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続・辰巳センセイの文学教室~ふたりが紡ぐ物語~  作者: 瀬川雅峰
Ⅰ 銀河鉄道の夜_辰巳祐司×岩嶺ハルミ
14/53

13 いい子じゃない

 


10月14日(金)


「ハルミ、万引きだって?」

「学校で指導室に呼ばれてたって」


 翌日、学校ではすっかり岩嶺の件が噂になっていた。関係していない生徒まで噂は拡散し、ひそひそとそこかしこで話が出ていた。


 小柳先生から昨日の夕方、話を聞いたところによると、岩嶺は何を訊いても「自分がやったことで責任は全て自分にある。他の人は関係ない」の一点張りだったという。


 小柳先生が、どうしてそんなことを、と尋ねても、

「ただやりたかったから……前もやったことあったし」と取り付く島もない状態だった。

 小柳先生や、榎本主任も、共犯がいるならその生徒についても話すよう説得したが、自分以外を指導する必要はない、と一切口にしなかったという。


 お店に大金を持参して自分から謝罪に行ったのだ。

 彼女の意思の強さは、そうそう崩せるものではないのだろう。


 岩嶺にも校内の噂は耳に入っていただろうに、彼女はその日も淡々と一日を過ごしていた。そもそも、秋山以外とはあまり話している姿を見る生徒ではない。いつもと同じように、淡々として見えた。


 ◇


 結局、岩嶺があらためて万引きをやったこと自体は認めたわけだが、それ以外に教師側が確認できた事項はなく、学校での指導はそのまま立ち消えになりそうだった。



 今週の掃除当番は岩嶺の列、六班だ。


 ほとんど会話もなく、班員は全員で粛々と掃除をやっていた……俺の目があるからなのか、岩嶺の目があるからなのかはわからない。

 掃き掃除と机の移動がほぼ終わったところで、焼却炉までゴミ捨てに行ってくれるよう岩嶺に頼んで教室を出た。


 岩嶺とは別ルートになるであろう階段を降りて、一階まで降り、焼却炉の近くで岩嶺を待つ。

 焼却炉は校舎の陰になっているし、人通りもほとんどない。


 一分ほど後、岩嶺が焼却炉に現れた。

 俺の前を通り過ぎ、焼却炉の前に進む岩嶺の背中に声をかけた。


「なあ岩嶺」

「なんですか」


 岩嶺の反応に、意外さは全くなかった。俺がここに先回りしていることも、話しかけてくることも予期していたように見える。


「なんで自分の参加してない万引きを、全部自分のせいにした? わざわざ、大金まで用意して」


 岩嶺はさりげない調子で、ゴミを焼却炉横の大きなゴミ箱にまとめる作業を続ける。


「……私が主犯だって、先生方に言いました」

「少なくとも、あの日……月曜日の万引きは、君はやってない」

「なんで、そう思うんですか」

 岩嶺が手を止め、振り返った。


「確証はあるよ」

 証拠は、と聞かれると困るなとは思っていたのだが、岩嶺はこちらに確信があると感じたらしい。それ以上疑っては来なかった。


「私が、どうしてこんなことをしたか……先生はわかってるんですか」

「友達のためにやったこと、だよね」

「別に、荻野さんたちをかばったわけじゃ……」

「守ろうとしたのは、秋山さんだろう?」


 岩嶺は少し長く、息をついた。


「……私、そんなにいい子じゃないです。友達思いでもなくて」

「そうじゃなかったら、どうして」


「自分のためです。私は卑怯だから。私がやったって、犯人だって言ってるんです。このまま……このままで、お願いします」

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― 新着の感想 ―
[一言] 自動車で子供の列の隣を横切ると 話に夢中になって気が付かない子と、同い年で在りながらその肩を引き寄せて気遣う子がいる。 岩嶺はもう少し子供でいてもよかったはずだ。 でも大人にされてしまった。…
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