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緊急事態発生

チェックアウトは昼まで大丈夫なので、車が到着するまでスーザンを部屋で休ませることにした。ここしばらく調子に乗って大酒を飲み続けていたせいか、彼女の体調はすぐに回復しそうになかった。


それから2~3時間くらい経った頃のこと、ミチルが部屋で静かに本を読んでいると少しだけ建物が揺れた。しかし気にするほどの揺れでもないのですぐに忘れてしまった。


昼近くになる頃にはスーザンの顔色もかなり良くなった。

これなら車に乗れるかもしれない。空席があればだが…。


とりあえずスーザンの体調を回復させるためにスープだけでも飲ませなくては…と思ってミチルが食堂へ降りていくと、急に外からサイレンが聞こえて街頭の拡声器から放送が流れた。


『緊急放送、緊急放送。○○街道◇◇渓谷で崖崩れが発生。警備の者は速やかに門前へ集合せよ。繰り返す。○○街道◇◇渓谷で崖崩れが発生……』


◇◇渓谷とはミチル達が車で通ってきた長い渓谷で、街道は元々あった細い道を谷の両側を削って造られたものだ。岩に挟まれた圧迫感のある場所で、崖の上には登ることもできて雄大な景色が見られると評判で観光名所の一つになっている。


(大変!)


ミチルは慌ててスーザンの元へ走ったが、彼女も起きて放送を聞いていたようだ。


「スー姉、放送聞こえた?!」

「うん、聞こえた」

「◇◇渓谷崩れたそうだけど、みんな無事だよね?!」


ミチルは不安にかられてスーザンに訊ねた。そんなこと彼女にわかるはずないのだがミチルは聞かずにおれなかった。しかしスーザンはミチルに向って笑いかけ、彼女の頭を撫でながらこう言った。


「決まってるじゃない! 私たち皆運がいいのは知ってるでしょう? 今までだって困難を乗り越えてきたんだから今回だって大丈夫よ。…ほらほら、元気を出してミチル。体力付けに食堂へ行こう!」


カラカラ笑いながら言うスーザンにミチルの不安も少しだけ薄れた。ちょっとだけ元気が出たので今朝のことを愚痴る。


「とか言ってスー姉、食堂まで降りられるの? 今朝フラフラだったよ、大丈夫?」

「だ~いじょ~ぶだって!」


ミチルを撫でる手が少し震えているような気がする。本当はスーザンも不安に思っているのかもしれないが、ミチルが心配しないよう空元気を出して敢えて強気にしているらしい。彼女はミチルの前では弱音を吐かないし、いつでも何があっても守ってくれるのだ。まるで生前の伯母みたいに…。


特にミチルに近寄ってくる男には敏感で、父親か? と思うほど男を見る目が厳しく、ちょっとでも粗が見えたら即座に追い払ってしまうくらい。


その割にスーザンが選ぶ男は性格とは関係なく、顔が良ければそれでいいらしい。それもどうだろうかとミチルは思っているが、仕事人間だから家庭を持つことを考えてないからかもしれない。


「たくさん眠ったから元気になったわ! さ、支度しましょう」


スーザンは起き上がって鏡の前に立ち髪や服装を整え始めた。確かに眠ったせいか少しは元気になったようだ。仕上げに唇に軽く紅を引き、小さなバッグの中を確かめながらミチルに声をかけた。


「よし。支度もできたから行きましょう」

「うん。あ、そうだ! 昨日のこと言ってなかったけど、酔いつぶれちゃったスー姉を運んでくれた人がいたんだよ。後で御礼言わないとダメだよ?」

「へぇ、どんな人?」

「昨日、私、細工工房へ行ったでしょ? そこの店主さん」

「ふぅん?」


スーザンが眉をひそめている。何かを勘繰っているようだ。エルグがスーザンの好みのタイプだということは本人に会うまで内緒にしておこうとミチルは思った。



二人が食堂に降りると、客や従業員が各々集まり崖崩れについて話していた。二人は昼食をとり(やはりスーザンはスープしか飲めなかった)、スーザンは万が一の為に宿に二人分の連泊の交渉へ、ミチルは町の役所隣にある通信局へ特急便を頼みに行った。


特急便とは魔法通信のことだ。風の魔法と生物を操る魔法の二種類があり、特急便は風の魔法で高額だが当日相手に届く。


生物(大型の鳥を操る)の方は少々時間がかかるのでそれよりは安い。あとは魔法以外に街道を走る車で運ぶ普通便もある。今回はもちろん風の便を選択する。


ミチルは先に帰った六人の安否を確認する手紙を副店長(旅行に行かなかった仲間)宛てに出した。すると手紙はフワリと風に乗り、手紙専用の出入り口から素早く空へ飛んで行った。返信は宿宛てと書いたのでそちらに届くはずだ。


やるべきことは終わった。

時間が出来たミチルは、昨日のお礼を言いにエルグの工房へ行くことにした。

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