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異電無頼結戦 ファントム・デストラクター  作者: 植木 早苗
序章 旅路の果て Journey’s end
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第二話

 今回の依頼人は政府高官。

とあるヤバい行動を記録した自分の動画情報の完全削除をご依頼だ。

情報の中身はアンブロシアーって最新のヤクをキめてご乱交した動画らしい。

相手が未成年なのがまずかった。

少年少女(・・・・)とその保護者は金で黙らせたが、その動画を入手した某国に機密情報へのアクセス権を強請(ゆす)られている。

この動画が公開されたあかつきには政府高官の失脚(しっきゃく)は確実だ。

だからって、アクセス権を漏洩(ろうえい)したことがばれたら投獄(とうごく)なのも確実。

最悪は物質界(マテリアルプレーン)――すなわち、この世――から抹消されることも覚悟しなきゃならない。

進退きわまったとはまさにこのことだ。

もちろん、政府高官(おえらいさん)が怪しげな裏家業に直接依頼してくるはずがない。

依頼は代理人のミクス・ホワイト。

この仕事の仲介役だ。


 ミクス・ホワイトは依頼人の通称だ。

大体は高齢、普通体型のパリッとした男もののスーツを着た、姿勢も良ければ言葉も丁寧な無個性の人間(ヒューマン)だ。

彼/彼女が誰なのか、そしてミクス・ホワイトがいつも同じ人物なのか。

それは始末屋にもわからない。

顔には認識疎外(にんしきそがい)のインプラントを常にONにしているからだ。

ちなみにこのインプラントを自宅以外でONにすることは法律で禁止されている。

法律を無視しても警察からお咎めなし、ということからも彼/彼女が特別な組織の保護下にあることはわかるだろう。

もちろん音声にもエフェクトがかかっていて地声はわからない。

時々、あからさまに恰幅の良い別人のことがあるが、指摘しないのが礼儀だ。

代理人の名前もいつも同じじゃない。

今回はミクス・ホワイトなので政府関連の案件だという暗示だ。

ちなみに企業案件ならミクス・ブルー、裏社会案件ならミクス・ブラウンだ。

なぜ裏社会はブラウンなのかは想像に難くないだろう。

裏社会案件はどれもクソみたいな依頼だってことだ。

政府関連(ホワイト)とわかったからと言って、実際の依頼人は名前も姿もわからないし、政府高官も誰に依頼したかなんて知ったことじゃない。

お互いにつながりがないことが信頼の証なのだ。


 報酬は暗号通貨(クリプトカレンシー)で支払われる。

税務署に足がつかないし、ロンダリングの必要も無いからだ。

格子(ラティス)(Lattice)暗号でゲートの向こうまでブロックチェーンされているという標準暗デファクトスタンダード号通貨(クリプトカレンシー)

通貨の名前はグリッドエンコイン(GridYenCoin)。通称、ジェンコイン(GYEN COIN)。


 ジェンコインは円マークとG、Cが重なった通貨マークの2文字で表記される。

今回の仕事の報酬額は1メガジェンコイン。

前金で半分。

成功報酬で残り半分。

必要経費を引いた後に、報酬は二人できれいに山分けがポルターガイストのルールだ。

作業量の比重は考慮(こうりょ)しない。

お互いの領分には干渉しないのが長くコンビを組み続けるコツだからだ。

役割分担はグレムリンがネット担当で、タイタンはフィジカル担当。


 グレムリンはテラグリッド――世界中に網羅(もうら)されたVRネット空間――にネット接続で意識を投射(プロジェクション)して、事前調査で依頼データの場所を特定する。

もちろん、単純にネットを検索したらデータのありかが特定できるなんて簡単な作業なら彼らの仕事は成り立たない。

グレムリンは百年単位で磨き上げたハッキング能力で目的のデータの痕跡(こんせき)を探し当てる。

依頼人の行動履歴やアクセス履歴、SNSでのつながり、さまざまな極めて微細な痕跡(こんせき)結節点(ノーダルポイント)をみつけだし、それを特徴点(とくちょうてん)としてマッピングしてグリフ(絵文字)化する。

――グリフとは、情報を抽象化し、画像として具象化した記号の集合体だ。

様々な視点から作成したマッピングデータを無数に作成し、グレムリンのアルゴリズムを通して痕跡(こんせき)を追跡しながらデータ位置を特定するのだ。

特徴点(とくちょうてん)の抽出と結節点(ノーダルポイント)の検索と処理アルゴリズムはグレムリンの脳内では理論として確立しているのだが、説明されてもタイタンにはさっぱりだった。

もちろん、ネットですべての情報が検索できるわけじゃない。

時にはドローンを使い、時にはタイタンが足を使って情報収集や調査を実施することも多い。


 依頼データの場所が特定できたらタイタンの出番だ。

データセンターに直接乗り込んで、データを削除する。

もちろん依頼を完遂(かんすい)するためには暴力による排除も辞さない。


 アライグマをキャラクター化したアバターが視界の隅でタイタンにレクチャーを続ける。


「目的の高層ビルは正面から乗り込むにはセキュリティがやっかいすぎるんだよね」

「蹴散らすのは俺の得意分野だぜ」とタイタンが言うが、グレムリンはあきれたように「通報されたらイナゴのみたいに武装した警備員が増えるのがやっかいなんだよ」と告げる。

「イナゴなら駆除すりゃいいさ」

「……必要以上の銃弾の代金は必要経費と認められないからね。赤字になってもいいならどうぞ」

「悪かった。それはくたびれ損だな。プランBを頼む」

「最初っから隠密(おんみつ)で潜入がプランAなんだけどね……」グレムリンのあきれた声とあわせてアライグマのアバターが肩をすくめる。



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