17 ひとり
先生をしている日々は、忙しく、あっというまに時間は流れた。
黎と別れて、十年。
過ぎてしまえば、本当にあっという間だった。
送り出した生徒はもう千の単位だ。先生として過ごした時間も十五年を超えた。
ある日、私は黎と雑誌の中で再会した。
旅行会社のキャンペーン用の写真。
華やか、賑やかな写真ではなかった。抑えめの色調でまとめた服装と、落ち着いた表情の女性。そして、画面にはその女性以外の誰も写っていない。
学生時代の彼が得意にして、盛んに切りとっていた『世界』。人の匂いだけを残しながら、独特の孤独と静けさを感じさせる風景。そこに一人でたたずむ少女……とても魅力的だった。
黎の写真の完成形がやっと見られた気がした。撮影者の名前を確認するまでもなく、一目でわかった。黎の絵作りだと。
それがわかった自分……つくづく、自分にとっての黎は大きかったと感じて悔しくなった。
それから、彼はいくつもの作品を世に出した。
女性の魅力と、世界の魅力……二つを絶妙のコントラストで重ね合わせる黒沢黎の写真は瞬く間にファンを掴み、カメラマンとして成功者への道を彼は歩み出した。
ほどなくして、黒沢黎の女性スキャンダルの噂が流れた。
当然のように浮名の相手は若いモデルで……その後もまた別のタレントと……彼は時折スキャンダルを起こして雑誌に取り上げられた。結婚には至らなかったようだが、なんというか。
――変わってないなぁ。仕方ない人。
そう思って、ふふっと笑ってしまった。




