表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/4

異世界…?


気がつくと、俺の周りは、さっきまで近くにあった部屋のベッドや机、たまにやるゲーム機、はたまたエロ本が隠されている棚に至るまで、日本で生きてきた家財道具が消え失せ、いつもの光景が広がっていた。

なんと言うか、転生前のモヤモヤするような空間だ。いつもは、ここから俺の望み通りの世界へと転生することになっている。


「さーてと、次の転生先は、」


やがて唐突に身の回りの輝きが強くなる。そして(つい)に異世界に転生した感覚が俺に訪れた。


「よし、今回も上手くいった…ん?」


(まぶ)しさで一時的に落ちていた視力が回復して、辺りを見回すと、そこは俺が望んでいた「獣耳(けもみみ)()パラダイスワールド」


ではなく、暗くて、しかもなんだか不安定な環境だった。そこに俺は立っていたのである。



「あ、あれ? おっかしいな〜。確かに獣耳っ娘の世界を想像してたはずなんだけど。ていうか、なんだここ。もしかしなくても、まさかの失敗ですか?」


そんな馬鹿な。()()ない。

俺の能力は完璧で、1度たりとも失敗したなんてことはないのだ。


まあもちろん、ごくたまに俺の思い描いていたイメージと少し違いがある世界に転生することもあったけど、結構楽しかったし、何よりここまで何もない所に転生なんてされるわけがない。



俺は動揺(どうよう)した。


「まさか、遂に俺の能力が期限切れで、本当に俺、死んじゃったの?」


それは()える。まじで萎える。せっかく妻の不倫現場を見つけて、現実逃避しようとしてたのに、その機会が完全に失われてしまうなんて。



「すまんの。何かの手違(てちが)いで、どうやらお前さんは本当に死んでしまったようじゃ。」


混乱している俺の元にどこからか声がかけられる。


「誰だ? どこから話しかけている? 姿を表せ。そんな礼儀も出来ないやつは社会人として失格だぞ!」


「社会人? お前は一体なんの事を喋っておるのだ。大体、礼儀だなんだと抜かすなら、まずはお前がそれを示せ。」


「はあ? 何をおっしゃっているんですかね、いい加減にしないと、」


(わし)じゃ。ほら、こっちを見よ。」


声のする方に顔を向けると、何かとんでもなく派手などデカい椅子に、これまたどデカい人間が座っているではないか!?


「な、なんだ、あんたは。」


「儂か? 儂はな、神じゃ。じゃが、よくもお前、神である儂に向かって『あんた』なぞと呼んでくれたな。」


神? こいつが? いやまあ、確かに、それっぽい雰囲気(ふんいき)は出してるけども。え〜?


「え、えーと、貴方が神様でしたか?」


「ん? 今お前、儂のことを神ではないとでも思っておったじゃろう。」


「えっ!? い、いやいや、そんなわけないじゃないデスカ〜。」


「嘘が下手すぎるわ、マヌケ。」


ま、マヌケ? この神様、結構エグいこと言ってくる。


「まあ良い。そんなことよりな、さっきの話じゃが、お前の転生は失敗じゃ。今は儂の世界に一時的に(とど)めておる。」


ホントに失敗したのかよ。うわぁ〜。


「その理由については、お前にも心当たりがあるだろう?」


は? 心当たり? なんの事だ?


「いや〜、分からないっすねえ。俺今まで一度も失敗してなかったんで、」


「神」と名乗ったジジイが呆れながら、俺の言葉を(さえぎ)る。


「そこじゃ! お前のそのヘンテコな能力のせいで、ありとあらゆる世界の因果が(ねじ)れてしまったのじゃ!」


「俺の能力のせい?」


「そうじゃ。お前はその能力でいつでも好き勝手に転生しては、唐突に切り上げて勝手に元の世界に戻るじゃろう。それを今まで何回繰り返してきた?」


「えーと、俺がこの能力に気付いてから、1、2…ああもういいや! とにかく沢山っすね!」


「神」は露骨(ろこつ)にため息をついた。


「はぁ〜。お前の開き直りっぷりには、ほとほと呆れ果ててしまうわ。

とにかく、その行いで数多の世界が崩壊しかけた。それをこの儂が今まで修復してきたのじゃ。

だがな、ここ最近その回数が多すぎる。流石(さすが)にもう限界じゃ。」


「え? それなら他の神に頼めば良かったでしょう? なんで 1人で抱え込んでるんすか。完全に俺への八つ当たりでしょ。」


「他の神は他でやることがあるのじゃ。それに、断じて八つ当たりなどでは無い! お前の(おこな)いが他の神にも迷惑をかけておるのじゃ! すなわち、これは身勝手なお前への儂ら神々の怒りじゃ! よって、」


さながら裁判長が罪人に判決を言い渡すかのように、


「よって、お前は次の転生先で、天寿(てんじゅ)(まっと)うするまで、元いた世界に戻ることを禁ずる!」


エエェェッ!? そんな、嘘だろ?


「い、いや、ちょっと待って下さいよ。それって、つまり、」


「本当の異世界転生を過ごす事が出来るぞ。良かったな。ま、せいぜい頑張れ。」


「い、嫌だ! あれだろ? 俺が勝手に異世界転生したのが良くなかった、ってことだろ? 悪かったよ。謝るから。だからせめて元の世界に帰してくれよ、頼むから!」


「ダメじゃ。そうやっていつまでも甘えてられると思うなよ、若造が。」


クッソ! こうなったら力づくで! こいつ弱そうだし、いけるだろ。

そう思って「神」に近づくと、突然、目の前に落雷のようなものが落ちてきた。


「うわあっ! 危ねぇ!」


「ふむ、聞き分けの悪いやつには、(きゅう)()えておかねばな。」


「あ、あの〜。命を奪ったりなんてしませんよね〜?」


「ん? ああ、そうか。お前は未だに儂が神であることを信じておらんのだな? まあ、それなら仕方がない。儂もそこまで強い神ではないからな。

とはいえ、これでも神の端くれ。ちょうど目の前にいい練習台があるではないか。どれ、一つ試してみるか。運が良ければ、死ぬ一歩手前ですむじゃろう。」


ヤバい。殺される。


「わ、分かりました! 行きます! 行きますから! だから、命まで奪わないで下さい! お願いします!」


そう言うと「神」は()めていた力を()きながら、ゴミを見るような目で俺を見下ろしてきた。


「はあ、面倒臭い奴だな、お前は。ほら、門は開いておる。さっさと行け。」


「神」の指差す方向に顔を向けると、何やら輪っかのような枠の中に、さっきの眩しい光のようなものが(うごめ)いている。


事ここに至っては仕方がない。どうせ今戻っても、妻の不倫現場に立ち会うだけだ。


俺は意を決して、その光の中へと飛び込んでいった。「門」が締まり切る直前、「神」が思い出したように付け足す。


「ああ、そうじゃ。言っとくが、途中で自殺なんとかいう変な死に方をしても、元の世界には戻れないからな、気をつけておけよ。」



…そういうのは、先に言ってくれ。さっきそのやり方で戻れると思った俺の希望を返してくれ。



そんなこんなで、俺は見知らぬ世界へと転生して行ったのだった。




初めまして! 作者の「流れゆくモノ」と言います。この作品の他に「鬼と傭兵の物語」を、この「小説家になろう」で投稿しておりますので、気になった方は、そちらの方も是非、ご覧になって下さい!


ただし、「鬼と傭兵の物語」は、これとはまた違った作風なので、苦手な方は読まなくても、全く問題ありません!


それではよろしくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ