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異電無頼結戦 ファントム・デストラクター  作者: 植木 早苗
序章 旅路の果て Journey’s end
4/10

第四話

「このビルの屋上は通常ルートでは出入りできなくて、メンテナンス用の入り口があるよ。そのハッチを開けてビルの内部に侵入だね」

と同時に、入り口が矢印で協調されて表示される。

「どうやって開けるんだ?」

「外側から開けるようにはできてないみたい。内側からハンドルを回して開ける方式かな……」

「わかった」


 タイタンがメンテナンス用のハッチをまたぐように移動し、両手をハッチの上に置き集中する。


「アストラル体現(エンボディ)


 タイタンがそう(つぶや)くと両腕からほのかな青い光を放ちながら、もう一組の両腕がのびていく。

そしてその腕はハッチをすり抜けてそのまま内部に沈んでいく。

ある程度、青白い腕を伸ばしたところで何かをつかんだような動作をしたタイタンは腕を反時計回りに動かす。


「ん? ああ、逆か」と今度は時計回りに動かし、腕を上げるとハッチも上がる。

「相変わらず便利だね」


 タイタンの網膜(レティナ)ディスプレイを共有しているグレムリンが(つぶや)く。

ハッチが開くと、うすぼんやりと青白く発光する腕はタイタンの本来の腕の位置まで戻り、消える。

額の汗をぬぐうタイタン。


 アストラル体現(エンボディ)――それはタイタンがもつ特別な能力。

普段、彼ら定命の者たちが住まう世界は物質界(マテリアルプレーン)と呼ばれる。

この物質界(マテリアルプレーン)に重なるように存在する実体のない精神だけの世界。

これを精神界(アストラルプレーン)と呼び、精神界(アストラルプレーン)に存在する生命の総称を霊体(アストラルボディ)と呼ぶ。

物質界(マテリアルプレーン)に存在する生命は同時に精神界に重なるように霊体が存在している。

タイタンにはこの精神界(アストラルプレーン)にある霊体を物質界(マテリアルプレーン)に実体化して干渉させられる特殊な能力を生まれつき持っていた。

先ほど内部のハッチを開けたのは、霊体(アストラルボディ)を腕のイメージで内部のハンドルまで伸ばす。

そのまま手のひらを物質界(マテリアルプレーン)に実体化。

ハンドルをつかみ、反時計回りに回してハッチのロックを解く。

霊体(アストラルボディ)の腕を戻しながらハッチを上げる。

手のひらの実体化を解き、霊体(アストラルボディ)を元に戻す。

このような手順で内部からしか開かないはずのハッチを外部から開けたのだ。


「ここまで操作できるようなるまで、苦労して研鑽(けんさん)を積んだからな」


 開いたハッチに向けてイタンはドローンを放つ。

マッピング専用ドローン、ハミングバード。

高精細の赤外線カメラとソナーを有した、小型のドローンが最上階を巡回し、カメラと音が反響した情報をグレムリンに送信する。

その情報を受けて3Dの地図情報を作成し、タイタンの網膜ディスプレイに移しだす。

ハミングバードは監視カメラの情報もマッピングする。

ハミングバード自体は監視カメラに写ったとしても、アラートからは逃れる程度の極小サイズなのだ。

このドローンはグレムリンの開発したワンオフ製品だ。

小型であるため、バッテリーの容量が小さく、稼働時間が短いのが欠点である。


「じゃあ、そこからビルの内部に侵入して、まずは最上階の制御盤(コンソール)をめざしてね」


 タイタンの網膜(レティナ)ディスプレイにビル内部の見取り図と、進入経路、目的地が表示される。

フロアのマップは最上階だけだが、目的のデータが地下にあることだけは事前の調査で判明している。


「せまいな……」とぼやくタイタン。

「そりゃ、6フィートを超える筋肉ダルマはバリアフリーの対象外だよ」とグレムリンがからかう。


『ここからは音声通信から無音通信に切替えるから、声には出さないように気をつけてね』

『わかってるよ』と口を動かさずに無音通信で答える。


 メンテナンスハッチを降りて、最上階用のメンテナンス用の制御盤(コンソール)を最速で目指すタイタン。

最初の制御盤(コンソール)までの移動は無駄なく、最速にすませる必要がある。

途中、グレムリンから送信されたマップ上の監視カメラをペイント弾で目隠して進む。

このペイント弾は彩色されているが、空気に触れると数分かけて徐々に色が落ちて透明化していく特殊なペイント弾だ。

どうやら管理室に気づかれる前にたどり着けたようだ。

制御盤(コンソール)に無線モジュールを接続し、タイタンのイヤーモジュールを足がかりにしてグレムリンがセキュリティのハッキングを実行する。

ハッキングが完了するまでは警備員がいつ現れてもおかしくない。

タイタンは警戒をしながらグレムリンの仕事を待つ。

数秒か数分か、ハッキングが終わるまでの時間はいつだって永遠にも感じる。



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