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続・辰巳センセイの文学教室~ふたりが紡ぐ物語~  作者: 瀬川雅峰
Ⅰ 銀河鉄道の夜_辰巳祐司×岩嶺ハルミ
11/53

10 銀河鉄道の夜 授業二



10月11日(火) 教育実習二週目 初日


「前回、光に包まれた、と思ったらいつの間にか鉄道に乗っていたジョバンニ。気付くとすぐ隣にカムパネルラも座っていた。今日の授業では二人の会話から読んでいこう」


――「みんなはね ずいぶん走ったけれども遅れてしまったよ。ザネリもね、ずいぶん走ったけれども追いつかなかった。」


 親友のカムパネルラの第一声はどこか奇妙だ。

 ジョバンニはそう言う彼に、みんなやザネリを待っていようか? と提案する。


 しかし、カムパネルラは言う。


――「ザネリはもう帰ったよ。お父さんが迎いにきたんだ。」


 

「ここから、二人の星々を巡る旅が始まる。カムパネルラが持っている真っ黒な星座盤は鉄道の路線図になっていて、停車場や泉、森などの全てが光を散りばめて表現してある……小道具も綺麗だ」


 汽車は青白く光る銀河の岸を走っていく。

 窓の外には銀色のすすきが揺れ、天の河の水は輝きながら流れている――幻想的な光に満ちた世界。


 しばらくすると、カムパネルラはまた泣きそうな顔になる。


――「おっかさんは、ぼくをゆるして下さるだろうか。」

――「ぼくはおっかさんが、ほんとうに(さいわい)になるなら、どんなことでもする。けれども、いったいどんなことが、おっかさんのいちばんの幸なんだろう。」


 行く手に、後光の差す島が見えてくる。


 島には巨大な十字架が立っている。まわりの汽車の乗客たちが一斉に立ち上がり、「ハレルヤ」の声を上げて祈る。


 乗客たちは聖書を胸にあてたり、数珠をかけたり……それぞれの信じる神様に祈っている。


「十字架は北十字星……白鳥座の別名だ。白鳥の停車場に停まった後は、鷲座の停車場、双子座の宮に、蠍座の火、ケンタウルスの村……それぞれの星座を辿って、南十字星まで進んでいく」


 星座盤をプロジェクターで映して見せる。天空から銀河にそって南へと高度を下げていくと、それぞれの星座をかすめながら南十字星に至る。


 この道行きがそのまま二人の旅路だ。


「旅の中でジョバンニとカムパネルラは様々な人に出会う。授業では主な人物に注目して読んでいこう。まず取り上げるのは、白鳥の停車場で乗り込んでくる鳥捕り人だ」


――「わっしはすぐそこで降ります。わっしは、鳥をつかまえる商売でね。」


 汽車に乗り込んできた鳥捕り。

 彼が鳥を捕る目的は食用だという。


 持ってきた包みを開くと、捕ってきたばかりだ、というぺたんこに平らになった鳥が並んでいる。

 勧められて二人で食べてみるが、味は鳥ではなかった。


 カムパネルラが「ただのお菓子でしょう」と問いかけると、鳥捕りはそそくさと、逃げるように汽車を降り、すぐ窓の外で鷺を捕まえ始める。


 急に銃で撃たれたようなポーズをとったと思うと、また汽車の中へ瞬間的に戻ってくる。無声映画のコメディアンみたいにばたばたしていて、なんともインチキめいている。


 そこに赤い帽子の車掌が切符の確認にやってくる。ジョバンニは焦るが、上着のポケットにいつの間にか大きな紙が入っていた。


 車掌は紙……切符を熱心に確かめ、こう言う。


――「これは三次空間の方からお持ちになったのですか。」


 鳥捕りが横から割り込む。


――「こいつはもう、ほんとうの天上へさえ行ける切符だ。天上どこじゃない、どこでも勝手にあるける通行券です。こいつをお持ちになれぁ、なるほど、こんな不完全な幻想第四次の銀河鉄道なんか、どこまででも行ける筈でさあ、あなた方 大したもんですね。」


 ジョバンニには鳥捕りの男が不意に哀れな存在に見えてくる。


 バタバタと移動して鳥を捕まえて喜んだり、人の切符を褒めたり、行動がいちいち落ち着かない。

 彼にジョバンニは「ほんとうにあなたのほしいものは一体なんですか」と聞きたくなったが、何も言う前に鳥捕りの姿はふっと消えてしまう。


「鳥捕りは人生のこと、大切なことについて深く考えていない人、といえるだろう。大切なものがわかってないから、どうでもいいようなことに一喜一憂する……宮沢賢治の考える、残念な人の代表なんだろうね」


 鳥捕りが消えた後、車内で、ジョバンニとカムパネルラは突然、苹果(りんご)の匂いを感じる。


「賢治の作品では、苹果は美しい魂の象徴として登場する。この後、汽車に乗ってくる三人組の崇高さを暗示しているようだ。続きは次回にしよう」

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