そろそろ本編始まります
最初は本当に苦労した。皆で少しずつお金を貯め、足りない分は借金もした。繁華街の裏通りにある小さな物件を借りて、節約するために仲間たちと共に屋根裏に住み込んだ。
部屋を仕切り、服とアクセサリーとバッグなどの小物、美容と分けて開業。店の代表は全員一致でスーザンとなった。制服を作って皆が同じものを着て店に出ると後にそれが話題にもなった。どこの店も各々が好きなように着ていて珍しかったからだ。
スーザンはミチルの世界にある既製服に目をつけた。この世界には新品の服を買うにはオーダーするしかなく、服といえば古着しか売っていなかった。お金のない者は古着を買って自分で仕立て直すしかなかったのだ。
スーザンは今までの経験から平均を取って標準サイズを作り、標準より細い方用、標準より大きい方用と既成の服を幾つか作る。簡単なものならその場でサイズ調整して着て帰ることも可能だ。勿論オーダーメイドもできる。
美容の方は初見の客には一回だけ半額で施術を受けられるようにし、料金表を作って分かりやすいシステムにした。これもミチルの話から。
最初は思うようにお客さんは来なかったが、昔のお客が他の客を連れて遊びに来てくれたりして少しずつ評判になり、店を利用したお客からの話を聞いて他のお客も訪れるようになった。
個別に受けるサービスの他に、全て一式で受けられる特別プランも用意した。裕福な商人や貴族の女性たちがメイドから当然のように受けている内容である。このプランはメイドを雇えるほどではない小金持ちのお嬢さん用だ。
ここに来ると、まるで貴族のお嬢様になったかのような気分を味わえる。一式料金は少々お高いが、単品で払うことを考えればかなりお得だった。
そして店の評価を爆上げした出来事が起こった。
ある女性がミチル達の店で支度して見合いの席へと挑んだら、お相手に大変良い印象を与えたそうで、すぐに縁談がまとまったのだ。
それは一般の人が中々巡り会えないほどの良縁だったらしい。いわゆる玉の輿というやつだ。本当は別の令嬢に来た縁談だったが、土壇場でキャンセルしたようだ。どうやら令嬢より家格が下だったことが気に入らなかったらしい。
しかし縁談が来たはいいが急なことなので当人には着て行くドレスが無い。本来なら何日も前に準備しなくてはならないものなのだ。
女性はミチル達の店のことを聞きいて藁にも縋る思いで訪ねて来た。彼女は幾つかドレスを試着し、店で全ての身支度を整えてから見合いの席へと挑んだ。
そして見事、女性は幸運を手に入れた。その女性が『この店で支度すれば幸運に恵まれる』と店の話を広げてくれたのだ。
以来、客の来店は退きも切らず。
服もアクセサリーも小物も作れば売れるので店は従業員を増やした。
借金して今の店に引っ越した時に喫茶室も作った。買い物や美容施術を受け、甘いお菓子とお茶を飲んで女同士の社交もできるのが大当たりし、アッと言う間に借金も完済。
借金の完済が嬉しくて、記念にお客への感謝を表すために在庫一掃セールと美容施術半額を行うと、普段は来ないようなお客さんまでが店に来てくれた。残っていた在庫は全て売れた。
次回もやってくれというお客の要望でセールは年に一度の恒例行事となり、新品の買えない女性達もその日までにお金を貯めて来てくれるようになった。
ここに至るまでには他店からの妨害もあったけど、皆の協力で運よく危機を乗り越えることが出来た。
それから数年。これまで忙しく働いてきたけど、丁度特別注文も終わったばかりで財布は潤っているし、たまには連休を取って皆で旅行しようかという話になった。
その行き先が今回の温泉のある観光地である。