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精霊機伝説  作者: 南雲遊火
新人元素騎士奮闘編
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第十章 美しきもの

「断る」


 開口一番、青年は胡散臭げにモルガを見下ろしながら、短くきっぱりと言い切った。


 貴族の邸宅が並ぶ通りから、少し奥に入ったところに、その屋敷はあった。

 一般人(モルガ)の感覚で言うと、十分に大きな家ではあるのだが、その屋敷の主が、あの宰相の親類縁者であり、かつ、元々この国の皇后になるはずであった、隣国の皇女の夫であることを踏まえるならば、かなり小さいような気がする。


「そ、そんな。いきなりバッサリと……」

「そうですわー。お話くらいは、聞いてあげてもよろしいのではないでしょうかー」


 慌てて──否、サフィニアはいつも通りではあるのだが、妹と細君の言葉に、男は少しも気を変える気配はない。


 ソル=プラーナ。

 宰相ベルゲル=プラーナの従弟にあたる男の末の息子で、炎の元素騎士ステラ=プラーナのすぐ上の兄。

 ……といっても、七歳ほど年が離れており、二十二歳にしては童顔で、正直言うと、モルガより年下に見えた。


 国内に二十五あるVD格納庫。そのうちの、第五格納庫の管理と整備を任される彼は、当代一の若き天才と名高く、モルガからすれば雲の上の存在……憧れの人だった。


 それでも、妹はともかく、妻の言葉が多少は効いたのか、ソルは、ため息を吐きながら、「大体……」と、口を開いた。


「ソイツ、(くだん)の伝説級の何某(ナニガシ)だろうが」


 操者なら操者らしく、大人しく自分の任務に専念しろ……と、ソルは取りつく島もない。


「もっともだな」

「んなッ!」


 何故かついて来ていたルクレツィアがうなずき、モルガが絶句し、口を開いた。


「ちょ……大体ワシゃあ、VD技師になるために帝都に来たんであって、どっちかっちゅーと、元素騎士の方がついで(・・・)なんじゃが……」

「……騎士どもが聞いたら、泡吹いて卒倒する話だな」


 何の脈略もなく、ポッと出の貴様にあっさりその座を奪われた連中の、プライドとメンツはガタガタだ……と、確か前にチェーザレに似たような事を言われたような気がするが、そう言われても、長年くすぶっていた夢は、そうそう簡単に、諦められるわけがない。


 再びため息を吐き、ソルはモルガを睨み、口をひらいた。


「じゃぁ、興味ないし、聞いたところで雇う気もないが、一応聞いてやろう。なんで、そこまでVD技師になりたいんだ」


「そりゃぁもう! 子どもの頃からの夢だからじゃ!」


 今から十三年前。モルガが四歳の頃。

 母の仕事でマルーンから離れ、弟のアックスとともに帝都に滞在していた時期があった。


 その道中で、敵国(アレイオラ)との戦闘に巻き込まれたことがあり、そこで初めて見た、巨大な金属の人型兵器。


 美しい……と思った。


 思い返せば、近くで爆発が起こったり、金属片が降ってきたりと、恐ろしい経験だったと思う。

 それでも、あの時の光景が、目に焼き付いて、離れない……。


 その、美しい機体を、いつか、自分の手で『造ってみたい』と、思うようになった。

 今でも、その思いは、変わらない……。


「却下」


 熱く語るモルガに向かって、ソルは途中で話を遮った。

 先ほど以上にギロリと睨み、「やはり、貴様には向いていない」と、バッサリモルガを斬り捨てる。


「いいか! ヴァイオレント・ドールは、操者を守る、防具であり武器だ」


 美しいもの(・・・・・)を作りたければ、|芸術家にでもなるがいい《・・・・・・・・・・・》。



  ◆◇◆



 ぶんぶんと木刀を振り回すユーディンの横で、チェーザレが優雅に椅子に座り、何かを読みふけっている。


「ねー、それ、緑の帝国(メタリア)から? それとも、光の帝国(アリアートナディアル)から?」

「メタリアからの親書だな。アリアートの方からも、昨日届いてはいたが……」


 淡々とチェーザレが答える。視線は手紙から動かそうとはしないが、主の話はちゃんと聴いているようで、的確に答えていた。


 汗を拭きながら、興味深げに、ユーディンはチェーザレの後ろから、手紙をのぞき込む。


「なぁに? また援軍要請? 最近多いね……」

「あぁ……そろそろ、あの二国も、厳しいかもしれないな……」


 ラング・ビリジャン(サフィニア)には、とても聞かせられないが……と、珍しく他人を気遣うチェーザレに、思わずユーディンの頬が緩む。


 主の様子に気がついたか、チェーザレは、コホン……と、小さく咳払いをして、場を誤魔化した。


「でも、それを見越しての精霊機……だよね。結納品だったり、貸与だったり……」

「あぁ……」


 本来、フェリンランシャオ帝国に属している機体は、ヘパイスト・ヘルメガータ・ハデスヘルの三機のみ。


 国同士の面子を保つため、表向きな話として『結納品』や『貸与』という形をとったが、同盟国メタリアからはデメテリウスを、同じくアリアートナディアルからはデウスヘーラーを、実質的には敵国(アレイオラ)から一番遠く離れたフェリンランシャオに『避難』させているというのが現状であった。


 代わりに、二国の危機にはフェリンランシャオは必ず援軍を出さなければならないし、軍事費用もフェリンランシャオ持ちである。


「ったく、アレイオラもさー……もうちょっと話聴いてくれてもいいような気がするよねぇ……」


 迷惑千万……と、ユーディンがめんどくさそうにため息を吐いた。


 敵国──水の帝国(アレイオラ)は、地の帝国(イシャンバル)を、風の帝国(リーゼガリアス)を、そして闇の帝国(トレドット)を飲み込んで、どんどん侵攻してくる。


 戦神と破壊神が人々が住まう大地を駆け抜けたため、大混乱とともに、大きな戦いが始まった……などと伝承では言われてはいるが、もう何百、何千と月日を重ねた今では、本当の意味での『戦争のきっかけ』なんて、今を生きる者にはわからない。


 でも、相手は攻め込んでくるし、対話を申し込んでも返事すらない状況が続くばかり。

 こちらも、やれることをやらなければ、滅ぶだけ……。


「というわけで、軍を二つに分けることになりそうですが……あの伝説級、如何しましょう? いきなり初陣ですか?」


 うーん……と、ユーディンが腕を組む。


「いつかは通る道だから、ここは心を鬼にして……良い……んじゃないかな?」


 御意……と答えるチェーザレに、「あ……」と、ユーディンが声を漏らす。


「階級、どうしよ? 無いとやっぱ、困る……よね……」

「あぁ……そういえば……」


 フェリンランシャオの騎士は、技量により、十三の等級に分けられている。

 さらに、VDに乗るためには八等騎士以上に昇格しなければならないし、精霊機の操者ともなると、三等騎士以上は必要。


 特例で五等騎士からスタートした例はあるものの、一般人がいきなり精霊機の操者に選ばれた例など皆無。


「反感、必至だよねぇ……」


 眉間にしわを寄せ、悩むユーディンに対し、「ふむ……」と、チェーザレはうなずく。


「ヤツに、アレ(・・)を、くれてやるのはどうだろう?」

「アレ?」


 ごにょごにょ……と、耳元でささやいた。


「あ……ナルホド……それ良いカモ」



  ◆◇◆



「と、いうわけで、モルガには、『一等騎士(ラジェ)』の称号を与えます!」


 翌日、落ち込みながら、会議に出席したモルガに、ユーディンが抱き付きながら報告する。


 スキンシップの激しい皇帝を押しのけながら、「はぁ?」と、モルガは仮面越しではあるが、状況がよくわからんと、リアクションを返した。


 会議に出席している宰相含め、一同(チェーザレとサフィニア以外)、ポカンとした顔を浮かべる。


「ちょ、いや……それは、さすがに優遇し過ぎじゃないかのぉ……」

「大丈夫だ」


 ニヤニヤと笑うチェーザレの顏に、モルガは、そこはかとなく嫌な予感がよぎった。


「誰も文句は言わないし、反対しない。羨む者も、間違いなくいない筈だ。何故なら」


 チェーザレの言葉に、モルガは唖然とした。


一等騎士(ラジェ)は、アレイオラとの戦闘で亡くなった、VD騎士に捧げる階級だからな」


 縁起が悪すぎて、欲しがる者などいないだろう……。どうだこの妙案! とでも言いたげな隊長のドヤ顔に、モルガはもう、ため息も出なかった。


 なんじゃろ……もう……この、泣きっ面に蜂感は……。

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