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続・辰巳センセイの文学教室~ふたりが紡ぐ物語~  作者: 瀬川雅峰
Ⅰ 銀河鉄道の夜_辰巳祐司×岩嶺ハルミ
6/53

5 銀河鉄道の夜 授業一



10月5日(水)


あかいめだまの さそり

ひろげた鷲の  つばさ

あをいめだまの 小いぬ

ひかりのへびの とぐろ


「作品の中で、町の子供たちが祭りの日に歌う『星めぐりの歌』だ。この歌は、宮沢賢治自身が作詞作曲した。有名なので、聞いたことがあるひと、多いんじゃないかな」


 独特の安らぎと広がり。かすかなもの悲しさ。宮沢賢治の創作世界の色。


 CDデッキのボリュームを絞りながら、本文の朗読を始める。


――「ではみなさんは、そういうふうに川だと云われたり、乳の流れたあとだと云われたりしていたこのぼんやりと白いものがほんとうは何かご承知ですか。」 


 学校の先生が銀河について語る有名な冒頭だ。

 できるだけ、聞き取りやすいように意識しながら朗読した。


 作品の世界は、どこかこの世界とずれた、幻想的なディテールを備えている。宮沢賢治は、自分の描く幻想世界を「イーハトーブ」と呼んだ。


 主人公ジョバンニの住む町は、『ケンタウル祭』の当日を迎えている。


「この町では祭の日、(からす)(うり)を川に流すしきたりがある。お盆とか、精霊流しとか……どこか霊的なお祭りぽいね」

 

 実習にくる少し前、小柳先生との打ち合わせで、銀河鉄道の夜を任される、と聞いたときは驚いた。中学校で扱う教材としてはボリュームがあるし、テーマも深い。

 実習生に任される題材としては高度過ぎるのではないかと思ったが、大学時代に明治、大正の文学はそれなりに読み込んできた、と話したら、じゃあ、思い切りやってみていいよ、と任されてしまった。


 昨夜はさすがに緊張して、夜中まで教材を見直した。おかげで頭に流れは入っているが……授業をする、となると自分が理解しているだけでは追いつかない。板書計画や教授内容を書込んだノートを視界のすみでチラチラと見て、段取りを忘れないよう意識しながら説明していく。


「作品は、ジョバンニの学校生活から始まる。家計を支えるため、朝夕に働いているジョバンニは疲れ切っていて、授業中も先生の質問に答えられないほどだ」


 学校が終わって夕方になると、ジョバンニは印刷所で活字拾いの仕事。


 仕事を終えて家に帰るジョバンニを待っているのは、病気で伏せっている母親。漁師の父親は「らっこの毛皮」をお土産にもってくると約束したまま、長いこと帰っていない。遠くの国で監獄に入れられているのではないか、という悪い噂が広まっている。


「ジョバンニは、職場では周囲から冷たくあしらわれていて、学校でも何かといじられる……安心できる居場所がない。そんなジョバンニにとって心強い存在なのが親友のカムパネルラだ。二人は父親同士も友人で、昔は親子でカムパネルラの家に遊びにいったりもしていた」


――「あのころはよかったなあ。ぼくは学校から帰る途中たびたびカムパネルラのうちに寄った。カムパネルラのうちにはアルコールラムプで走る汽車があったんだ」


 ジョバンニが昔を懐かしんで、ベッドで寝ている母親に話す。


 授業で話題になった銀河、カムパネルラの家の汽車の模型、町の時計屋にある星座盤など、銀河鉄道に繋がるいくつものイメージがさりげなく配置されていく。

 銀河鉄道はジョバンニの記憶から生み出された存在であることを暗示している。


 他の子ども達と違って、ジョバンニは仕事と家の手伝いで忙しい。でも、せっかくなのだから……と病床の母親に促されて、少しだけ祭を見に行くことにする。

 ジョバンニは飾り付けられた美しい町を眺めながら歩く。しかしそこで、クラスでいつもからかってくるザネリ達に出会ってしまう。 

 

――「川へ行くの。」ジョバンニが云おうとして、少しのどがつまったように思ったとき、「ジョバンニ、らっこの上着が来るよ。」さっきのザネリがまた叫びました。「ジョバンニ、らっこの上着が来るよ。」すぐみんなが、続いて叫びました。


「小学生くらいの意地悪な子ども達ってこんな感じ……って思うよね。周りから一斉にからかわれて、悔しさと恥ずかしさでカーッと熱くなる。そのグループの中にはカムパネルラもいて、彼は気の毒そうに黙って見ている。ジョバンニはとうとう辛くなって走り出し、一人で丘を登っていく」


 ジョバンニをからかう集団の話をしたとき、少し気になる様子があった。

 クラスの中で活発な女子たちが明らかに同じタイミングで笑いをもらした。瞬間的に交わされる視線。ちらり、と向けられた先は――二日前の放課後、バスの席表を書いた秋山。


――ジョバンニは、(いただき)の天気輪の柱の下に来て、どかどかするからだを、つめたい草に投げました。


 ジョバンニの目には、夜空の銀河と、現実の風景が溶け合うかのように見え始める。どこかから「銀河ステーション」という声がして、眼前が明るくなる……と、気がついたら小さな列車の中に腰掛けていた。


――気がついてみると、さっきから、ごとごとごとごと、ジョバンニの乗っている小さな列車が走りつづけていたのでした。ほんとうにジョバンニは、夜の軽便鉄道の、小さな黄いろの電燈のならんだ車室に、窓から外を見ながら座っていたのです。


「突然飲み込まれるように乗り込んだ鉄道。次回は、ここから読んでいこう。今日はここまで。日直さん、号令をお願いします」


 なんとか予定していたところまで終わった……礼をしたら、教壇でそのまま脱力しそうになった。

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