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 ようやく俺なりに納得のいく答えが見つかったのは、拘置所で取り寄せたスニーク……お気に入りの写真雑誌を開いた時だよ。


 皮肉なもんだな。夢にまで見たコンクールの入賞、それも最優秀賞を、こんな時に取っちまった。


 いつも匿名を使っているから、スニーク編集部は投稿者が誰か知らない。他の購読者にせよ、噂のヒトゴロシが事件現場で撮った写真だなんて思いもしないだろう。


 ほら、壊れた公衆電話の前でさ、警官に声を掛けられる寸前、応募したアレだよ。

 

 どアップした菅野の瞳の奥に、須美が写り込んでる奴。

 

 スマホのちっぽけな液晶画面と違い、A4版の雑誌サイズ一杯に引き伸ばされているから、あの時には気付かなかったディティールが読み取れる。

 

 例えば画像の隅を見てみな。

 

 我が愛しの須美ちゃんの全体像をじっくり、舐めるように拝んでやると、だ。彼女の右手の辺り、何か光ってねぇか?

 

 菅野の瞳孔に写り込んでる部分は全体がボケ気味で、雑誌サイズでも曖昧なんだが、俺には一目でわかったよ。

 

 フルーツナイフだ。

 

 最初に菅野が振り回した刃物は俺に殴られた弾みで床へ落ち、奴が台所の万能包丁を持ち出す間、須美は密かに拾いあげて、右手に握りしめている。

 

 そ~っと近づいてさ。多分、背中から俺を刺すつもりだったんだろう。

 

 ヤバかったあの瞬間、スマホの疑似フラッシュを光らせて、すばやく横へ飛んでいなかったら、俺は多分、前から来る菅野と後ろから狙う須美の刃物で、同時に貫かれていた筈だ。

 

 そして、ナイフを手にする須美の表情も大きく引き伸ばされ、ピンボケ気味ながら、何とか判別できる。

 

 彼女は笑っていた。

 

 俺を刺そうとする瞬間、須美は玩具を手にした幼児さながら、無邪気な笑みを浮かべていたんだ。

 

 不思議と不明瞭な画像だからこそ、瞳の奥に宿る狂喜の炎とか、一層鮮烈に浮かび上がるもんでね。

 

 目の当たりにし、俺はようやく全てを理解した。

 

 奇妙な性癖を持っていたのは菅野ではなく、須美。俺が押入れで目撃したのは、二人だけで行う秘密の「プレイ」。


 おそらく菅野との逢瀬の際、須美は現実のシチュエーションを微妙に歪め、脚色した寸劇を毎回作り上げていたのだろう。そしてサディスティックな役割を男に演じさせ、被虐と加虐の合間で悦楽に耽っていた。


 その証拠にさ。須美と戯れながら「毎度お馴染み、ちょっとしたお仕置き」と菅野は囁いていたじゃないか?

 

 部屋のドアを開く寸前からSとMの役を割振ったお芝居へ入る段取り……多分、逢瀬の度に繰返すルーティンだったんだろうね。

 

 見た目から何から、骨の髄まで須美の色に染められ、菅野は飼い慣らされていた。


 要するに、あの場を支配していたボスは彼女だったのさ。


 今振り返ると、心の闇がある者同士、シンクロするように俺は須美に惹かれていた。


 菅野は本来、内気な性格だったと言う。包丁を構えた時、見せた怯えの表情は奴本来の生真面目さが表れていたのだと思う。


 だとすると、警官をつれて戻った時、須美が俺を凶悪犯に仕立てようとしたのは当然の流れだ。


 助からないと覚悟した時点で、何もかも隠蔽する腹を決めたのだろう。自分の性癖を死後も世間から隠し通し、お楽しみをぶち壊した俺へ制裁を加えようとした。


 或いは迫りくる自分の死を味わい、それすら「プレイ」として楽しんでいたのかもしれない。






 俺は多分、これからの裁判で有罪を宣告される。どんな言い訳をしても、無駄なのはわかってんだよ。


 常習のストーカーで、建造物へ無断侵入、盗撮を繰り返した挙句に発見されて二人を殴殺した……認定された事実はそれだけ。


 俺なりに腹は括ってンだ。もしかしたら死刑かもね? 俺がクズ野郎なのは間違いのない事実だしさ。


 でも、無期懲役で済むなら意外と悪くない。


 元々、生まれた時から負け組一直線。この先の人生に何の希望も無かった。


 それに心が壊れた犯罪者同士、肩を寄せ合って過ごすのだとしたら、正体不明の怪物がそっと爪を研ぐ外の世界より刑務所の方がずっとマシだと思うのさ、俺は。


読んで頂きまして、ありがとうございました。


次も新たなジャンルにトライできたら、と思っています。

勉強する事が多過ぎ、足りない部分ばかり目についてしまうのですけれど、精一杯書き続けて行きたいです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] どうなっちゃうんだろう、と思ったらやっぱり逃げ切れなかった! そして、衝撃の女の本性! (@_@;)
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