第二話 チート能力手に入れました
第二話「チート能力手に入れました」
夕陽が降り立った世界は、どうやら人間を選んだプレイヤーが最初に目覚める村のようで、周りを見渡すと同じようなNPCやプレイヤーがたくさん歩いていた。
「すげえ、自分自身がキャラになってる!!」
「周りにいる人の頭の上に名前とかNPCとか書かれてるんだな、分かりやすい。」
夕陽が感心していると、後ろから野太い男の声で声をかけられた。
「お前が今日からここで暮らす『U』か。ちょっとついてこい。」
急に声を掛けられ驚いた夕陽は変な声を上げ、言われるがまま男についていく。
屈強そうな男は背丈が歩ほどあり、キャラメイクしたUと同じくらいだった。
村の景色を眺めながら男の後ろをついていくと、これまた急にボロボロの一軒家の前で男が立ち止まった。
急だったので、Uは男の後頭部に鼻をぶつけた。ゲームなので痛覚はないが、つい小さく痛いと呟いてしまった。
Uがぶつかったにも関わらず、男は無反応のままボロボロの一軒家のほうに向きなおった。
「U、これがお前の家だ、中のものは自由に使ってくれて構わない。俺は向かいの家に住んでいるから何か聞きたいことがあったらウチまで来てくれ。」
そうとだけ言い残し、男はそそくさと50m程先にある向かいの家に入っていった。
「なんか不愛想なやつやなぁ、名前も教えてくれんかったし。まぁあいつの頭上に名前あったから分かるしええけど。」
ぶつぶつと文句を垂れながらUは自分の家に入った。
家の中は鬱蒼としており、ボロボロの木製の椅子が一脚、同じく木製のテーブルが一卓置いてあるだけだった。
「これは、改良の余地がありそうやなぁ。」
一息つこうと椅子に腰を下ろしたUだが、ふと歩との約束を思い出し、解散する前に教えてもらい携帯に記録していたフレンドコードなるものを確認した。
「最近のゲーム機は携帯とも連携できるってんだから便利よなぁ。」
左手を左から右に軽くスライドすると、ゲームのウィンドウが出現した。
Winks50のゲームは、基本的にこれでウィンドウが出ると弟に教えてもらっていたおかげで難なくフレンド申請を送ることができた。
申請のウィンドウ画面には、【『ワンタン』さんにフレンド申請をしますか?】という文言。
「歩のやつ、名前が『ワンタン』てまだ使ってるんやなぁ(笑)」
幼いころに、好物のワンタン麺をお弁当として1か月食べ続けた歩に夕陽がつけたあだ名である。
ほどなくして、歩から申請を認証してもらいフレンドになることができた。
フレンドになるやいなや、急にワンタンから電話がかかってきた。
驚きながらもUは電話に応じた。
「おい!遅かったやんけ!ちんたらやっとんちゃうぞ!!」
ウィンドウには銀髪の長髪を携えたTHE美青年なエルフの男性が映っていた。
どうやら遅れていたにも関わらず、ゲームに感動しすぎて連絡をしていなかったことに怒っているらしい。
「すまんすまん!ついついゲームに夢中になってしもうてて、これからは気をつけるから!」
Uはワンタンに向かって両手を合わせて謝罪をする。
「まぁええけどな、まだ多分初期村から出てへんやろ。一応俺がそっち向かうし、それまでにチュートリアルだけ終わらしといて!!ほな頼むで!!」
それだけ言うと一方的にワンタンは電話を切った。
「ちょ、おーい、あいつ話聞けよ~」
少し呆れたUだったが、とりあえずどうすればいいか分からず、助けを求めに向かいの『グレイス』の家に向かった。
家の前に着くと、声を掛けるまでもなくグレイスが顔を出してきた。
少し面食らったUだったが、簡潔に用件を伝えた。
「あのー、すみません、先ほど案内していただいたUなんですが、チュートリアルはどこに行けば受けられるんでしょうか?」
表情一つ変えずにグレイスはUの左方向を指さし、一言「広場に行け」と言い顔を引っ込めた。
「なんなんやほんまにあいつは、説明適当すぎんか?」
少し不服なUだったが、指さされた方向に歩いていくと、村でひと際大きな場所に出た。恐らくここが広場だろう。
広場には子供や大人たちのNPCが複数人おり、中心には大きな噴水が豪勢な水しぶきを上げていた。Uと同じ冒険者も何人か見受けられ、これから始まる冒険に期待を抱いているように見えた。
「広場はやっぱり賑わってんねんなぁ、ここに行けって言われたものの、ここで何が起こるんやろか…」
辺りを見回すと、ひと際ビギナーであろう冒険者が集まっている小屋があった。
「あそこで何かするんやろうか、とりあえず行ってみよ。」
小屋の前に到着すると、2列で10m程の行列ができていた。
Uは、最後列に並んでいるエルフの女性プレイヤーに声をかけてみることにした。
「あの、この小屋ってなにをするところなんですか?」
「あぁ、この小屋はね、最初に職業を与えられる小屋ですよ。最初はその人の特性にあった職業になるんだけど、後々転職できるみたいです。」
職業という言葉を聞いて、Uの目がキラキラと光る。
「そうですか、おしえていただいてありがとうございます!」
(職業なんて、やっとRPGらしくなってきたやんけええ!)
しずかにガッツポーズを取りながら、Uは自分の順番を待った。
見た目に反してものの5分ほどでUの順番が回ってきた。
先ほどのエルフのお姉さんは、軽装備はそのままに、背中に弓を携えて小屋から現れた。
「おぉ、さっきの人は恐らく狩人かなにかやったんやろうなぁ。」
いよいよUの番、小屋の前にいる係員がUを呼ぶ。
「次の方どうぞ。」
小屋に入ると、中は案外広く、他にも別の用をしている冒険者も見受けられた。
小屋の真ん中、一番奥の方に職業鑑定と書かれたプレートが釣り下がっており、その下にいかにもなおじいさんが座っていた。
「いらっしゃい、君はU君だね。今から君の適正職業を鑑定するから、この水晶に両手を当ててくれ。」
いわれるがままにUは水晶に手を当てる。
すると、水晶は微かな光を放ち、やがて透明な水晶が淡い青色に染まった。
(すげぇ、綺麗な青色やなぁ、俺の職業何なんやろ…)
いかにもなおじいさんが水晶をじっくり眺め、やがてUのほうに向き直った。
「はい、もう水晶から手を離しても大丈夫だよ。君の職業が分かったからね。」
「あ、はい。ありがとうございます。それで僕の職業はなんなんでしょうか。」
Uはすこし前のめりになりながらおじいさんに顔を近づける。
「君の職業は…」
「ここが職業を鑑定する場所か!!他の奴らはいいから早く俺を見ろ!!」
興味津々に聞いていたUの背後から急に大きな声が響いてきた。
あまりの大声にUは一瞬体をビクつかせ、ゆっくりと後ろを振り返る。
「んー?あそこにいるジジイが俺を見てくれるってのか?」
体格は設定上最大値の3m程である、筋骨隆々のオーガ族の男がこちらに向かって歩いてくるのが見える。
その後ろには同じくオーガ族の男が2人、ニヤついた顔を携えて着いてきている。
「おいジジイ、こんなヒョロッちい人間なんかどうでもいいから俺様を先に見ろ。」
Uを押しのけるようにして間に割って入ってくる。
さすがにムッとしたUだったが、先におじさんが口を出した。
「はいはい、順番はしっかり守るんだ。後でしっかり鑑定してやるから。」
その言葉にオーガ族の男は激昂する。
「やかましい!このダグラス様は誰よりも早く強くなってこの世界で一番になってやるんだ!いいから早く俺を見ろ!!」
絵に書いたようなガキ大将ぶりに、おもわずUは吹き出す。
(こいつ、めっちゃおもろいやん、ゲーム内だけでイキるやつやんwwwww)
Uの吹き出しに気づいたダグラスは、目線をUに向け、歪んだ顔のまま胸ぐらを掴んできた。
「お前何笑ってんだ?あぁ?!このままここで殺してやろうか!?」
あまりの大声に周りがざわつき出す。
「いや、あのー、ここでPKは出来ないみたいですよ?落ち着いてくださいよ…」
声を震わせながらUは答える。
ダグラスの怒りがピークに達した時点で、後ろのオーガ2人が周りの目を気にして、この場を後にするよう促す。
怒りで理性を失っているダグラスは、2人の制止を振りほどき、Uに殴りかかった。
瞬間、Uの前にリフレクターが現れ、殴りかかったダグラスは思い切り弾き飛ばされる。
「ぐあっ!なんなんだくそっ、これだからゲームは…」
(びびったー、いくら大丈夫やからって言っても相手はオーガやし、ほんまに殴られたらひとたまりもないからな…)
少し冷や汗をかきながらも、Uはダグラスに嘲笑気味の顔を向ける。
「くそ、腹立つ顔だぜ!でもこのままじゃどうにもできねぇしここは一旦引いてやるよ!覚えとけ!!」
これまたテンプレートのような捨て台詞を吐き、ダグラスは2人のオーガと共にその場を後にした。
「ふぅ、一時はどうなることかと思った…」
忠実にプログラミングされた冷や汗を拭いながら、Uは再び鑑定のおじさんに向き直る。
「あんた意外と勇敢なんだねぇ、まぁだからと言って職業は変わらんけども。」
「どうも、それで、僕の職業はなんですか?」
「お前さんの職業はな、戦士だ。」
意外となんの捻りもない職業に少し拍子抜けをしてしまった。
「はあ、戦士ですか…普通だなぁ。」
「何を言うか、戦士だって立派な職業だぞ、極めれば体力も攻撃力もトップクラスだし、何より上位職もあるから育ち甲斐もある。」
鑑定士なだけあり、おじさんは力説する。
「なるほど、まぁそれもそうやな。ありがとうございます!」
深々とおじさんにお辞儀をし、簡単な説明を受けてUは小屋から出た。
「さてと、とりあえずインベントリ開けて装備でもするか。」
先程と同じく、左からコマンドを出し、インベントリから自分の装備を確認する。
「まあ、最初は木刀と盾だけやんなぁ。」
特に意識をしていたわけではないが、夢のことを思い出したUはなんとなく利き手の左に盾を、右手に木刀を装備した。
「まあ、どうぜゲームやし慣れりゃ一緒やろ。」
軽く木刀を振り回し、感覚を掴むUであったが、後ろから聞き慣れた人物から声をかけられる。
「U!待たせた!装備してるってことはもう鑑定は終わったんやな。」
「おうおう、遅かったな!ワンタン君よ!」
Uは笑顔で後ろを振り向いた。
案の定そこには歩の姿があった。
2人は固い握手を交わし、まだ説明を受けていない宿屋や武器屋といった基本設備をワンタンから聞いて回った。
「とまぁ、この村に限らず、基本的にどの街や村でもここら辺の設備は一緒やな。また新しいことはその時に教えたる!」
「なるほどな、ありがとワンタン!ほんならとりあえずレベル上げしたり色々やりたいことあるし付き合ってや!」
こうして、本格的にUのEmblem Questが始まった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・こうして話は戻り2週間後
<おめでとうございます!U様はEmblem Questユーザーで初めてのエンブレムを獲得されました!>
画面には、木刀が龍に縦に刺さり、貫かれた刀身の先端から黄金の液体が滴り落ちているエンブレムが映っていた。
取得したエンブレム名 “最凶の臆病者”
エンブレムの右側には事細かにエンブレムの取得条件と効果が書かれている。
取得条件
“初期装備かつ、利き手でない方向に初期刀を装備している者。及びその状態を冒険開始後50時間継続し、初期村から出ず自身のレベルを20に上げた者。更に、その状態で職業『アサシン』をレベル50以上に上げている冒険者とフレンド登録を行っている者が得られるエンブレム。”
効果
・隠しエクストラ職業『臆病戦士』に転職可能になる。
・職業に関わらず戦闘においての取得経験値が5倍になる。
・臆病戦士時、敵に見つかりにくく(隠密状態)なる。
・臆病戦士時、敵に見つかっていない状態(隠密状態)において、90%の確率で敵を即死させる隠密攻撃を行うことが出来る。(レベルに応じて隠密攻撃を行える敵と行えない敵がいる。)
・臆病戦士時、隠密攻撃を成功させた回数に応じて、基礎ステータスに永続バフ効果が上乗せされていく。(上限あり)
・臆病戦士時、各敵キャラ毎に初めて隠密攻撃を成功させた場合、その初回のみ経験値が15倍になる。
・同パーティの仲間にも上記の経験値バフ(5倍)が適用される。
・臆病戦士時、PvP(プレイヤー同士の戦闘)において、敵の背後を取れた場合に隠密攻撃を行える。(成功率60%)
・初期刀の攻撃力が+999される。
※このエンブレムを取得できるのは全ユーザーの内初回達成者1名のみです。
「なんやこれ、まじでチートやないか…」
村の自宅にて、その場に呆然と立ち尽くすU。
ゲーム初心者は上手く使いこなせるのだろうか…??
続く