表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
精霊機伝説  作者: 南雲遊火
朱と青の決闘編
66/110

第六十五章 決闘開始

 メタリアの城門前、少し開けた場所に、東西に分かれて対峙するヴァイオレント・ドール。


 その中央に──人影が、二つ。


 朱の髪の皇帝(ユーディン)と、青の髪の皇太子(アサル)

 にらみ合うように対峙して、静かに、向かい合う。


「どうしてまた、白兵戦なの?」

「どういう理屈かはわからないが、以前のように、また、妙な真似(・・・・)でもされたら、困るからな」


 この場において、精霊機は、信用ならん……そう、アサルは言葉をこぼした。


 並ぶVDには、お互いの国の、兵が待機。

 そう、双方ともに、何かあった場合(・・・・・・・)、すぐに行動が起こせるように。


 一触即発……まさしく、そんな状況だった。


 アサルは太刀の鞘を抜き、ユーディンも二本の仕込杖の鞘を抜く。


 今更ではあるものの、つい最近まで「体が弱く、足が悪い」という触れ込みであったため、本音を言うなら、皆の前でタネを明かしたくはなかったのだが──この場においては、致し方ないだろう。

 ……確実に、後日チェーザレから、雷が落ちるだろうが。


 静かに対峙する二人だったが、先に動いたのはアサルだった。

 素早く刀を振り下ろし、ユーディンに襲い掛かる。


 重く、そして強い金属のぶつかり合う音が、あたりに響き渡った。



  ◆◇◆



「決闘……?」


 眉間にしわを寄せ、ユーディンが唸る。


「そりゃ、現状からすると、願ったり(・・・・)叶ったり(・・・・)だけど……」

「……普通に考えりゃ、なーんか、裏がありそうじゃのぉ」


 青い精霊機を見上げながら、ユーディンとアックスがつぶやいた。


 墜落した衝撃と、先ほどの攻撃で、アレスフィードは現在、満足に動ける状況ではない。

 しかし、かといって、兵を率いるトップ同士が、決闘で雌雄を決するというのも、それはそれで、あっさりと納得できる状況でもなかった。


「君の言う通り、たぶん、裏があるだろうねぇ。……それこそ、ドサクサに紛れてVDの攻撃なんか受けたりしちゃったらボク、即死しちゃうだろうし」


 さすがに、二度目(・・・)は、無いかな──自身の金属の足をぺしぺしと叩き、はぁ……と、ユーディンは小さくため息を吐く。


 両親に連れられた、新型VDのお披露目会。

 仕組まれた(・・・・・)暴走事故──幼いころは、()のおかげで、なんとか助かったのだが──。


「陛下? その……もしかして……」

「うん? うん、そりゃ。ね。さすがにボクでも解ってるよ。モリオン(母上)が、ライラ(母上)じゃないことくらいは」


 ユーディンが、前皇后と勘違いし、姉を抱きしめて離さなかった案件は、アックスも聞いていた。

 以降、チェーザレに頼まれた姉が、ユーディンの元へ、『義足を作る』という建前で通っているということも。


「じゃったら、なんで……」

「うーん……なんでだろうね。よくわかんない(・・・・・)けど……あの時は、せっかく掴んだ()を、放したくなかった。母上と同じ顔で、同じように優しく笑ってくれた、彼女との縁をね……」


 そんな事より……と、ユーディンは逸れた話題を元に戻す。


 目下、相手の目的が、何なのか──。


「アックスは、その、アレイオラの記憶ってあるの?」

「へ? ──ああ。ある事はある」


 正しくは、アックスと同化した風の神(エヘイエー)。彼の持っていた、大切な『記憶』。


「あの皇太子って、どんな人間?」

「そうじゃのぉ……あくまで、前の操者(セト)からの情報(伝聞)じゃが……他人に厳しく、そして、それ以上に自分に厳しい。先手必勝かつ、最初から全力で、打つ手は容赦がない。それでいて……」


 アックスの脳裏に、幼く人懐っこい(自分の知らない)少年の笑顔がよぎり、ギリっと、歯を噛みしめる。


「弟思いの、良い(・・)兄ちゃん(・・・・)じゃ」



  ◆◇◆


 

 地の精霊の暴走に起因する地震。 

 何度か地面が大きく揺れたが、今は徐々におさまり、救助活動も本格的に動き出した丁度その頃。


「はい。こちら、アルヘナ隊、三等騎士(リイヤ)・ガレフィス」

「デカルト殿……」


 事前に聞いてはいたのだが、ルクレツィアは目を見開いて驚く。


三等騎士(リイヤ)・オブシディアン。ご無事でよかった」


 それで、どうかされましたか? と、新たに緑の元素騎士に選ばれたアルヘナ隊の隊長は、明るい茶の瞳を細め、にっこりと柔和に微笑んだ。


「陛下からの伝言を伝えます。現在、我が軍は、メタリア軍を制圧し、二等騎士(ラング)・ビリジャンを確保。その後、アレイオラの指揮官と交戦中……といいますか、一対一の決闘を行われています。現在進行形で、陛下()


 ……は? 思わずあんぐりと、デカルトの口が、大きく開かれた。


「その、大変な要求を突きつけるようで申し訳ないのだが……至急、メタリアの帝都まで、兵を動かしていただきたい。念には念をで、相手を挟み撃ちにしたい……とのことだ」

「ちょ……まってまってまって」


 それは困る! と叫ぶデカルトに、ルクレツィアは眉をひそめた。


「地震のせいで、建物の下敷きになった、複数の民間人がいる」

「なんだと!」


 一瞬、脳裏にマルーンの光景がよぎる。

 もっとも、あの時は火山の爆発が原因だったが──。


 デカルトは改めて、自身の現状をルクレツィアに伝えた。


「現在居る地点の近隣の町や村を廻り廻って、駐留していたアレイオラ軍を叩いて解放。現在、特に被害の酷い、三つの町を支援している状況です」

「しかし……こちらも、どうなることか……」


 ルクレツィアはユーディンに命じられた通り、メタリアの城の中から、外を傍受をして様子を窺っている。

 他の精霊機やVDと、通信ができることはできるのだが、外で敵軍とにらみ合っている状況では、皆、下手に動く事が出来ず、アレスフィードも現状は無人(・・)ということになっている。


『僭越ながら』


 突然、ミカが現れ、口を挟んだ。


『遊撃隊の大多数は、そのまま支援活動をしていただいて構いません。ただ、要となりますので、デメテリウスと、以下、二小隊ほど、こちらに向かってきていただけませんか? できれば、近接遠距離、様々な戦種のVDの機種を満遍なく分けた、バリエーション豊富な組み合わせで』


 作戦プランは、このように……と、ミカの言葉と同時に、大量の情報の中からはじき出した一つの作戦(・・・・・)が提示される。


「ミカ……これは……」

「あぁ。なるほど……しかし……」


 ルクレツィアは目を見開き、デカルトがうーんと唸る。

 デカルトの代わりに、「できるのか?」とルクレツィア。彼女の問いに、ミカは微笑んでうなずいた。


『エロヒム様は了承なされ、ルツとシャダイ・エル・カイからも、可能だと返信がありました。あとは……よろしい……ですわね。カルナーシュの王よ』

『……ふん。貴様(・・)は相変わらず、やることが姑息で気に入らん』


 だが……と、ヨシュアは忌々しそうに続ける。


『アドナイ・ツァバオトが了承をした。従う他あるまい』


 そう言うと、ぶっつりと通信を切ってしまったデメテリウス側に、ミカは残念そうにため息を吐いた。


「さて、ミカ……先ほど、陛下がおっしゃられていた件だが……」

『ええ。大当たり(・・・・)で、ございますわね』


 ハデスヘルが、ゆっくりと立ち上がる。

 ルクレツィアもまだ本調子ではないのだが、そんなことを言っている場合ではない。


 視線の先に、どこを通ってきたか、見慣れない複数の、ずんぐりとした機体が居る。


 外から、こちら側(・・・・)の様子は見えない。

 が、ハデスヘルが此処(・・)に居ることは、サフィニアを通じて、アレイオラ側に筒抜けだろう。


「外の決闘騒ぎのどさくさに紛れて、ハデスの奪取……まぁ、アレスを奪取した我らが、相手を咎めることはできぬ……が」


 ひい、ふう、みい──全部で、十機。


「そう簡単に、奪われてやるわけにはいかんな」

『ルクレツィア様!』


 ミカの言葉に、ルクレツィアは大きくうなずいた。

 ハデスヘルの目が、怪しく、赤く輝く。


「ハデス! |Chorus illusio《幻影と踊れ》!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ