第11話 兄弟
この寒空の下、どうでもいいトラ猫に絡まれて、まさに今、水たまりのばっちい水を飲むか飲まないかの選択を強いられている。
なんでこんな事になってしまったのか、トラ男に言われるがままついてきたことを後悔した。
「にゃーにゃー」
トラ猫が何か言ってる。
「何だって?」
「俺の勧めるもんが気に入らねえって言うのかって」
「水だろ!酒っぽく言うな!ってそいつに言わなくていい」
トラ男が翻訳する前に釘を刺した。
トラ猫はじっとこちらを挑発的な目で見据えている。
なんだその程度の奴かと言いたげな目つきだった。
「やってやろうじゃないか!」
その挑発的な目つきにとうとう堪忍袋の緒が切れた。
ゴクゴクゴク。
冷たい地面に両手をついて、顔を濡らしながら飲んだ。
「うまいか?」
「うまい訳ないだろ!って、そいつのには最高だとでも言っとけ!」
「にゃーー」
「にゃあー」
「何だって?」
「なかなかいい飲みっぷりだ。見どころの有る奴だって」
「それはどうも」
トラ猫に認められても何にも嬉しくない。
「ぎにゃー」
「これで俺たちは兄弟だって」
何か固めの杯みたいだな。
「俺の事はこれから兄貴って呼べってさ」
「俺はこいつの弟分にされたのか……」
そのあと、トラ猫はあっさり弟分のために手を貸してやると言ってきた。どうやら単に兄貴風を吹かせたいみたいだ。
猫人間トラ男の交渉術で野良猫軍団を味方につけた一方、なんとなく成り行きでトラ猫の弟分にされてしまった研一。
そして野良猫軍団対ネズミ軍団の戦いの火ぶたが切られる。