第一話 RPG始めました
どうも初めまして、幼いころから適当に文章を書くのが好きなアクセル野田と申します。
名前の由来はくそ適当につけたのであまり深く考えなくても大丈夫です。(本名とミリも関係ない。)
筆者は基本的に暇なので、一応投稿できるときにしようとは思っておりますが、現時点では毎週日曜日の夜を目安に考えております。
自己紹介になってしまっていますが、そろそろ本編の方、どうぞごゆるりとお楽しみください。
※作品に関しましては、メインの登場人物が基本的に緩い関西弁となっております。苦手な方はご注意ください。
第一話 「RPG始めました」
俺の名前は松野 夕陽、21歳の大学3年生である。
趣味は最近始めたRPGのゲームで、ゲーム名はEmblem Quest。
名前の通り、エンブレムと言われる紋章をたくさん集め、名声や力を手に入れていくといった、最近巷で噂のフルダイブMMORPGゲームである。
自分自身、今まであまりゲームに触れてこなかっただけあって、プレイングのほうはお粗末である。
でも、ゲーム内で出会う人たちと画面を通して触れあい、徐々にゲームの楽しさを理解できるようになってきた。
「さて、今日も課題を終わらしたことやしエンクエすっかぁ。」
時刻は午後9時、いつもの様に慣れた手つきでハード機のWinks50を起動し、エンブレムクエストを始める。
もう聞き慣れた無機質で中性的な声のシステム音が、プログラミングされたいつものセリフを読み上げる。
<ようこそEmblem Questへ、”U様”おかえりなさいませ。>
「U」とは俺のユーザーネームであり、夕陽という名前の夕から取ったものである。
「今日はなにしよかなぁ。あ、そういや昨日フレンドになったマルコ君はいるんかなぁ。」
ウキウキな表情を浮かべた夕陽を無視するかのように、システム音は聞いたことのない文章を読み上げる。
<おめでとうございます!U様はEmblem Questユーザーで初めてのエンブレムを獲得されました!>
急なことで面食らった夕陽は、暫くシステムウィンドウを呆然と見つめていた。
ウィンドウ画面には取得したエンブレムのマークと名称、そして取得者に与えられるバフやゲーム内で受けられるメリットが詳細に映し出されていた。
「なんやこれ、まじでチートやないか…」
遡ること2週間前………………………
夕陽の通う関西地方の大学では、半年前に発売されたWinks50の新作ゲーム、Emblem Questの話題で連日もちきりの状態が続いていた。
夕陽の小学校からの親友、牧長 歩も漏れなくゲームのユーザーであり、しつこく夕陽を誘っていた。
端正な顔立ちをしている歩は、幼いころから運動神経抜群、スタイルも良く、女子からの人気もそれなりにある。勉強は漏れなくダメダメだが。。。
「なあなあ夕~、お前もやろうやエンクエ!めっちゃ楽しいしさ~!」
本を読んでいる夕陽の本と顔の間に自らの顔を突っ込むようにして、歩は読書の邪魔をしてくる。
「いつも本ばっか読んでんと、たまには一緒にゲームでもしようや~」
歩の行動にしかめつらを浮かべながら夕陽は返答する。
「俺ゲーム苦手やしさ、絶対一緒にやってたら足手まといになるで?みんなにうっとうしがられるんが目に見えてるもん。」
「何を弱々しい声だしとんねん夕!大丈夫や!俺が手伝ってお前にゲームの何たるかを叩き込んだる!」
歩の眼はきらきらと輝いていた。どうやら本気で俺のことをゲームに誘い込むつもりらしい。こうなってしまっては諦めさせるのも面倒なのである。
「はぁ~、分かった。歩がそんなに言うならやるわ。ただしほんまに俺をちゃんと指導してくれな。」
渋々な表情で夕陽は誘いを承諾した。
そのセリフを聞いた歩は顔全体をきらきらさせて飛び上がった。
「やった~!夕を誘い込めたでえええ!そうと決まったら早速この後エンクエ買いに行こか!」
歩の勢いに流されたまま、講義終わりにそのままゲーム店のGEENOへ寄って行った。
店の入り口、一番人目のつくところにEmblem Questは置かれていた。
発売は半年前だというのに今でも飛ぶように売れているのだろう、残り在庫もあと5つほどだった。
「おおラッキーやな!俺的には5店舗ほど回る覚悟してたんやけどここで手に入れられるな。」
自分のことの様に表情を光らせ、歩はカセットを手に取る。
「そう言えばやけど、夕陽ってWinks50は持ってるん?本体持ってないんやったら多少俺も出したるで…!」
微かに歩の口元は引き攣っていた。今ハードのことを思い出したのだろう。
夕陽は口角を少し上げて不敵な笑みを浮かべる。
「心配すんな。この前弟がな、商店街のガラガラで運良く本体当ててくれよってん。」
その言葉を聞くなり歩の口元の震えは止まり、晴れやかな笑顔を取り戻した。
「そんなら問題ないな!よっしゃ~!早速買って帰ろか~!」
心底調子のいい奴やなぁ、と夕陽は思った。
カセットを手に意気揚々とレジに向かおうとする歩。
すると、歩の背後から急に野太い声が聞こえた。
「ちょっとあんちゃん、そのカセット寄こしてくれへんか?」
夕陽のほうからはその声の主が見えていた。身長は2mほどであろうか、180cmある夕陽を超えて顔が見えていた。
恐る恐る歩は振り返り、相手の顔を伺う。
どこぞのヤ〇ザでもしていたのだろうか、右頬にまるでクマに引っかかれたかのような切り傷が残っている。
顔を強張らせながらも、歩は食い下がる。
「まだカセット残っているので、そちらを買えばいいのではないでしょうか…」
先ほどまでの元気はどこへやら、か細い声で歩は言った。
薄い一重の眼をかっ開き、大男は言う。
「うちの若いもんが5人、それを欲しいて言いよるんじゃ、すまんけども譲ってくれへんか。」
あきらかにドスの効いた声に分かりやすく歩の体が震えだす。
その様子を少し離れた場所で青白い顔をしながら夕陽は見つめていた。
(すまん、歩。俺にはどうすることもできない…)
夕陽はつくづく自分は弱いなと感じていた。
その時、どこからともなく複数の子供たちの声が聞こえてきた。
「あ!パパ居たよ!みんな向こうにパパが居る~!」
声のする方へ顔を向けてみると、店の奥の方の商品棚の影から、5~6歳の男女の子供たちが5人、歩と大男の方へ走り寄ってきた。
途端に大男は先ほどのドスの効いた声とは打って変わり、低いながらにも甘えた口調になった。
「おお~可愛い我が子たちよ~、やっとお前たちの言っとったゲームが見つかったで~待たせてごめんなぁ。」
表情もとてもにこやかである。
子供たちは大男の周りをぐるりと取り囲み、にこにこと笑顔で話している。
その様子をただ呆然と見つめている夕陽と歩。心なしか歩は安堵した表情を浮かべているように見えた。
一通り会話を済ませた大男は、歩の方に向き直って真剣な表情で口を開いた。
「この通り、うちの若いもん達がこのゲームを欲しがっとるんですわ、譲っては貰えへんやろか。」
その表情はどことなくパパの表情をしていた。
加えて、周りの子供たちの羨望の眼差しを見て観念するしかなく、夕陽と歩は仕方なく別の店舗に向かうことにした。
去り際にとても感謝されていたが、それよりも二人には強く思っていたことがあった。
《うちの若いもんて言い方なんなん??》
その後、無事に他店舗のGEENOにてエンクエを購入し、お互い夜の21時からゲームをすることを約束して解散した。
色々あったこともあり、疲れていた夕陽は一目散に自室のベッドに倒れこんだ。
「はぁ、疲れたなぁ。まだ19時頃やし、ゲームするまで一休みするかぁ。」
死んだように眠りについた夕陽は、少し不思議な夢を見た。
恐らくゲームの中にいるであろう夕陽は、右手に木刀、左手に盾を持ち、頭に大きな一本角の生えた巨大な怪物と闘っていた。
広大な荒野のフィールドで、夕陽を中心に360°どこを見渡しても草木は一つもない。
自分の他にも、耳の長いエルフのような出で立ちをした女性のキャラクターと、少し小柄なドワーフのような男性のキャラクターもいた。
ひと際印象に残っていたのが、筋骨隆々のオーガのようなキャラクターだった。
恐らく男性であろうそのオーガは、巨体にもかかわらず機敏に動き、巨大な一本角の怪物を相手に強力な攻撃を浴びせていた。
夕陽はただ黙ってその戦況を眺めているしかなかった。なぜなら、体が石のように固まり、声も出せずに動けなかったからである。
遠方から弓で攻撃をするエルフ、そして少し離れた場所から魔法攻撃で援護射撃を行うドワーフの見事な連携により、あっという間に巨大な一本角の怪物は倒されてしまった。
一仕事を終えた3人は、夕陽のほうを見向きもせずに怪物を倒した時に出たであろうドロップアイテムを山分けして帰ってしまった。
どうにかして3人に動けないことを伝えようとする夕陽だが、結局3人は魔法でどこかにワープしてしまった。去り際、微かにエルフの女性が何かを口パクで訴えていたが、動けないことに焦りを感じていた夕陽はその意味を理解することはおろか、どうせ小馬鹿にした嫌味でも言っていたのだろうと解釈し、気にも留めなかった。
3人が去ってから数分後、夕陽の体が指先から徐々に動かせるようになってきた。
しめたと思った夕陽は、思い切って全身に力を込め、体の縛りを振り切った。
と同時に声も出せるようになり、やっと自由になった体を思い切り動かした。
「ぬおおおおおお、やっと動かせるようになったぁ!なんで動けへんかったんやろ。」
「さっきのエルフも俺のこと小馬鹿にしてたみたいやし、ほんま腹立つわぁ。」
憤りを感じながらも、改めて自分の体を眺める夕陽は、一つおかしなことに気づく。
自分の装備している木刀と盾、本来なら利き手に木刀を装備するはずが、利き手である左手に盾、利き手ではない右手に木刀を装備しているからである。
少し不思議に感じながらも、目線を再び正面に戻した夕陽。
瞬間、夕陽の背後から黒い影が飛び出し、夕陽に覆いかぶさるように襲ってきた。咄嗟のことに反応が遅れた夕陽は、自分の顔を左腕で覆い隠した。
「あかんっ、やられるっ!!」
次に夕陽が気が付いた時には、自室のベッドの上で自分の顔を腕で覆い隠すようにして寝転がっていた。
「なんや、夢か…死ぬほど焦ったわ。」
夕陽の体は全身汗でぐっしょりと濡れており、ベッドに少しシミができていた。
額の汗を腕で拭った夕陽は、なんとなしに時計に目をやった。
歩との約束の時間は21時からで、現在の時刻が20時半だった。
「やば!まだ風呂も飯も終わってへんのにこの時間はまじでやばい!!!」
別の意味での汗もぼたぼたとかきながら、夕陽は階下にダッシュしてお風呂に駆け込んだ。
「夕陽!!そんなにバタバタ階段降りんといて!!壊れるやろ!」
母の怒号を聞き流し、その後、お風呂と夕食をマッハで済ませた夕陽は、少し遅れて21時15分にやっとゲームを起動した。
久しぶりにゲームをすることもあり、不慣れだった夕陽は、弟の海斗に手伝ってもらいながら初期設定を済ませた。
俺が最後にやったゲームなんてもう10年くらい前やからなぁ、今やとフルダイブとかいう最先端なものになってるんやもんな。」
恐る恐る眼鏡型のWinks50を装着し、ベッドに横になる。
「お兄ちゃん!久しぶりのゲーム、楽しみなよ!」
傍らから聞こえた海斗の声に軽く右手を上げ反応する。
やがて、夕陽の意識はゲームの中へ引き込まれていった。
<プログラムを確認します。確認完了。>
<ソフトを読み込みます。読み込み完了。>
<フルダイブMMORPG Emblem Questを始めます。>
無機質なゲームの音声が聞こえ、夕陽の眼前にゲームの画面が映し出される。
壮大な緑の大地をバックに、大きくEmblem Questのタイトルが居を据えている。
初めての経験に、夕陽はわかりやすくテンションが上がっている。
「うわあぁぁああ、これは凄い!ゲーム進化しすぎやろ!!」
キラキラと目を輝かせる夕陽の前に、パネルのようなものが現れ、キャラクターメイキングを促される。
「おぉ、自分が動かすキャラを作れるんやな。少しくらいかっこよくしてもええよなぁ。」
どこからともなく、先ほどの無機質な音声が聞こえ、説明を始める。
<キャラクターメイキングを始めます。先ずは、種族を選んでください。>
<種族は全部で5種類あり、それぞれの種族に特殊能力があります。>
技術を司る種族『人間』
力を司る種族『オーガ』
精霊を司る種族『エルフ』
知を司る種族『ドワーフ』
夜を司る種族『ヴァンパイア』
<以上から種族を選択してください。>
「うーん、そうやなぁ、ゆっくり選びたいところやけど急がへんとなぁ。歩待たせてるし。」
優柔不断な夕陽だったが、時間が押していることもあり、説明をしっかりと読まずに人間を選択した。
その後も、ある程度適当にキャラメイキングを済ませた夕陽は、「U」というユーザーネームでゲームを開始した。
<キャラクターメイキングが完了しましたので、ワールドを読み込みゲームを開始します。>
<読み込みが完了しました。>
<ようこそEmblem Questへ!>
「よっしゃ、ほな行こかぁ!」
続く