは心外だと言わんばかりに爪を見せて抗議の声を上げた。この爪で不届き者な若者に一撃をお見舞いしてやったのだから立派に働いていたのだ。


「まぁまぁ、ミッケも、お兄ちゃんも、私もみんな良くやりました。疲れはしたけど、お客さんも来てくれたし、とても良い再スタートだったんじゃないかしら。」


 またしても言い争いになりそうになっているミッケとティルミオを宥めるように仲裁に入ると、ティティルナはミッケを膝の上に抱えながら兄の横に腰を下ろした。


「そうだな。パン、全部売れたもんな。」

「うん。バターも大当たりだった。パンもバターも明日はもう少し増やせると良いんだけどね。」


 そう言ってティティルナは膝の上のミッケを優しく撫でながら、隣に座る兄にもたれ掛かった。


 すると、ティルミオは心配そうな顔をしてティティルナの顔をマジマジと見つめると、改めて妹に念を押したのだった。


「お前、もう本当に無理はするなよ……?」


 ティティルナは既に二度も魔力切れを起こしているのだ。兄として頑張ろうとする妹を心配するのは当然だった。


「うん、分かってる。流石に三度目はない……と、思いたい。」

「そこは言い切ろうよ!」

「う……でも自分じゃ分からないんだもん。……とりあえず、今度からミッケの言うことは大人しく聞く事にするから。」

「任せるにゃ!ティニャが無理しないように、今度こそしっかり見張るにゃ!」


 どこか危なげなティティルナをフォローするように、彼女の膝の上のミッケは胸を張って答えた。そしてそんな頼もしい返答に、ティルミオも目を細めながら「頼んだぞ」とミッケの頭を撫でたのだった。


 こうして、二人と一匹は穏やかに明日からの新たな決意を確かめ合ったのだが、しかし、話が綺麗に纏まったと思いきや、実はまだ、悩みの種が残っていた。


「で、問題はコレなんだよな……」


 そう言うティルミオの目線の先には紙の束が鎮座して居た。用意した商品の中で、コレだけは売れなかったのだ。


「うん…今日来たお客さん、紙には見向きもしなかったよ……」


 元がパン屋で、よろず屋に変更したからといって、お客さんはパンを買いに来ているのだ。売れなくて当然である。


 元手がタダだから売れればパンよりも簡単に利益が出るのだが、しかし、売れなかったら意味が無いのだ。


 兄妹は思わぬ誤算に頭を抱えた。


「お兄ちゃん、どうするのコレ?」

「まぁ、食べ物と違って時間が経っても平気な物だから、とりあえず、毎日値段を下げて行って売れるまで粘ろう。」

「そうだね。原価がかかってないからどんなに安くても売れさえすれば儲けが出るもんね!」


 しかし、この判断が良く無かった事を兄妹は後々思い知るのであった。

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