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おとか  作者: 水渕成分
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 「それで、佐貫(さぬき)君、何があったの?」

 (くすのき)さんは極めて冷静に僕に問うた。


 僕は今まであったことを全て話した。


 横で黙って聞いていたおとかの顔色は次第に蒼白と化して行った。


 「そう・・・・・・」

 やはり、黙って聞いていた(くすのき)さんはゆっくり話し出した。

 「これは私も捨て置けないね」


 ◇◇◇


 「実は春先、最初に佐貫(さぬき)君の話を聞いた時、少し大げさに言ってるんじゃないかと思ったの。それで、第三小の司書の赤羽(あかばね)ちゃんは私の高校の文芸部の後輩だから、聞いてみたんだ。そしたら、本当の話だって、言うじゃない。正直、その時から、正規の教員だからって、司書を馬鹿にするんじゃないよと思ってたの」


 「・・・・・・」


 「こうなったら、私も全面協力する。学校の図書館に行きたい子が安心して行けるように、佐貫(さぬき)君が希望する中学受験が出来るようにね」


 僕はおずおずと切り出した。

 「でも・・・・・・そんなことが出来るんですか?」


 (くすのき)さんはにっこり笑うと答えた。

 「正直、100%の勝算がある戦いじゃない。でも、勝ち目は十分にある。でも、勝つためには・・・・・・」


 僕とおとかを指差し、

 「あなたたちの頑張りがいるっ!」


 「僕たちが頑張れば・・・・・・ でも、どうやって?」


 僕の質問に(くすのき)さんは1枚の紙を取り出した。

 「勝利へのカギはこれっ!」


 「これは・・・・・・」


 今日、坂上先生から配られた県内小学生の研究発表募集のチラシだった。


 ◇◇◇


 「(くすのき)さん。これ、坂上先生がこんなものは受け付けないって」


 「ふふん」

 (くすのき)さんは我が意を得たりとばかりに微笑んだ。


 「やっぱりね。そんなところだろうと思った。でもね、この主催はあくまで県の教育委員会であって、その坂上先生じゃないんだよ。受け付けないと言ったところで、別ルートから流せる。私ら司書は市の教育委員会の所属なんだ」


 「!」


 「だけどね。ただ出せばいいってもんじゃない。県の最優秀賞を取るくらいの成果を上げないと。そうすれば、校長先生も佐貫(さぬき)君に注目するだろうし、私らも市の教育委員会を通じて、安心して学校の図書館を使えたり。私立中学受験ができるようお願いすることも出来る。どう? やってみる?」


 「やりますっ」

 僕は反射的にそう答えた。


 「それで、本土(ほんど)さん、あなたは? 協力してくれる?」

 (くすのき)さんに問われたおとかの顔色は真っ青のままだった。


 「わっ、わたしは・・・・・・」

 おとかはひどく動揺している。次の言葉が出てこない。


 僕は大きく頭を下げた。

 「ごめん。おとか。びっくりさせようと思って、アカデミー受験を黙っていたのは本当に悪かった。ごめん」


 「うっ、ううん。わっ、わたしは・・・・・・」


 (くすのき)さんはゆっくりと右手でおとかの肩を撫でた。

 「本土(ほんど)さん。本当に急な話でいろいろ気持ちが落ち着かないのは分かる。でも、私からもお願い。ここは佐貫(さぬき)君に協力してあげて」


 (くすのき)さんは優しく何度も何度もおとかの肩から背中を撫でた。


 そのせいか少しづつ落ち着いてきたようだ。


 「ねえ。お願い。本土(ほんど)さん」


 (くすのき)さんの再度の言葉に、おとかは小さく頷いた。

 「やっ、やります」


 (くすのき)さんはおとかの背中から手を放すと黙ってまた微笑んだ。


 ◇◇◇


 県内小学生の研究発表のテーマは「キツネがつくった町。A市」に決まった。


 おとかはこのテーマに強いし、僕も歴史も好きだからちょうどよかった。


 おまけに市立図書館だから、この町の郷土史の資料はたくさんある。


 はじめは当惑していたおとかだが、いざ、始まると僕より夢中になった。


 だけど、発表者を僕とおとかの連名にすることは、頑なに拒んだ。


 今回のことは、四郎(しろう)の未来のためのこと。四郎(しろう)一人の研究ってことにしないと協力出来ないと言って譲らない。


 僕は素直におとかの好意に甘えることにした。


 ◇◇◇


 研究発表の内容を作っていく作業は楽しい。坂上先生の言うような、変な大人がやることで、子どもがやることではないとはとても思えない。


 それをおとかに言うと、笑顔で賛同してくれた。


 (くすのき)さんは、時折、アドバイスをくれた。それは今振り返ってみても、驚くほど的を得ていたと思う。


 それに、図書館のパソコンが使わせてもらえて、パワーポイントを駆使したきれいな資料が作れたんだ。


 ◇◇◇


 研究発表の締切のちょうど一週間前、それは完成した。季節はもう冬に入っていた。


 真剣な表情で資料の最終確認をしてくれた(くすのき)さんは、最後のページを読み終わると、笑顔でOKサインを出した。


 「お疲れ様。凄いのが出来たっ! これならいけるよっ!」


 (くすのき)さんの言葉に、ぼくとおとかは笑顔で顔を見合わせた。


 「だけど、勝負はこれからだよ。発表は人前でやるんだからね。まあ、佐貫(さぬき)君なら大丈夫だと思うけど。私も応援に行くから」


 「わ、私も行く」


 まずは市の発表会。でも、これで勝って終わりじゃない。その次の県の発表会で最優秀賞をとらなければいけない。僕は気合を入れ直した。




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― 新着の感想 ―
[良い点]  だんだん話が盛り上がってきました。  進め方、ほんと上手いですよね。  がんばれ~四郎、おとか。 [一言]  楠さん、頼もしい味方ですね❗  今回、長い作品なので、凄く楽しませて戴いてま…
[一言] 子供が大人に正しさを自分の力で証明する! 難しいですよね!! 安易に校長(権力)に訴えたり、親に泣きついたりしないところが滅茶苦茶良いです!! こういう経験で色々学ぶんだなぁ……(´・ω…
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