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続・辰巳センセイの文学教室~ふたりが紡ぐ物語~  作者: 瀬川雅峰
Ⅰ 銀河鉄道の夜_辰巳祐司×岩嶺ハルミ
19/53

18 きっと、これから――


 今のお互い、そして、あの頃の話題。


 コーヒーのおかわりを挟んで岩嶺晴海と話してたら、いつの間にか一時間以上経っていた。


「荻野さんたちがやっていたこと、あれが初めてじゃなかったのは私も知ってました。それまでも時々万引きして、一度は楓も巻き込まれたって。でも、あのときは金額も大きかったし……楓が辛そうにしてたし。それに……」


「それに?」


「……先生が来てた、というのも、あったんです。元々の先生方は慣れてしまってて、秋山さんがいじられてもまたなのね、って見てるところあったから……先生、バスの席決めとか、掃除のときも、そのあともずっと楓のこと、気にしてくれましたよね。だから……味方が一人多い今ならって」


 あの事件があったことで、教育実習の後、俺は教員になることを真剣に考えるようになった。就職活動をせず、ただ日々を過ごしていたあの頃の自分にとって、翌年夏の採用試験というひとまずの目標が生まれた。


「君たちとのことがなければ、今こうして教師をしていなかったと思う……今度の春から、いよいよ担任をもつことになったよ。まずは、全力で先生を頑張ろうと思うよ」



 晴海が僅かに首を傾げて、じっと見つめてくる。


「先生。先生の宿題は……」


 空気がびりっと固まる。

 視線が深いところに入ってくるのを感じた。


「まだ……終わって……ないんですね」

「……終わる日は、きっと来ない」

 終わったと思うことは、許されない。


「でも……」

 晴海は、短く言葉を句切って、また少し考える顔をした。ほんの少し、優しい目をさらに細めて言葉を継ぐ。


「私が先生に会って、変わったように。先生が私たちに会って先生になったように。人に何かのきっかけをくれるのって、人なんだって思います。先生が担任をもって、新しい生徒と出会って……そしたらきっと、先生にもまた新しいきっかけが生まれるんじゃないかって……そんな気がします」


 そんなことは……と否定したくなる気持ちを、ぐっと押さえた。


 これは晴海なりの心遣い。

 精一杯のエールだ。


「……そう上手く、いくかな」


「きっと、きっと先生はこれから巡り会うんです。大切なきっかけに」


 

 ◇



 喫茶店のドアを開けて、外に出ようとした。


「先生……」

 背中から声をかけられて振り返る。


「先生、私、今ここにいるの、きっと先生のおかげです」


 晴海は微笑んで、頭を下げた。




 空に灰色の雲が分厚く重なっている。


 ――雪が降りそうだ。

 そう思って、コートの襟を重ねて、歩き始めた。


 明日は勤務校の入試がある。

 準備の仕事もいろいろあるから、いつもよりずいぶん早起きしなくてはいけない。


 


 ――雪で電車が停まったりしなければいいのだが。



                 

               『銀河鉄道の夜』編  了                   

           辰巳センセイの文学教室 上巻へ続く


第一部 銀河鉄道の夜編、これにて完結です。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


評価&ブックマーク、どうぞよろしくお願いします!。



この後は、しばしお休みを挟んで、読み切り短編、第二部へと続きます。

よろしくお付き合いください。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ああ、やっぱり銀河鉄道編は良い。 だいすき! ひとまずひとまずのところ、お疲れ様でした。 なに、今は急ぐことはないんです。 納得に行くもの書きましょうよヽ(゜∀゜)ノ [一言] 自分を助け…
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