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続・辰巳センセイの文学教室~ふたりが紡ぐ物語~  作者: 瀬川雅峰
Ⅱ 源氏物語_宮本綾×黒沢黎
42/53

補講 姫とセンセイじゃなくなる日



 宮本先生の結婚式で言われた言葉。


 あれをきっかけに、私は結婚のことを考えるようになった。


 二十歳になった自分と、十二歳上の辰巳センセイ。

 結婚適齢期、という言い方はあるけど、それっていつなんだろうと。


 私が大学を出るまで待ったら彼は三十四歳。

 私が仕事に就いて五年くらい働いて、一人前になるまで待ったら……私が二十七歳で、彼は三十九歳……むむむ。


 きっと「適齢期」はそれぞれにあって、いいんだよね?


 ◇


「ねえ」


 彼の部屋でゆったり過ごしていた週末の昼下がり。


「ん?」

「相談……というより、提案があります」

「なんだい?」


 いつもの笑顔を向けられて緊張したけど――さらっと言った。


「結婚しませんか」


 これが私が出した「適齢期」の答え。



 二十歳だって、二十五歳だって、早いという人はいる。

 彼のことは五年間、ずっと見てきた。彼がどんな風に人を支える人で、どれだけ優しい人か、どれだけ傷を負った人か、生徒として。その後は恋人として。


 手を繋ぎながら、抱きあいながら、頼もしいところも、ちょっとだけ残念なところも。


 それでも私は変わらず、いや、ますます彼が好きになってて、一緒にいたいと思ってる。彼も、そう思ってくれているなら……きちんと一緒になって、二人でここからの時間を過ごしていきたい。同じ空気を吸って、同じものを見て、同じものに喜んで、悩んで、困難は二人で乗り越える。


「……そうしようか」


 一言目は、普通に返事が来た。


 でも、彼はそのまま頭を抱えて、あーっと声を上げて。


「咲耶、ごめん。せっかくなんだけど、仕切り直させてくれないか。ちゃんと言いたいんだ。」


 妙なお願いになって返ってきちゃった。


「いや……そのお願いというか提案は、俺からしなきゃってずっと思ってたから。君に言わせてしまったら申し訳ないというか。女性がしっかり者で、男はぐずぐずじゃ……千年前から進歩がない……」


 あたふたと言い訳する。こういうところ、一回りも年上に見えない。



 しょうがないなぁ……言わせてあげます。



「君のことは必ず幸せにする……いや、必ず二人で幸せになれるようにする。情けない男の自覚はあるけど、せめて咲耶のことはしっかり支えたい。君に対しては、頑張っていたいんだ」



 優しく、だけどしっかりと肩を掴まれている。


 真っ直ぐに瞳を見つめられる。



「あらためて、俺からお願いします……これからずっと、咲耶に隣にいてほしい」



 私はきっと真っ赤になってる。

 奥まで見通してくるあなたの瞳。吸い込まれそうです、センセイ。



「結婚してください」



 熱が上がってきたみたいに、ぽーっとしてる。


 私は一度「はい」と答えたけど。


 ちゃんと聞こえたかな、と不安になるくらい、小さい声になってしまって。



 辰巳センセイ……いや、あなたにちゃんと答えたくて。



――もう一度、はっきり「はい」と言った。





                『源氏物語』編  了

             ――最終章『智恵子抄』編に続く

第二部 源氏物語編、これで完結です。

最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。


評価&ブックマーク、どうぞよろしくお願いします!



この後、ラストとなる第三部『智恵子抄』編に続きます。

三部のふたりはずばり「祐司×咲耶」です!


しばしお休みを挟みますが、早々に再開の予定です。


期待を裏切らないフィナーレをお送りします。

どうぞラストまでよろしくお付き合いください。

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