夢現
初投稿です。
良ければ最後まで呼んで見てください。
一つの夢のそんな記憶
ふと、目が覚める
昨日は何をしていたか
まるで記憶に靄がかかっているように、覚えていない
すぐに思い出せたのはさっきまで見ていた夢
梅雨のような雨の中、どこかどんよりとした雰囲気の廊下で、真っ黒い服を着た知らないおばさんたちが会話をしている
「治りかけた風邪をこじらせたんですって」
そうか、
そうだ。
俺は昨日まで風を引いていたんだ。
風邪もほぼ治って、家族と普段通りに会話していたのを思い出す。
「そうそう、明日昼飯いらない」
2つ上の兄だ
「なに、どっか行くの?夜ご飯は?」
「夜ご飯は家で食うわ」
「どこいくのー?」
「ちょっと友達と映画行ってくる。」
そんないつも通りの、治りかけの風邪なんかお互い全く気にしていない会話
そんな会話をしたあといつも通り、普段どおりに寝た。
ベッドから降り、階段を降りてリビングに向かう
毎朝同じことをやっているのだから、半分寝ていてもできる
たいていリビングに辿り着くと、なにか柔らかいものを枕にして二度寝を始めるのだが
今日は寝起きでボケているということもなく、やけにはっきりとした意識でリビングに辿り着く
テーブルにはひとつ上の兄が座っている
普段は昼間で寝てるくせに今日はいつも以上に早起きで、寝起きだからか無表情でパンを食べている
テーブルの半分引かれている椅子に体を滑らせて、なんとか椅子を動かさないように座る
俺も朝ごはんを食べようと、母さんを呼びかける
「母さーん」
すると、兄が驚いたような顔でこちらを見ている
母さんが机に並べられた食パンや菓子パンを指差しながら尋ねてくる
「今日は何にすんの」
またも兄が驚いた顔して母と顔を見合わせている。そしてお互いが目だけでやり取りをしたかと思うと、二人が強く頷いた。
俺が昨日だと思っていたこと
どんよりとした雰囲気の廊下の記憶
兄と母の表情
なぜか意識だけがはっきりしていること
それらから自分の状況を悟る
つまり、自分がすでに死んでいること
そのことに気がつくと、それを確かめるため階段を昇って足早に自分の部屋に向かう
部屋の扉を開けてベッドを見てみる
さっきまで自分が寝ていたのにも関わらずシワひとつついていない
リビングに戻るとさっきと同じように兄がダラダラと食事をして、母が台所で料理をしている
さっき俺の言葉に反応を示していたように声は聞こえているようだ。それなのに今はこちらを見ていないということは、見えてはいないらしい
大きく椅子を引いて座ると兄がこちらを向いた
こちらから話しかけてみるとしっかりとした返答がある。それからしばらく会話を続けた
お葬式はどうだったか
誰が来ていたのか
会話していてわかったことがいくつかあった
まず、こちらの姿は見えていないこと
会話に関しても、相手にはっきり言葉が聞こえているわけではなく、伝えたいことが何となく分かるといった程度らしい
最後に、はじめは普段どおりの声でもなんとなく会話できていたが、時間が経つにつれて向こうがこちらの伝えたいことがはっきりわからない事が増えてきた。こちら声を大きくすると納得したような顔をする
俺はどんどん認識されづらく、存在が薄くなっていってるらしい
その後も他愛もない会話を続けた
俺の声はだんだん大きくなっていった
ひとしきり会話を続け話題も底をついてきた頃、俺はある思いつきで兄を部屋に呼んだ
そのときには声を荒げてもはっきりと意図が伝わらないことが増えてきていたため、近くにあるもので兄の頭を小突いたり、足音を出して兄を誘導していった
自分の部屋について机の前に座らせようと足音で誘導すると、不思議そうな顔をして机の前の床に座る。
何してんだコイツ
改めて椅子を叩くと、納得したように椅子に座る
近場にあった紙とペンでパスワードを伝えて自分のパソコンを開かせる
最初からこうすればスムーズに意図を伝えられたのに
パソコンの中のデータを消去するように要求した
持っていた小説やマンガの中で、死に際の主人公が「パソコンのデータを消しといてくれ」というやつをやってみたかったのだ
兄が黙々とパソコンのデータを処理していると、部屋に続々と2つ上の兄や母が入ってくる
母が呼んだようだ
俺の存在を確認しようと来たらしい
そんな2つ上の兄に近場にあったものでいたずらしてみると、驚いた顔をしていた
ひとつ上の兄の方もデータの消去が終わったようでこちらに視線を向けてくる
家族みんなの温かい視線が俺を貫く
そんな視線を受けて、今まで気丈に明るく振る舞っていた俺の感情は決壊した
なんで俺死んでんだよ
ただの風邪じゃん、ただの風邪だったはずじゃん
やり残したことなんていくらでもある
自分の身長より大きい本棚が埋まるほど集めていた小説やマンガの結末を知ることはもうできない
無事大学に合格したあとにやりたかったことなんていくらでもある
彼女だって一度は作ってみたかった
他にやりたいことを上げていけばキリがない
それなのにもうそれら全てできないなんてあんまりだ
もうそろそろ、自分の意思を伝えるのもままならなくなっていくのがわかる
そんな中で、ひとしきり泣いたあと、伝えたいことのほんの少しの片鱗でも伝わってほしいと願いを込めて、未だ俺に温かい視線を注いでる家族に向かって思い切り叫ぼうと、深く、深く息を吸い込む
その瞬間、視界は眩しさに覆われて思わず目を塞いだ
光が収まり、目が慣れてくると
そこには一番憧れ、一番好きだった作品の世界が広がっていた
そこで、舞台のような場所に俺は立っていた
多様な文化が複雑に入り混じった様相を見せる町並み中心にある舞台だった
スポットライトのような溢れんばかりの光に向かって、作品の主人公たちが悠然と歩いていく
まるでその光の奥に答えがあるとわかっているように
そんな彼らを見送りながら、俺の視界は暗転していき
思考には再び靄がかかったように、ぼんやりとしていく
暗転した視界の中で眩しいと感じたと思ったら
俺は自分の部屋のシワのついたベッドの上で目が覚めた。
続きを書くかもしれませんが、完全に不定期なので覚えていたらで良いので続きを探してみてください。