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続・辰巳センセイの文学教室~ふたりが紡ぐ物語~  作者: 瀬川雅峰
Ⅲ 智恵子抄_辰巳祐司×咲耶

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序 遠い記憶


カンカンカンカンカン

カンカンカンカンカン



 遠くから不吉な鐘の音が聞こえる。


 長く長く鳴らされるその音の後ろに、くぐもった、ぐううう、と重い音が重なって響いている。夜の闇の中で聞くそれは、悪夢そのもののようだ。


 私は、暗闇の中、しゃがんで小さくなって、耳を塞いでいる。

 怖いことが、良くないことが早く終わりますように。

 ここから外に出たときにも、わが家が無事でありますように。


 こうして祈ることしかできない自分は無力だと思う。それでも、精一杯頑張らなきゃと気持ちを張る。

 背中に背負ったままの避難袋を肩から抜いて、身体の前で抱えた。いざというとき、大切なものをもって逃げるために自分で縫ったものだ。


 簡単な作りだけど、肩紐で背負えるようにして、長く持ち歩けるように縫い目は丁寧に、頑丈に仕上げた。上は巾着になっていて、紐で絞ることができる。


 そして、袋の左右に小物入れを縫い付けた。

 背中側から見て右側は、ほんの少し、大きくして。


「すぐ出せる物入れがいくつかあったほうが便利だから」


 手元を覗いてきた母には、そんな風にうそぶいたけど。


 そっと、中身で膨らんだ、少し大きめの小物入れに指を当てる。


 角張った形を指でなぞる。大切なもの。

 この小物入れは、中身に合わせて作ってある。

 指先の感触が身体に広がって、私を包んでくれるように感じる。


 頑張らなきゃいけない。くじけてちゃいけない。

 これをくれたあの人のために。


 口の中で、私にだけ聞こえる声で、大切な言葉を唱えた。


 あの人がくれた短い言葉。それが私に力をくれる。

 避難袋をぐっと力を入れて抱きしめた。

 


――あの人を待つんだ。この家で。

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