“朝顔の君”にシャインマスカットを添えて
今日は“白い”黒楓です!!(*^^)v
親父の転勤で家族(と言っても親父、お袋、オレの三人だが)みんなで大阪に越して来た。
正直言うと、オレは嫌だった。
世間的にも中三の12月なんて最悪のタイミングで……せっかく積み上げて来た内申がご破算となり、遥奈ちゃんと“めくるめく公立高校ライフ”を送る予定も消し飛んだ。
「だって健人くんトコ、持ち家なんだから、そのまま残れないの?! 独り暮らしするのなら私も応援するよ!」
遥奈ちゃんは涙目で食い下がって来たが、心配症のお袋は“ワーカーホリック”の親父の単身赴任も“色気づいたオレ”の独り暮らしも許さなかった。
加えて、私学へ入学しても国の就学支援金と府の授業料支援補助金が受けられるとの事で、オレは3学期から大阪の中学生となり、すぐに受験を迎えた。
私立単願という事もあり、早々に受験を終えたオレは、約1か月後の遥奈ちゃんの受験に向けての応援をしようと一日に何度かメッセをした。
最初はそれなりに返信が来たが、段々と滞り、「まあ受験前だし……」なんて思っていると悪友の田中から電話が来た。
「お前!山崎遥奈が杉田凌士とデキて、二人一緒に銘大付属に入学するって知ってた?」
この瞬間、オレの初恋らしきものはあっさりと終わった。
オレ達の引っ越し先は大阪の中心よりは南に下った小田舎だったが、“ミナミ”と言われる地域にある親父の会社までは電車でわずか30分位らしく、いたく感動した親父は家賃の安さも相まって即決した。
こうしてオレは自転車通学の田舎の高校生となったわけだ。
中学の頃は、東京なまりの大阪弁を話して相当気味悪がられたが、オレは元来、音感が良い方なのでこの短期間でかなり矯正ができた。
特に軽音の部活で夏休みの殆どを“ネイティブ”な奴らと過ごせたお陰で……夏休み明けには、家と学校でバイリンガルをやって、朝出かける前、忙しい親父に大阪弁の指導をする位になっていた。
そんなわけで時間が押して学校へ向け自転車を飛ばしていると、道の脇の空き地のところどころに青い花が咲いているのが目に留まった。
「いったいいつの間に??」と自転車を停めて空き地を覗いてみると、どこから種が来たのだろうか? 小さいながらも朝顔の青い花がそこここに咲いていた。
なるほど、朝顔なら帰りにはしぼんでいるし……分からなかったはずだ。
妙に納得して自転車に戻ろうとすると足元に制服のリボンが落ちていた。
「この模様!」と念のために自分のネクタイを確かめてみると色は違えど同じ柄だ。
「“緑”ってことは……2年生か?」
ひっくり返してみるとタグのところに『保住有咲』とペン書きされていた。
「この時間じゃ戻って来れないだろうから届けてやるか」とリボンを拾い、背中のベースギターを背負い直して自転車にまたがった。
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2年生は新校舎の方なので、下駄箱にくっ付いているネームタグからクラスを突き止めてそのまま向かった。
3組の教室の前まで来たが、さすがにそれ以上は分からないので、教室の中へ向かって声を張り上げた。
「あの! 保住さん!いらっしゃいますか?」
教室の奥の方にポニーテールの子が三人居て、その一人が振り返った。
「この人かな?」と目を凝らすと、その子はクルリと背を向けて悪戯っぽい仕草で隣の子を肘でウリウリして何か囁いた。
囁かれた子はこちらを向き、オレを見ると怪訝な顔で首を傾げた。
「保住は私だけど、何やの?」
リボンのない学シャツ?(ブラウス??)はボタン2つ外しで……白い肌に目がチカチカした。
「あの! リボン! 道に落ちてた!! あなたのじゃないですか?」
背負っていたベースを下ろしソフトケースの下ポケットのジッパーを下げるとシールドにリボンが絡まってしまっていた。
「すみません! 朝顔が咲いていた空き地で拾ってそのまま入れてしまったから……」
「ありがとう!! やっぱりあそこやったんや! 助かったわ! 気い付いたんがさっきやったし」こういいながら襟に指を引っ掛けてパタパタするので、オレは慌てて視線を外した。
「ホンマ助かったわ! 今から戻るワケいかへんし昼休みにチャリ飛ばそう思っててん!」
保住さんが大きな目を細めてニコニコすると今までの大人びた表情が一気に可愛くなってドキン!とする。
「なに?アンタ、アリサに告りに来たん?」
一番最初に振り向いた子がニヤニヤとちょっかいを出して来る。
「なにゆーてんの! 落とし物届けに来てくれたやろ? えっと!……何クン?」
「あっ!佐藤です」
「キミ、1年やろ? でも1年の佐藤だけじゃアリサも分からんやん! キミみたいなストーカーちゃうんやから」
「なっ?!! オレ!ストーカーじゃないです! リボンに名前書いてあったから」
「アリサ! リボンにクラスまで書いてんの?」
「書いてへんよ」
「それは! 下駄箱の名札で確認したんですっ!!」
「ホラ!やっぱりストーカーや」と“チャチャ入れ女子”がケラケラ笑う。
「メイ! そのへんで許したり! でもアンタも悪い!」
こう言いながらアリサさんは吹き出した。
「さっきからイキり過ぎやし!」
「スイマセン! 1年2組の佐藤健人です」
「ホラ!またイキってる! まあエエワ!すかした健人くん!ちょっと目えつぶって! おねーさんがとっときのプレゼントあげるから」
「えっ?!えっ?!」とドギマギするオレの背中に“チャチャ入れ女子”が回って
後ろから伸びて来た手で両目を塞がれた。
背伸びしての目隠しだから、半ば抱き付きで……“何か”が当たってるようでヤバいんですけど……
加えてギャラリーからヒューヒューやられて熱くなったオレの顔にツルンとした感触のものが押し当てられた。
「そのまま口開けて!」
アリサさんの言葉に従うと口の中に丸い物が放り込まれた。
「ワタシのとっときの今日のデザート! シャインマスカットや!」
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今朝の空は秋の雲で、半袖には涼し過ぎる風がそよいでいた。
こんな日はアリサと初めてあったあの日を思い出す。
だからオレは会社帰りに閉店間際の地元のスーパーへ立ち寄った。
今ではオレも親父と同じ様に都心から1時間半離れた小さな戸建の主で……高校大学と結構入れ込んでいたベースも押し入れの奥の奥にしまい込まれている。
けれども……アリサには今も変わらずゾッコンだ!
今日はスーパーでゲットしたこのシャインマスカットでアリサの唇を奪っちゃおう!!
例え、年頃のムスメ・ムスコにドン引きされても……
こんな仕返しをオレはやりたい!!
おしまい
こういうジャンルはしろあえでに任せているので結構、新鮮でした!!(*^。^*)
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