第10話 グッといけ
「にゃーお」
ゴミ捨て場で睨み合ったトラ猫は、鋭い目つきでこちらを見ている。
「なんか言ってるみたいだな」
「ああ、お前のこと、信用できないって」
「俺に負けたせいで逆恨みしてるってことか?」
トラ男がトラ猫に話しかける。
「にゃあー」
「ぎにゃー」
「今俺の言ってたこと、あいつに伝えなかったか?」
「伝えた」
「余計なことは言わんでいい!」
明らかにトラ猫の機嫌が悪くなってた。
「で、何て言ってるんだ?」
「こう言ってる。俺は負けたんじゃない、あの時ちょっと腹が痛くなって用を足しに行っただけだと」
「いさぎ悪い奴だったんだな」
また何か言おうとしているトラ男の口をふさぐ。
「言わなくていい」
何か根に持つタイプみたいだからここは慎重に……。
「このトラ猫、こんなんだけどなかなか発言力の有る奴みたいだ」
「そうか、機嫌を損ねない方がいいってことだな」
めんどくさい奴に絡まれたもんだ。
「にゃー」
「なんて言った?」
「ちっと腹を割って二人で話そうじゃないかって言ってる」
「お前がいなかったらお互いに一方通行だから三人でってことになるな」
「にゃーにゃー」
「ふにゃー」
「それでいいって」
と、言う流れで寺の裏側までやってきた。
何故か水たまりを囲むように向かい合う。
「どうして水たまりを囲んでるんだ」
「しゃべったら喉乾くだろ」
どんだけしゃべるつもりだよ。
べろべろぴちゃぴちゃ。
目の前でトラ猫が水たまりの水を飲んでる。
トラ男も同じく飲み始める。
げっ!
「よくそんなもの飲めるな」
トラ男はなんにも気にしてない様だ。
「にゃー」
トラ猫がこっちを見ている。
「お前もグッといけって」
「馬鹿言うな、ばっちいだろ!」
まるで酒の席で一杯目のビールを勧めるかのように、水たまりの水を飲むように勧めるトラ猫。
平気でゴクゴクいってる猫人間トラ男。死んでも飲みたくない普通の男は果たしてどうするのか。