なろうで★1評価をつけたら書き手さんからメッセージが来た。
フィクションです。
主人公はまったく架空の人物です。
ハマったアニメに原作小説があると知って、買って読んだ。全巻読んだ。続きがものすごく気になった。
その小説はもともと、小説投稿サイト『小説家になろう』に掲載されていたもので、サイト上での人気が高かったため、書籍化→コミカライズ/アニメ化、というメディア展開をたどったとのことだ。そして『小説家になろう』には、刊行済の書籍にはまだ掲載されていない、作品の続きが掲載されているのだという。
さっそく『小説家になろう』に行ってみて、その作品の続きを読んだ。そのまた続きを読みたかったが、それは更新を待つしかない。
そこからあたしは『なろう』にハマった。
『なろう』には〈評価システム〉というものがある。
あたしはこの評価システムを個人的なメモがわりに使っていた。
★★★★★ 大好き! 何回でも読む!
★★★★☆ 好き! だけれど誤字等難あり
★★★☆☆ ふつうにおもしろい
★★☆☆☆ おもしろいが好みじゃない
★☆☆☆☆ 読まない
あたしは忘れっぽい。
『なろう』で、おもしろそう! と思って読みはじめた作品を、読み進めていくうちに「んーこれあんま好きじゃないな……というか前にも読んだことあるような……そうだ! 前にも読んで合わないと思ってやめたんだった」ということをたびたび繰り返すうちに「読まない」と決めた作品に目印をつけたくなった。
その目印として、評価システムは最適だった。読もうと思った作品を確認して「おもしろそうだけど……あ、★1つけてる! そーだった前に途中まで読んでやめたんだった」あるいは「この作品人気みたいだから読んでみようかなあ……あ、★2。思い出した、人気なのは分かるけどあたしには合わなかったんだった」ってすぐに判ったから。もちろん、★4以上の作品についても評価システムは確認手段として有効だったけれど、それらの作品はブクマというかたちでも記録しているし、そもそも好きな作品というのは記憶から遠ざかりにくいうえ、読んだ過去を忘れて再読したとしても楽しんで読めるのだから問題ない。
あたしは自分の個人的メモのために作品を〈評価〉していた。サイトの機能を有効活用する、という感覚だ。だれかに自分の評価を伝えるつもりなんて、ぜんぜんなかった。
そんなふうに読み専ライフを満喫していたある日、知らない人から、あたしの『なろう』アカウントにメッセージが来た。『なろう』を利用していてメッセージをもらったのなんて初めてだった。
送信者は、あたしが以前読んで★1評価をつけた作品の書き手さんで。
要約するとこういうことが書いてあった。
★1評価は正直傷つく。
作品として良くなかったということなのだろうが、評価されるだけでは、どこが良くなかったのか分からない。
評価をしていただくのは構わないが、できれば改善点を指摘していただけるとありがたい。
鳥肌がたった。
……インターネットの向こう側には人間がいる。
たとえばあたしがツイッターに現首相の悪口を書くとする。きっとそんなもの誰も見ないし、見たとしても気にしない。当然、首相本人はあたしに悪口を言われているなんて気にもとめない。
無名の一個人であるということは、そういうことなのだと信じていた。あたしはそれまで『なろう』の評価もそれと同列にとらえていたのだ。
恐怖を感じたあと、疑問に思った。
この書き手さんはいったいどうやって、あたしがこの人の作品を評価したと知ったのだろう。
読み専でもマイページの評価欄はいちおうネット上に公開されている。だが、感想やレビューを書かず、ブクマも非公開のあたしのページなんて、そう簡単にたどり着けるようなものでもないと思う。
気になったあたしは、有名な『なろう』分析サイトで当該作品の評価者情報を見て自分のユーザネームが載っているか確認したり(評価者にあたしのユーザネームは挙がっていなかった)、検索エンジンで『なろう』のマイページにサイト内検索をかけてみたりして、自分なりに調べてみた。結果、あたしが当該作品を評価したという情報を、あたしでないユーザとして得ることはできなかった。なんで分かったのこの人!?
不躾にメッセージを送りつけてきたことにも腹が立った。
改善点を指摘? そんなの自分で考えてよ。
あたしにはあんたの作品にそこまでの時間と労力を割く義理なんてない。
だがもちろんそんな返事はしない。
穏当な返信をするために、評価システムについて今更ながらに調べた。読み手はどういう基準で評価しているのか、書き手は評価をどう受けとめているのか。調べて、考えたうえで、以下のような内容にすることにした。
不快な思いをさせてしまったのであれば、たいへん申し訳ありませんでした。
ブクマ欄がいっぱいなので、ブクマを外すときに作品に★1をつけることにしているだけで、それが低評価だという意識はありませんでした。○○様の作品については、いったん評価をリセットさせていただきました。
上記をより丁寧に書いたものを、メッセージ欄から返信しようとして……できなかった。
ブロックされていた。
ちょ。
改善点の指摘を求めてるんじゃなかったんかーい!
聞く前に拒絶するんかーい!
……めんどくさそうな人をまともに相手にしようと思ったあたしがアホだった。
とはいうものの恐くなったので、★4と★5だけを残して、★3以下の評価はすべてリセットした。
評価システムについて調べていくうちに、書き手の評価に対する気持ち、というものをいままでまったく考えたことがなかった自分に気づいたから。★1をつけるのはべつに悪いことではない。でももう少し慎重になろうと思ったのだ。
なによりも、また同じようなメッセージが来たら、恐い。
インターネットの向こう側には人間がいる。
あたしがなにも考えずに★1をつけていいのと同じように、それに気づいた人はあたしに抗議のメッセージを送ったり、あたしのアカウントをブロックしたりしていいのだ。
◇
その後、好きが高じたあたしは自分でも小説を書いて『なろう』に投稿するようになった。
1作目は流行ジャンルを書いてそこそこ読まれた。読まれるのも、ブクマされるのも、評価ポイントがつくのも、感想をいただくのも、飛び上がるほど嬉しかった。最終的にはブクマ300くらい。小説を書くのは楽しいことなのだと知った。
2作目はもともと自分が好きな過疎ジャンル(『なろう』では過疎だが小説のジャンルとしては一般的)で書いた。
ある程度は覚悟していたことだったが……読まれない。笑えるほど読まれない。10話投稿時点でブクマ1桁。なまじ3桁を経験したことがあると、1桁というのは正直けっこうキツい。読んでくださる方がひとりでも居るだけでありがたい。そもそもあたしは自分のために自分の好きなものを書いているのだ。……そうは思うもののモチベは上がらない。承認欲求を自覚して恥ずかしくなった。
そんなある日、自作品に評価がついた。
【小説情報】
総合評価 16 pt
評価者数 1 人
ブックマーク登録 7 件
評価ポイント平均
★☆☆☆☆ 2.0
評価ポイント合計
2 pt
(ユーザページ > 投稿済み小説 > 管理ページ より引用)
★1。
★は5つけられるのにそのうちの1だけ。
『なろう』の評価は5段階とはいえ、評価基準は各読み手に委ねられているというけれど……。それなら、評価基準が不明確な★の数について〈評価ポイント平均〉を出す意味はなに?
『読もう』においても〈評価ポイント〉÷〈評価人数〉をすれば簡単に〈評価ポイント平均〉は割り出せる。
★1ってどういうこと?
最低ってこと?
ううん。違う。あたしは知っている。あたしも★1をつけたことがある。何回もある。べつに「下手」とか「才能がない」とか思って★1にした訳じゃない。「あたしには合わない」って思っただけで、自分のための目印だった、作者になにかを伝えるつもりなんてぜんぜんなかった。読み手の数だけ評価基準はある。どんな基準で、どんな評価をつけようが、それは読み手の自由だ。でも。
……この評価をつけた人っていったい誰なんだろう?
この人の評価欄を見てみれば、評価傾向とか判るかも。
もしかしたらブクマ代わりの★1かもしれないし。
インターネットを駆使して調べた。かなりの時間を費やしたが結局、その人が誰なのかは判らなかった。
見つからない、と分かって頭が冷えた。
あたし、調べてどうするつもりだったの?
その人のアカウントが判ったとして、それで?
たとえばほかの作品の評価は★5とか★4で、あたしの作品だけ★1だったら? 自分に実力がないんだ、って落ち込む? それとも嫌がらせだと逆恨みする? 恨んでどうするの? 相手は9割がた読み専だろうから評価による報復なんてできないし(もちろんそんなことはアカウントが判っても絶対にしないし、★1評価を報復扱いするなんて明らかな間違いだと知っているけれど)、あたしにできることといえばせいぜい……。
かつて、メッセージが来たことを思い出す。
ブロックされたことを思い出す。
★1をつけた人が誰か判ったとしても、あたしはメッセージなんて送らない。ブロックは……するかもしれない。
いまになってようやく、あたしにメッセージを送ってきた彼(彼女)の気持ちが解る。解ったような気がしているだけかもしれないけれど。
彼(彼女)は、傷ついていたのだ。
身勝手にも、自分だけの価値判断基準で、顔の見えない他人の評価を過剰に意識して、相手に働きかけずにはいられないぐらい、傷ついていた。
顔も見えない赤の他人にどう思われるかなんて、気にしたってどうしようもない。そんな悩みに時間を割くくらいなら、家族や友人を大事にしたり趣味に打ち込んだりした方が、よほど健全だ。
でも、小説というのは。
書いてみて初めて知った。作品は、自分そのものだ。
自分を否定されるのは、悲しい。生きているのが嫌になるくらい、悲しい。
だからあたしはいま、身勝手にも、傷ついている。
知っている。★1評価は否定とは限らない。仮に否定だったとしても、気にする必要なんてない。
かつてのあたしが★1評価を平然とつけていたことは、軽率だったとは思うけれど、間違いだったとは思わない。
でも。
――強くなりたい。