第五話 なんか気に入られました
大変お待たせして申し訳ございませんでしたあああああああああああ!!
明けましておめでとうございます!!!
失踪はしておりません!ちゃんと書いてましたが!早めの年末年始休みを敢行しておりました!
今年はより一層投稿頻度を上げながら質の高いお話を作れたらと思っておりますので、是非とも生暖かい目で見守ってくださいますようお願い申し上げます。
第五話 「なんか気に入られました」
道中のモンスターを狩りながら先ほどの小屋まで戻ってきたUとマルコは、近くの木陰に隠れ、改めて作戦会議を始めた。
「なぁU君、さっき言ってた作戦って具体的にはどうすればいいんだい?」
「まぁまぁそう慌てんなってマルコ君、ちゃんと説明はするしさ、とりあえず今は周りに人がおらんかだけ確認しといて!」
あまりに急なことで頭が追い付かないマルコだったが、とりあえず言われたとおりに小屋の周りを一通り確認し、誰の気配もないことを確認する。
「気配感知のスキルを使用したけど、誰もいなかったよ。」
「そかそか、ありがとな。ほんならとりあえず今からどうするかの説明をするし、よう聞いといてや。」
マルコは真剣な面持ちで、Uの顔を見据える。
「さっき言ってた作戦、名付けて『隠密行動で敵の動向探っちゃおう作戦』はな、俺の固有スキルの【隠密状態】を活かしてできるだけ近くで玉兎達の動向を探る。そして悪い奴らなら隠密攻撃して、いい奴らなら話し合って一緒にクエストクリアしちゃおうという素敵な作戦や!」
「はぁ、なるほど?でも、その隠密行動っていうのは聞いた事ないんだけど一体なんなんだい?」
「ほんまはあんまり広めたらアカンねんけど、マルコ君には特別に教えたげよう!」
Uはマルコに、自身が入手したチート級の能力をもつエンブレム、そしてそれによって得た強力なスキルについて説明をした。
どや顔のUと、説明が頭の中で整理出来ていないマルコが顔を合わせていると、小屋の方から大きな物音がする。
物音と同時に、玉兎の喜びに似た悲鳴が上がる。
「ん?なんやなんや何が起こったんや…?」
目をまん丸にしながら小屋を見つめるUだったが、こうしちゃいられないと即座に行動を始める。
「とりあえず、マルコ君は今はここで待ってて欲しい。俺が合図を出したら小屋に入ってきていいから、おーけい?」
「う、うん。おーけい。」
マルコからの返事を聞くと、安心したのか満足気な表情で小屋の扉に手をかける。
鍵穴から少し小屋の中が見えるため、Uは中の3人の動向を慎重に探る。
(あれ、男2人はおるけど、玉兎の姿が見えへんな…どこ行きよったんやろか。)
小屋の中では、オサガムとササカがある1つの本棚の前で小屋の入口扉を正面に、腕を組み仁王立ちをしているのが確認できる。
(あの本棚怪しいな…でもさすがに正面突破したらバレるやろうからほかの入口を探すしかないな。)
一旦扉から離れ、小屋の周辺を隈無く確認するU。すると、小屋の入口真反対側に、少し屈めば人一人なら入れそうな穴があることに気付く。
(ここや!こっからバレんように入れば大丈夫やな。体力も満タンやし隠密度倍になっとるから相当あいつらの勘が鋭くない限りは安心なはずや。)
自分に言い聞かせるように、慎重に小屋の中に侵入を開始する。
少しつっかえながらも、無事に音を立てずにUは小屋に侵入することができた。
(あっぶねぇ、とりあえず部屋の構図的にあいつらの背後に今はいるから、バレないように様子を窺うか。)
小屋の中には本棚が沢山あり、外から見るよりもずっと部屋が広く感じられる。
本棚から本棚へ身を隠しながら移動を繰り返す。今のUの隠密度は3005、スキルにより6010に上がっており、まず常人のプレイヤーに気づかれることはない。
恐らくオサガムとササカが立っているであろう本棚の真後ろに到達したUは、聞き耳を立て、2人の会話を盗み聞く。
「なぁオサガム、玉兎様が帰ってくるのあまりにも遅くないか?1人で行くのが条件なのは分かっているが玉兎様にしてはあまりにも遅い気がしてな…」
「そう心配するな、あいつなら大丈夫だ。今に元気な声上げながら帰ってくるさ。いざとなれば本棚の裏側の通路から俺らも助けに行けばいいだろ。」
「それもそうだな、俺の心配し過ぎみたいだ。」
「それはそうとだ、ササカ。さっきからこの小屋の中に俺ら以外の気配を微かに感じる気がするんだが、お前は何ともないか?」
オサガムの発言に動揺したUは、急いで離れた本棚に移動する。
「そうか?俺は特に誰の気配も感じないぞ。それこそ思いすごしじゃないか?気配感知スキルをPMした俺が感知できないんだから何もないだろ。」
「それはそうだな、ははっ、俺ももう年齢的には若くないから勘が鈍くなってきたみたいだな。」
「それに誰か入ってきたら、俺とオサガムでやってしまえばなんの問題もないしな。」
2人の一連の会話を聞き、Uは1度近況をマルコに報告する。
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『おいおい、あいつらやべぇ!特にオサガムってやつなんか勘で俺の気配察知してるっぽいぞ!』
『なんだって?さっきの君の説明からして、相当な実力者でもその気配を感知するのは至難の業なのに…やっぱり只者じゃないなあいつらは…』
『とりあえず、もう少しあいつらの話を聞いたり探りを入れて、悪いやつらか判断してみるから、もうちょい待っててな!』
『分かった、くれぐれも気をつけてね。』
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マルコとチャットでの会話を済ませると、再びUは2人の背後の本棚に戻る。戻る最中、足元に落ちていた本に軽く足をぶつけ、物音が立ってしまった。
「ん?何か物音がしたか…?ちょっと後ろを見てくる。」
即座に物音に気づき、オサガムがUのいる本棚の方へと近寄ってくる。
(やばいやばい!今からやと穴から出るのも危ないし、とにかくここは闘わずして話し合うしか…!)
徐々に近づく足音に我慢ならず、自らオサガムの前に姿を表すU。
距離にして6m程であるが、オサガムの威圧感にUはゼロ距離で見られている感覚に陥る。
Uの方を凝視し1歩も動かないオサガムは、暫くUを見つめた後、何事も無かったかのように戻って行った。
(え?どゆこと?なんで?なんで何も言われへんかったん??)
状況を飲み込めないUは、まさかと思い自分のスキル一覧を確認する。
小屋に到達するまでにモンスターを狩っていた際、いつの間にかレベルが60に到達しており、新しいスキルを獲得していたのである。
透明人間
・HP満タン時、自身が静止している時に限り身体を透過させ、誰からも視認できないようにする。
「な、なんやこのスキルは…また凄いの覚えてしもうたな…」
スキルを確認し呆然とするUの耳に、定位置に戻ったオサガムの小言が聞こえてくる。
「んで、結局何も無かったのか、オサガム?」
微笑を浮かべながらササカは嫌味たらしく尋ねる。
「あぁ、一瞬何かが見えた気がしたが、恐らくバグか何かだろうな。」
少し悔しそうに扉を注視しながらオサガムは応える。
そうしているうちに2人の背後の本棚が少し震え、ゆっくりと後ろに下がっていき、隠し階段が現れる。
その隠し階段から元気よく声を上げながら玉兎がかけ登ってきた。
「おーし、ただいまぁー!!やっと見つけたよイシュタルの伝記!想像してた以上に厄介なクエストだったわ。」
「おぉ、無事に戻ってきたようで安心しましたよ玉兎様!」
「よくやったな玉兎。それで、内容はどんなものだったんだ?」
オサガムとササカは玉兎にそれぞれ労いの言葉をかけ、クエストの内容を興味津々に聞いてくる。
「うーんとね、説明が難しいんだけど、イシュタルって豊穣の女神とも戦の女神ともいわれているのね。相反した特性を持っていて、この伝記を手に入れるのにその条件を自らで体現しないといけなかったのよ。」
玉兎は気難しい表情を浮かべながら、身振り手振りで必死に説明をしている。
詳しい説明に入る段階でふと玉兎は話すのを止め、Uが聞き耳を立てている本棚の方へと歩き出した。
「ん?どうした玉兎、そっちには誰もいないぞ。」
さきほど確認したオサガムは、毅然とした口調でそう言い放った。
自身のスキルに気付いているUも、満タンのHPを再度確認し、石のように固まったまま動かないようにしている。
Uの少し手前できょろきょろした玉兎は、ニコっと笑ってUの方に人差し指を立てる。
「いや、いるじゃん。弱っちそうなやつ。」
そのセリフに腰を抜かしたUは、絶対絶命のピンチと悟り、透明化を解いてとりあえず話をしようと試みる。
「あのー、僕は決して怪しいもんではなくてですね…」
Uが姿を現し話始めた瞬間、玉兎が悲鳴を上げて二人の元に飛んで行った。
いきなりの事に頭がついていかないUは、ただ茫然と目の前を見つめて立ち尽くしていた。
オサガムとササカも驚嘆の表情を浮かべていたが、玉兎が飛んできたことにより我を取り戻し、Uの目の前に立ちはだかる。
「ちょちょちょ、状況が全く読めないんですが、僕はバレてたんですよね?」
おどおどしているUに対し、玉兎は少し涙声で反論する。
「いや、なんとなくそう言った方が面白いかなと思ってデタラメ言っただけだもん。ほんとにいるなんておもわないじゃない!」
玉兎の発言に場が少し静まったが、すぐさまササカがUに質問をする。
「お前は一体何者なんだ?どこのクラン所属だ?いつからここに居た?お前も玉兎様を倒しに来たのか?」
質問攻めに頭がパンクしそうになるU。
「ちょっと待ってくれ、順番に答えるから!まず、俺はUっていうもんだ。つい最近このゲームを始めてまだクランには入ってない。それと、俺はあんた達に危害を加えるつもりもないから安心して欲しい。」
オサガムも警戒気味に質問をする。
「俺がさっき見たときはいなかったが、あの時には既に居たのか?一瞬お前のようなプレイヤーの残像が見えたから気になっていたんだ。」
「あぁ、そこの玉兎さんが後ろの棚に入った直後くらいからこの小屋にはいた。ただ、俺らもこのクエストを受けたかったからちょいと噂の検証も兼ねてお三方を見させてもろてたっちゅーわけですよ。」
Uの説明を聞き、ひとまず納得した三人だったが、Uの発言に疑問を感じたササカが更に質問を投げかける。
「今、あなたは俺らと言いましたよね、他にも仲間がいるということですよね。それと、噂と言うのはなんなんでしょうか。」
自らの失言に思わず口を両手で塞ぐUだったが、今更隠しても無駄だろうと、外で待機しているマルコに、小屋に入るよう指示を送る。
「噂の件については、今から小屋に来るマルコってやつの方が詳しいから、マルコ君に聞いてほしい。」
暫くして、小屋の扉がゆっくりと開き、強張った笑顔を作ったマルコが姿を現した。
「ど、どうも、僕がマルコって言います。お三方の活躍、本当に目覚ましいですよね尊敬してますはい~」
少し早口で三人をほめ始めるマルコに、痺れを切らしたオサガムが早く説明するよう促す。
「あぁ、はい説明させていただきます。これは本当に噂に過ぎないんですけどね、玉兎さん率いるムーンラビッツのメンバー方が、PKを行っているとよく耳にするんです。」
その言葉を聞いた瞬間、オサガムが呆れたような表情に変わり、丁寧に説明を始める。
「それは、クランランキングの頂点に位置する俺らの事が気に食わない奴らが勝手に言いふらしている嘘の情報だ。正しくは、そいつらが俺らに勝負を挑んでくるから、それを打ち負かしているだけのことだ。」
「なるほど、その戦いで敗けたシーンだけを見てPKをしていると勘違いした人たちがいるわけなんですね。」
納得した表情でマルコは頷く。
今まで黙っていた玉兎が口を開き、少し悲しそうに呟く。
「君たちも信じてくれないのかな…」
「いや、信じるで。あんたらのこと俺は信じるし、なんなら仲良くもしていきたい!」
間髪入れずに元気よくUは答える。
その言葉に玉兎は笑顔を取り戻し、Uの元まで駆け寄り、手を握ってきた。
「本当?!私は君の事信じていいんだね!!」
「おうよ!だから、仲良く遊ぼうぜ!」
少し戸惑いつつも、Uも笑顔で応える。
その後、透明化についてはそれとなく誤魔化しつつ、玉兎達とフレンド登録をしてその場は解散した。
「まさかあの三人とフレンドになれるとは…」
マルコは驚きと感動に身を震わせていた。
「まぁ、あのササカとかいう奴はちょっと俺の事嫌いやと思うけどな。フレ登録渋っとったし。」
「あの感じからして、玉兎のことが気になってるってきづかないんだね君は。」
「え、そうなん?やったとしても俺別になんも悪いことしてへんけどなぁ…」
「そんなことはどうでもいいじゃないか!今度一緒にあのクエストを攻略する予定も取り付けられたし、これで安心してこのゲームを楽しめそうだよ!」
マルコの目はいつにも増してキラキラ輝いていた。。らしい。
そんなマルコを横目に、Uも少し満足感に浸りながらその日はゲームを終了した。
続く