第6話 ペット論議
乱闘中の猫人間とフリーターを目撃して一言。
「なんてこと……」
言葉を失った大家、島津ハツ江は驚きに満ちた様子だった。
えらいもん見られた。下手したらショックで危ないかも……。
いったん手を止めて、なんとか言い訳をひねり出そうと考える。
「杉田さん!」
「はい!」
「うちはペット禁止!」
「そっちですか!」
乱闘で抜けたキジトラの毛を掃除機で吸って、今度は小さなちゃぶ台を囲んでハツ江とトラ男と研一が茶を飲んでいる。
「で、ペットではないと」
ハツ江は眼鏡の奥で鋭く目を光らせながらトラ男を舐めるように見る。
「猫っぽいだけでペットではないです」
この問答必要あるのか。
「人っぽい猫ならペットと言う事になりますよ」
恐らくこの話し合いの果てに答などない。
「あなたはどうお考え?」
振られてトラ男は何やら考えている。そしてやたらと大きな黄色い目を大家に向けた。
「あなたが猫だと思うなら猫であろうし人間だと思うならまた人間でしょう。人はとかく目に見えるものに惑わされやすい生き物。胸に手を当て、あなた自身の心に聞いてごらんなさい」
何だか哲学的な事を言いだした。
「そうね、あなたの言うとおりだわ」
共感したんだ……。
そしてハツ江は胸に手を当てて考える。
「私の負けよ」
「えっ、いいんですか?」
あっさり引き下がったハツ江に拍子抜けした。
「この男女平等の時代、性別だって関係なく男が女を、女が男を主張できるんですもの、人間と猫の間に線引きをしようとしたわたくしが間違ってました」
何だかいい話だったがこいつに当てはまるのかは疑問だった。
「この歳になって教えられるなんて、あなた何者なの?」
「木島トラ男です」
「木島トラ男……覚えておくわ。また会いましょう」
遠い目を薄汚れた天井に向けてから、ハツ江は部屋を出て行った。
何だかいい話にまとまった今回の騒動。
忘れているようだがトラ男のスゥエットは果たして研一の手に戻るのか。