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続・辰巳センセイの文学教室~ふたりが紡ぐ物語~  作者: 瀬川雅峰
Ⅰ 銀河鉄道の夜_辰巳祐司×岩嶺ハルミ

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12 女生徒たち



 10月13日(木)


 授業の始まる前、朝の時間に2年生担当の先生たちでミーティングがあった。

 岩嶺、その他カメラに映っていた生徒達への対処についてだ。


「六時間目、授業が終わり次第、関係していたと見られる五人を残して、それぞれに事情を聞きましょう。教頭に話は通しましたが、くれぐれも配慮して、とのことでした」


 学年主任の榎本先生がそう指示した。


 放課後、岩嶺と、カメラに映っていた生徒達五人が呼ばれた。

 カメラに映っていたのは、荻野奈月と、普段から行動を共にしていた四人。その中には秋山楓も含まれていた。各クラスの担任、副担任がペアになって、それぞれの生徒を別々の場所で聞き取ることにした。


 ただ、岩嶺以外の五人は、あくまで参考、としての扱いだ。万引きに何らかの関連はある疑いが濃いとはいえ、証拠があるわけでも、岩嶺のように自分から申し出ているわけでもない。


「あくまで、何か知っていることはないか。カメラの映像から、現場にいたらしいことはわかってるから、というスタンスで聞き取りしてください。犯人として決めつけるような態度は厳禁で」


 榎本先生から、あらためて注意が徹底される。

 保護者への手前、あまり踏み込んだ言い方をするとトラブルの元になる、という判断なのだろう。


 事件の中心になっている岩嶺については榎本先生と、小柳先生の二人で聞き取りをするという。


 きっと、岩嶺は店長に言ったことと同じことを話す。そして、全ての万引きは自分でやった、と断言するだろう。そうでなくては、彼女が店舗で学校や担任の名前をすらすら話す訳がない。


 彼女は自分が呼び出され、指導の対象になることまで見越していた。


 ◇



 生徒たちが聞き取りをされている間、一人で校内を歩いた。


 各学年のホームルームがある教室棟から、生徒相談室や職員室のある特別教室棟の校舎を見ると、校舎の東端、扉を開けて外へ出たところに固まっている生徒の姿が見えた。


 ここには階上の教室から直接降りてこられる非常階段があり、その降りきったところがコンクリートのたたきになっている。材質が周囲のアスファルトと違うので、上履きで許されそう、と生徒が判断して歩いたり、たむろしたりする場所になっているのは、昔と変わってないようだ。


 そこに荻野奈月と彼女の取り巻きが数人。遠目に、秋山の姿も見えた。

 岩嶺以外の五人の方が、早く聞き取りが終わったらしい。


 一階の校舎内から近づいて扉を開けると気付かれてしまう。

 ひとまず三階に上って、そこから特別教室棟に移動した。そっと非常階段へ出て、音を立てないように階段を二階まで降りて聞き耳を立てる。



「ハルミも……やってたの?」

「あたし知らないよ」

「うちらと関係ないよね」

「でも、あのお店だったって……」

「誰か、なんか言ったの?」


荻野と、何人かの声が途切れ途切れに聞こえてくる。


「ねえ、楓、なんか言った?」

「……」


 彼女達の会話は堂々巡りしている。抱えてる不安だけは伝わってくる。


「……これからも、先生達にはなにも言わないこと。いいね」

 荻野がそう言い切った。


「終わったみたいだよ」

 扉の開閉の音。取り巻きの一人が扉の中、校舎内を確かめたのだろう。


「ハルミ、呼んできて」

 荻野が命じた。


 校舎内から、かすかだった足音が大きくなってきた。早足のペース。きっと岩嶺だ。


 扉から岩嶺はたたきに出て、荻野達と向かい合った。一瞬だけ階下を覗き込むと、岩嶺一人を皆で取り囲んでいるのが見えた。


 荻野が切り出す声が聞こえた。少し声を低めているので、聞き取りにくい。

「ハルミ、何したの? どうして、ハルミが先生に呼ばれているの? あの日、あんたも……してたの?」


 そうっと足音を立てないよう、聞こえやすい場所に身体を動かす。離れたところから見たら、教育実習生が階段の二階で聞き耳を立ててる……とすぐにバレてしまうだろうが、仕方ない。



 しばらくの沈黙の後、岩嶺のくすくすという笑い声が聞こえた。

「荻野さん、いきなり自分からって……私が今から先生にチクったらどうするつもり?」


「……な」


 岩嶺は、にこやかに続ける。


「荻野さんたちさ……前に、一回誘ってきたよね」

「……どんなことするか、言わなかったと思うけど」

「……お金儲かる、って時点でまともなことじゃないってわかるし。あとはちょっとまわりを……先生たちみたいに、見ないふりしないで見てればわかるよ。みんな会話にもぼろぼろ出してるし。全然隠せてないから」


 荻野がぼそっと言った。

「……知ってんの?」


「私、帰るから……もうくだらないこと、やめなよ」


 扉を開ける音。

 岩嶺が校舎内に戻ろうとしている。


 非常階段の手すりから少し乗り出すようにすると、ちょうど角度がついて、校舎への扉が半分くらい見えた。視界に岩嶺と、周囲の生徒の一部が見える。

 上を見上げられると気付かれてしまうが、そうなったらそうなっただと割り切った。


 荻野達が取り囲むようにして、岩嶺の行く手を塞いでいる。


 荻野が岩嶺の正面にいる。かなり興奮している。

「どういうつもりなの。何が狙い」


「何にも。下らないこと、やめたらって……遊びのつもり? 本当は捕まったらどうしようってびくびくしながらのくせに」


「……馬鹿にして」


「ほんとに馬鹿みたいじゃない。補導されたら前科だって付くよ? 怖いのに、今さら言い出せないからやってるだけでしょ? ……下らない」


「この……」

 荻野の右手が上に上がる。


 一瞬、声をかけて止めようか、と思ったが、岩嶺は動じなかった。

 荻野は、逆に気圧されたのか、上げたまま手を止めている。


 岩嶺は視線を荻野にひたと据えて、宣告するように言った。

「……私だって、同じようなことしてたから、わかるんだよ」


 沈黙。


 荻野達はすっかり岩嶺の言葉に呑まれていた。静かになった空間に、岩嶺の大きくはないが、きっぱりした声が響く。


「つまんないんでしょ? つまんない自分がどうしようもなくて、くだらないことやって、自分が偉い、強いって思いたいんでしょ?」


 岩嶺の隣には秋山がいた。彼女は岩嶺の顔をじっと見つめていた。


「優しい子いじって自分が強いつもりになって……人巻き込んで、ケチなお金手に入れて……楽しかった?」


 荻野の手がゆっくり下がっていった。

「うるさいよ……」



 彼女はそう言ったが、語尾は力なく消えてしまった。

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